過去?
スレイターたちとの交渉を終えた四郎一味は宿へと帰って来ていた。既にシャルビィとネミリアもコルク村から回収し終えている。
「米食いてー」
皆で夕食を食べている時、四郎が不意にそう言った。
「米って何よ?」
だいたいこの手の会話に最初に喰い付いてくるのはティカだ。メンバーの中で年齢も一番低く、お嬢様だったため好奇心旺盛なのである。
「ライスだよライス」
「ほう…ライスとはまた珍しいな」
「知ってんのか、シャル」
「ああ。私の出身地の近くにある村の名産品だ。もっとも名産品といっても小さい村だから大して出回ってはいないけどな」
「へー。俺のいた世界の俺の国だとライスは主食だったんだよね」
「なるほど。故郷の味が恋しいって訳ね。シローちゃんホームシック?」
ネミリアがにやにやとしながら四郎を抱き寄せようとする。しかしその手を妨害する手があった。
「うふふ、シロー様ったら寂しいなら私の胸で泣いて下さいね」
もちろんミリーだ。ミリーは四郎にベタ惚れどころか盲信しているのでネミリアの軽薄な行動を許せなかったのだろう。
「いや寂しくないから」
しかし相手は四郎。フラグは立てるが回収する気はさらさら無いようである。あっさりとネミリアとミリーの発言を一刀両断してしまった。
「師匠モテモテね」
「本人にその気はないようだがな」
などとティカとシャルビィが話し合っている。しかしこの二人も四郎を憎からず想っている。
「そういえば師匠の世界ってどんな所だったの?」
急に思い付いたようにティカが尋ねる。四郎にティカだけでなく全員の視線が集まる。どうやら全員四郎のいた世界の事が気になるようだ。正確には四郎の世界ではなく、四郎の過去、だと思うが。
「ん?魔法がない世界だったぜ」
「えっ!?でも師匠って魔法使ってるじゃん」
「まぁね。あっちの世界で魔法使えてたのは俺くらいしかいなかったし」
そう言うとティカが呆れたような顔をする。
「やっぱり師匠は化け物ね。魔法がない世界で魔法を使うなんて」
四郎以外の全員がうんうんと頷いている。
「確かにな。だからあんまり向こうじゃ魔法は使わなかったし。まぁ俺が魔法使えるのを知ってたのは家族と茜くらいだし」
四郎は自分が迂闊な発言をした事に気付いていない。しかしそれを見逃す程、女性陣は甘くは無かった。
「「「「茜?」」」」
その結果、全員見事にハモった。
「茜って誰ですか?シロー様」
「ん?彼女」
「か、かかかか彼女!!??」
ミリーが四郎の爆弾発言にテンパってしまっている。ミリーだけでなく他の女性陣も同様だ。
「ああ。まぁ付き合ってるって言っても形だけみたいなもんだったけどな。どちらかというとボディーガード兼つゆばらい的な感じだったし」
四郎はからからと笑いながら懐かしそうに話す。
「好き合ってたんではないんですか?」
四郎の発言で余裕を取り戻したミリーは真実を確かめるべく更に踏み込む。
「全然」
「ならどうして付き合ってたんですか?」
「そいつは秘密だ」
それだけ言って席を立つ四郎。ごちそうさまとだけ言って食堂から出て行ってしまった。残ったメンバーはお互いに顔を見合わせている。
「どう思います?さっきのシロー様の発言」
「師匠が好き合ってないって言うんなら本当じゃない?無意味に嘘を吐くような人じないし」
「無意味な嘘はね…」
昼間にスレイターたちを説得していた時に嘘を言いまくっていたが、そんな事はすっかり忘れているティカだった。
「だが好きでもそうでないにしろあまり話したそうではなかったな」
「そうね~、私はまだ新入りだけど他の皆はシローちゃんの過去について何か知らないのかしら?」
「知らんな」
「知らないわよ」
「知らないです」
ここに来てようやく四人は気付いた。自分たちを導いた男について何も知らない事を。
圧倒的な力を持ち、人を救い、更には世界そのものまで救おうとしている異世界から来た少年。
結局、この日は四郎について知っている限りをお互いに話し合うというガールズトークで四人は盛り上がった。
部屋に戻った四郎は冷や汗をかいていた。
「あ、あぶねぇ。言えねーよなぁ。魔法使ってんのをうっかり見られて、そのあげく脅されて付き合うことになったなんて…」
自分の恥ずかしい過去がバレずにホッとしている四郎だった。




