商会に持ち込む1
「う~ん…」
王女と別れた後、宿で一夜を明かし今は街の中をうろついている。というのも王族とのパイプだけでは足りないと思っているからだ。恐らくこれから王族からの何かしらのアプローチがあるだろうが俺としてはこれ以上面倒事は勘弁だ。仕官なんかもするつもりは一切ない。世界を救うだけで精一杯だ。
つまりアプローチをかわすためにも王族とは別のパイプが欲しいという事だ。王族とのパイプは恩義、義理で繋がっているのでもう一つは別の形にしたい。これは同時の裏切りを避けるためだ。
もし両方とも恩義で繋がっていた場合、何かしらの時に同時に切り捨てられる可能性があるということだ。しかし片一方が恩義で、もう片一方が金銭による繋がりだったらば、両方同時に裏切りられる可能性は限りなく低くなるのだ。
俺が狙っているのは商会だ。俺はこの世界の人間ではない。ならばこの世界にない技術や娯楽を持ち込むのはどうかという考えだ。しかもこれなら金も大量に手に入るので一石二鳥だ。
今のところ考えているのは本だ。料理という線も考えたがここの食べ物は地球と全然違うので再現出来る自信がない。技術に関しては論外だ。俺には特別な知識など何もない。それに本なら簡単に作れるしな。
という訳で今は街でこの世界の様々な本を見て回っている。思っていたより本がどこにでも売っている事を見ると意外にも紙はそれ程貴重なものではないらしい。それに同じ本が量産されているので印刷技術もそこそこ発達しているのだろう。これは俺にとってラッキーだ。
「すいませーん」
とりあえず出版社らしき場所に入ってみる。すると中から髭がダンディーなオジサンが出てきた。渋くてかなり格好いいんだが(笑)
「何かご用で?」
執事とも取れるような優雅な動きをするダンディーさん。
「本のアイデアがあるんだが」
「作家希望という事ですかな?」
「ああ」
「ふむ。ではどうぞ、中へお入り下さい」
ダンディーさんに中へと案内される。中は思ったより豪華で高級そうな壺や絵画が見受けられた。やはり思った通りここはなかなか有能な商会のようだ。俺はとある一室に通され座らされる。従業員らしき人物が紅茶を淹れてくれた。
「さて、作家といいましたな。どんなアイデアをお持ちで?」
「推理小説と恋愛小説だ」
ファンタジーだと売れない危険性がある。なんせこの世界がファンタジーだしな。もしかして英雄譚なら売れるかもしれないがわざわざ賭けに出る必要もあるまい。
「恋愛小説は分かりますが推理小説とは聞いたことありませんな」
俺は手っ取り早く現物を渡す。もちろん俺が書いたやつだ。アステリに着くまで皆特訓ばかりだったのでそこで推理小説と恋愛小説を書いたのだ。内容は地球ではありきたりのパクり作品だけどね。
「…ふむ…ふむふむ……ううむ……むむむっ!」
パラパラと恋愛小説をめくっていくダンディーさん。どうやら速読をしているようだ。
「素晴らしい!この恋愛小説は!!」
どうやらお気に召したらしい。こちらの本は堅苦しい物語ばかりでほとんどが貴族視点のものなので似通った作品しかない。なので俺は平民視点の物語。シンデレラ・ストーリーを書いたのだ。
「ではこちらも………ふむ…ん……うむ………おぉ!」
推理小説を読んでいるダンディーさんの表情がコロコロと変わる。ちなみにこちらのストーリーは単純。貴族の宅で起きた使用人殺人事件をその貴族の息子が解決するというものだ。
「すごいですな!どちらも素晴らしい!!」
ダンディーさんはべた褒めだった。しかしそれだけでは終わらない。
「実はもう一冊ありまして…」
ニヤリと悪代官風に笑う俺。するとダンディーさんも気分が乗っているようで髭を撫でながら軽く笑う。
「どうぞ」
俺が差し出し物を見てダンディーさんが驚愕する。俺はそれを愉快そうに眺める。
「…こ、これは?」
予想以上に食い付いてきた。この時が資金もパイプも両方手に入ったと確信した瞬間だった。




