兄と妹
四郎たちは無事ランド大橋を超えて帝国入りを果たしていた。
帝国というのはサファイア帝国の事であり現在は皇帝グレジン・サファイアにより統治されている。大陸の西方に位置し西海に接している。海の向こうには竜の国、ドラゴアとも交流がある。王国とも仲は良い。
そして今四郎たちはハルシヲンという街に来ていた。
「ここが帝国か」
「はい。ここから武道大会が行われる帝都メサイアまではそう離れていないので楽に行けると思いますよ」
帝都メサイアは今いるハルシヲンから南に行かねばならない。ちなみに北には山脈があり、そこは国境となっている。
「じゃあさっさと…」
「どうせならハルシヲンで観光していくわよっ!」
ティカがノリノリで四郎の腕を引っ張って行く。ランド大橋から引き続きティカは浮かれている。
「あ…おい!嫌だよ。観光なんて面倒だ…」
「師匠うるさい」
四郎はティカにずるずると引きずられてそのまま人混みに消えてしまった。
「あらあら行っちゃいましたね」
「そうね。私たちはどうする?」
「宿屋でも探すか。四郎には後で<光字>を送っておけばいいだろう」
そう言って三人も人混みの中に消えて行った。
「………はぐれちった」
いつの間にかティカとはぐれてしまった四郎は特に慌てた様子もなく言った。
立ち止まっていても仕方ないと思った四郎はとりあえず歩く。とはいっても土地勘がないので歩いても余計に自分の居場所が分からなくなるだけだった。
「困った…」
「…何が困ったの?」
突然声を掛けられた四郎はゆっくりと背後を振り返った。そこにいたのは美少女だった。
真っ白な髪の毛に赤い瞳。目尻が垂れており可愛いという表現がぴったりの女の子だ。恐らく12歳くらいだろう。
「いや友達とはぐれちゃってね」
「…金髪の女の子?」
「そうそう。何で知ってるんだ?」
「…さっき一緒にいるの見た」
少女がつまらなさそうに答えた。あまり表情の変化がないので恐らくこれが地なのだろう。
「そーゆー君は一人でどうしたの?」
四郎は少女が恐がらないように優しく問い掛ける。
「…迷子なの」
「………………そ、そうなのか」
思わずフリーズしてしまった四郎。
「俺はシロー・タチバナ。君は?」
「アミア」
とりあえず名前を聞くとあっさりと答える少女アミア。
「そっか。アミアちゃんか。一人で来たの?」
「…ううん。お兄ちゃんと」
「お兄ちゃん?」
「…うん。でもお兄ちゃん美人が俺を呼んでいるって言っていなくなっちゃった」
「………」
思わず閉口する四郎。それはそうだろう。そんな阿呆な行動するのはもちろんの事、こんな幼い妹まで残して行ってしまうのだ。これで黙らずにいつ黙ればあいのだ。
「…でもお兄ちゃんすぐに戻ってくる。どうせフラれるから」
「何でそう思うの?」
「…お兄ちゃん顔はいいけどガッツきすぎだから」
意外にまともな理由に四郎は感心する。
「…そうか。アミアちゃんも大変だな」
落ち着きのないティカに振り回される四郎はアミアにシンパシーを感じたようだ。
「…うん。シローさんも大変そう」
「ははは…」
乾いた笑いを浮かべる四郎。
「これからアミアちゃんはどうするの?」
「…ここにいる。多分お兄ちゃんが見つけてくれる」
「ならそれまで俺もここにいてあげるよ。一人だと色々と危ないからね」
「…ありがと」
そんなやり取りをしてからしばらく待っていると不意に人混みの奥から声が聞こえた。
「おぉ~い、アミア~!!どっこですか~」
何となく気が抜けるような声だ。
「…こっち」
アミアは小さくそう呟いただけなのに兄とやらはその声に気付いたようで真っ直ぐ四郎のいる方まで歩いて来た。
「いやはや、やっと見つけたよアミア。ダメだぞ勝手にはぐれちゃ」
現れた青年は隣にいる四郎については全く眼に入っていないようですぐにアミアと話し込む。
「…はぐれたのはお兄ちゃん」
「ぎくぅっ!?」
「…しかもまたナンパ失敗?」
「ぬぺっ!!??」
アミアに言い負かされて青年は沈んでしまった。
「すんませんしたっ!」
「…いい。シローさんが助けてくれたから」
そこでようやく四郎に気付いた青年。
「まじかっ!お兄さん妹が迷惑かけてすんませんっ!」
「あ、ああ…気にすんなよ。ええと…」
迷惑かけたのはお前だろうと言おうとして止めたのは四郎なりの配慮なのだろう。
「俺はジャンだぜ。ジャン・ジャンクス!よろしくお兄さんっ!!」
青年はそう名乗った。




