スレイターに会おう2
カトン・ターカーは焦っていた。そしてそれ以上に興奮していた。カトンにとって戦場はあくまでもオマケでしかなかった。欲しいのは名誉から釣れる女や酒であり決して戦いではない。名誉を求めたおかげで女には困らなかったし、数多くの女と寝られた。
しかし今となっては女にも酒にもそれ程の価値を感じない。理由は簡単だ。カトンにも愛すべき人が出来たからである。自分のような人間を好いてくれて支えてくれる愛しき妻。それだけでカトンには十分だった。
そんな妻に心配を掛けたくなかった。だから第二部隊長になってからは引退を見据えつつ、若手の育成に力を注いだ。
そして出会った。スレイター・ファーフードに。貴族、しかもファーフード家の長男なのに騎士をしているという変わり者である。しかしその実力はかなりのものだった。その実力を初めて見た時にカトンは決めた。彼に全てを教えることが出来たら引退しよう、と。
そして今日は実戦も兼ねて森へ来ていた。一応、近頃森で起きている様々な異常を調査するという形をとってだが。
「逃げろ、スレイター」
しかしその異常の原因というのが二人の想像していたよも遥かに危険なものだった。
「しかし隊長!!」
異常の原因は一匹の魔物だったのだ。それも災害級と称される程の。
「お前はアステリへ戻り、王都騎士団全部隊に連絡するんだ。それまでは俺の命をもって時間を稼ぐ」
<ドラッグマーカー>
ありとあらゆる腐敗をもたらす異形の騎士。全身が毒々しい紫色の鎧で出来ており、中身は空洞だがそこには常に人間の悪意が渦巻いているという災害級の魔物だ。
その強さは王都騎士団が総掛かりで戦ってもギリギリ勝てるかどうかだ。最近、森で起きていた異常は全てドラッグマーカーによる腐敗が原因だったのだ。
そんな化け物が今二人の前にいる。もしここで二人とも死んでしまったらこの危機を他の誰にもか伝える事が出来ない。それは王都アステリのひいてはアステリ王国の危機に直結する。故に一人が足止めをしている間にもう一人が危機を知らせに行く、というのが一番の策なのだ。
だがカトンが足止めを希望した理由はそれだけではない。この優秀な後輩を死なせたくなかったからだ。そしてそれ以上に自身にとって限界以上の敵と戦えるのがカトンにとって喜びだったのだ。カトンは決して戦いが好きではない。それでも幼少の頃から戦い続けていたのだ。それはもうカトンの一部だった。故に自身の力を全てを開放出来るというのは喜ばしい事だったのだ。
「分かりました!必ず戻ります!必ず戻りますから!!」
スレイターはその先の台詞をあえて言わずに走り出した。カトンはそんな頼もしい後輩を見送りつつ剣を構える。ドラッグマーカーを見据える。
「来い化け物。このカトン・ターカーが相手だ」
街の外へ引きずられていった俺は謝罪に謝罪を繰り返しようやくミリーから解放された。
「非道い目にあったぜ」
「シロー様が悪いです」
ミリーが可愛らしく頬を膨らませながら言う。ティカが後ろでくすくすと笑っている。
「とりあえず森へ行くか。あそこの森でいんだろ?」
俺は少し先にある緑を指差す。森はなかなかの規模のようだ。少なくともコルク村の脇にあった森よりは大きい。
「そうよ。さっそく行きましょ」
ティカが俺とミリーを抜いて先頭に出る。ティカはお嬢様なのでこういうアウトドアな事はあまりしたことがないのだろう。ワクワクしてるのが見て取れる。
「ふふ、ティカちゃん楽しそうね」
「そーだな」
なんとなく心が安らぐ。ここに来てからは色々あったからな。あまり休んだりもしてなかったし。
「師匠~ミリ~、早く行くわよー!」
「はしゃぎすぎだろオイ」
「ティカちゃん子供みたい」
「あたしは子供じゃないわよ!しゅ、淑女よっ!」
「ぷっ」
俺が笑った瞬間にティカから蹴りが飛んでくる。油断していたのでモロに顔面に喰らってしまった。
「いふぁい」
「自業自得よ」
ぷんすかと怒ったティカはミリーに絡まっている。いつの間にそんなに仲良くなったんだ。
「シロー様早く行きますよ」
三人でわいわいと騒ぎながら森まで歩いていく。
森の入り口まで来た時、かなりの違和感を感じた。隣にいるミリーに目配せをする。ミリーもこちらを見ていた。
「どうやらまた一波乱ありそうだな」
俺は二人に聞こえないように呟いた。




