スレイターに会おう9
「ああ。王女様からの密命だ」
ここで四郎は大きな嘘を吐いた。自分たちの背後に国がいることを匂わせることで余計な探りを排除しようという考えたのだ。
「お、王女様…からだと…?」
カトンは驚きと不信感が半々に籠もった眼で四郎を見つめた。王女は少なくとも四郎に借り、それも人生を救われたという大きな借りが存在するので何かあれば協力してくれるだろうと踏んでいるのだ。
Fリストにも登録してあるので連絡もいつでも出来る上、わざわざ四郎たちの後ろを追って来ている人物がいるのだ。いくらでも誤魔化しが効く。
「ああ。とは言ってもこの密命を正式に受けたのは最近だ。王女様の目と足を治すっていう大仕事が終わったからなし崩し的にそのまま頼まれたんだ」
四郎は正式に、という言葉を強調しながら言った。嘘と真実を織り交ぜて巧みに誘導する四郎。王女の目と足を治した、というのをさも当然かのように言うことで真実味を帯びさせるのだ。もっとも王女を治療したのは事実であるが。
「ティカ、彼が言ってる事は本当なのか?」
ここに来てようやくスレイターが話に参加して来た。四郎ではなくティカに尋ねたのは三人の中で一番信頼出来るからだろう。
「……王女様を治したのは本当よ。それに異常について調べているのも本当」
ティカを含む<救いの手>のメンバーには王女の治療をしたのが自分だと伝えているので素直な事実だけを伝えるティカ。その愚直な所はティカの長所でもあり短所でもある。
「なるほどな。異常と王女様の病気について調べていて、第一優先の王女様の治療が終わったから正式に異常の捜査についての許可をもらった訳か」
十あるうちの十を全て語る必要はない。相手は優秀なのだから一を語って都合のいい十へと誘導するだけでいいのだ。王女の許可なんか貰っていないし、貰った所で国王の許可ではないのだから大した使い道があるとも思えない。
だが政治的なやり取りではなく個人のやり取りならば王女というフレーズは大きく作用する。そこを四郎は狙ったのだ。個人として交渉を仕掛け、それがいつの間にか<救いの手>と王都騎士団との繋がりになる事を。
「そーゆーこと。でもいくら俺たちでもチームで調べるには限界がある。だからティカと兄妹であるスレイターさん、ひいてはそのスレイターさんが所属する王都騎士団にも協力してもらおうと思ったんだ」
「だが俺たちはアステリからは大して動けないし、ましてや他の国にいったりは出来ないからあまり役に立たないんじゃないか?」
カトンは四郎の事を信用したかはとりあえず置いといて疑問に思った事を口にした。しかし疑問を口にしたという事は話を呑み込んでいるという事である。よってこの時点で四郎からの協力を引き受けたようなものである。
「俺たちは近々帝国に行くんだ」
「帝国って…大会か?」
「ああ。もしこの異常が人為的なものであるにしろないにしろ、大会で大勢の人が集まるんだ。当然情報も集まる」
「なるほどな。その帝国に行っている間の情報が欲しいという訳か」
「そゆこと。協力してくれるか?」
「ああ。密命とはいえ王女様からの依頼だ。断る理由がない」
そう言ってカトンが手を差し出す。四郎はこっちの世界でも握手なんて風習があるんだなと思いつつもその手を握る。
「よろしく」
こうして無事、王都騎士団からの協力を取り付けたのだ。もっとも今は第二部隊だけという微妙な状態だが。
「ちなみに第一部隊長はどんな人?」
これから協力を取り付ける予定なので四郎としては是非聞いておきたい所だった。出来ればカトンに説得して欲しいと考えたりもしているが。
「強いぜ」
「変わった男…いや女か?」
スレイターの答えはシンプルだったがカトンの答えはいまいち要領をえない。
「一筋縄では?」
「「いかない」」
ここだけは二人揃って同じ答えを出した。四郎は頭を抱え込んだ。
「まぁアイツの説得なら俺がしておこう」
結局、最後はカトンの空気を読んだ発言により無事お話は終わった。




