商会に持ち込む2
「か、革命だ…」
俺の差し出した一冊を読み終えてダンディーさんが震えながら呟いた。わなわなしている。
「どうでしょうか?出版出来ますかね」
とりあえず答えは分かりきっているが尋ねておく。こういうやりとりも商売には必要不可欠なのである。
「三冊とも素晴らしい!特に最後のは別格ですな。こんなものは初めて見ました。斬新な発想ですな。絵で物語を綴るとは」
そう、俺が最後に差し出したのは漫画だ。この世界には漫画が存在していなかったのでチャンスだと思ってとりあえず描いてみたのだ。ソロでランク上げしている合間に。
推理小説、恋愛小説、漫画をとりあえず書いて、この世界に流通していないものを出版してもらおうと思っていたので三冊とも市場には無かったのは幸いだ。
「では出版は可能でしょうか?」
「ええ、ええ!もちろん!申し遅れました。私の名前はセバスチンと申します」
と興奮しながら名乗ってきたダンディーさんもといセバスチンさん。セバスチャンではないらしい。まぁ執事っぽいけど執事じゃないしな。微妙なズレが生んだ奇跡なのだろう。
「私はシロー・タチバナ。ペンネームはロー・タバナです」
「ではローさんとお呼び致しましょう。ただいま契約書を持って参りますので、しばしお待ち下さい」
セバスチンさんは席を立って部屋から出て行く。入れ替わりに従業員が入ってきてカップを盆に乗せて戻っていった。この従業員も動きはそのまま執事だ。
しばらくするとセバスチンさんが紙束を持って戻って来る。
「お待たせしました。こちらが契約書です」
手渡された契約書をザッと確認する。どうやらまともな契約書のようで俺に利益が入って来ないなんて事はないだろう。サインをして紙束をセバスチンさんへと渡す。
「ええ。契約を確認致しました。では何か質問などありますかな?」
「本はいつ頃市場に?」
「そうですな、この三冊は恐らく最優先で印刷に回されるので市場に並ぶまでひと月。ローさんの手元にお金がいくのは大体半年後くらいですかな」
「なるほど」
「質問は以上ですかな?」
「ええ」
「ではこれからもセバス商会を宜しくお願い致します」
最後に挨拶だけをして俺は邸を去った。しかしセバス商会。恐ろしい名前だ。まるで執事のための商会みたいじゃないか。まぁセバスの後に省略されているのはチャンではなくチンだと思うが。
「さてと……出来れば貴族との間にもパイプが欲しいんだがなぁ」
そう言ってからすぐに貴族とのパイプは既にあったことを思い出した。
ファーフード家である。ティカがいるのはもちろんの事、ティカを救出したという事もファーフード家との繋がりをより強固なものとしている。
「実は意外にお嬢様なんだよな、ティカって」
アステリ王国は主に王都アステリを含めた六つの大都市から成り立っている。そのうちの一つがガルトなのだ。つまりその大都市の領主をしているファーフード家はかなりの大貴族なのだ。ただ六つの大都市の中では一番下だが。
という事は既にこの国とのパイプは手に入れたことになる。ならばもうこの国にこれ以上いる必要もない。他の国へ移り、新たなパイプを作るべきだろう。場所としては帝国か獣人国が一番近い。果たしてどちらにするべきか。
そんな事を考えながら街の中を彷徨いているとふと街人たちの会話が耳に入って来た。
「今年の武道大会は帝国らしいぜ」「うげ、帝国は治安悪いんだよなぁ。見に行きたいけど恐いな」「確かになぁ」「最近山賊たちも活動が活発化して来てるとか言うし」
武道大会?
帝国でそんな事をやるのか。となるとかなり大勢の人が集まるはずだ。もしかしたら『黒の眷族』がどさくさに紛れて何かしら行動を起こすかもしれない。逆に帝国以外を襲うという選択肢もあるかもしれないが、それは大会が開かれても他の国の警備が薄くなるという事にはならないので大丈夫なはずだ。
「とすると次の行き先は帝国か…」
さっきの人たちの話を聞いた感じだと帝国は治安が悪いらしい。正直あまり行く気はしないが仕事だと諦めるしかない。まぁ英雄が仕事ってどうよと思わなくもないが。
帝国行きは今俺たちがしている活動を終わらせてからだろう。問題は武道大会の日程だがその気になれば1日で着けるだろうし問題はない。
次のパイプは帝国に繋げるか。結局その日はそれで終わった。




