遭遇戦(ミリーの場合2)
「見せてあげましょう。シロー様との愛の結晶を」
厳かな雰囲気を醸し出し宣言するミリー。もしこの場にティカがいたら「愛の結晶じゃないでしょ!!」とツッコミを入れていただろう。
「ガハハ、最高だお嬢ちゃん!」
ジェンガはハンマーを振り上げる。その動作は荒々しく自らの力を貫かんとしている者の動きだ。一方、ミリーは両手を広げる。その動作は流れるように美しく、瞳には慈愛が浮かんでいた。
「唸りな!邪神器<狼>!!」
ジェンガは黒い魔力<邪>を邪神器に注ぎ込み飛び上がる。邪神器であるハンマーを自分より下に置き、抉るように地面に叩き付ける。
轟音と共に大地がひび割れ隆起する。その激しい大地のうねりがミリーが呑み込む。ジェンガは地面に足を下ろし、ミリーが呑み込まれた場所を凝視した。その瞳には驚愕が浮かんでいた。
「無傷…だと…?」
ミリーは隆起した大地の隙間を縫うようにして優雅に出て来た。その身体には傷一つない。ミリーは口元に笑みを浮かべる。四郎たちの前で浮かべる笑みとは全く違う妖艶な笑みを。
「<流心・欄外>。私は水竜の一族です。水竜は自らが流れの中心であるのを示すために角が生えています。私の使った魔法はその角を使ったものです。まぁ簡単に言えば流れを操ったということです」
「おいおい、お嬢ちゃん。そんな簡単にネタばらししていいのかい?」
ジェンガが意地悪そうな瞳をミリーへ向ける。
「構いません。バレた所で貴方が私に勝てないのは変わりないですから」
「でもその魔法は能動的には使えない、だろう?」
ジェンガはガラガラと喉を震わせて笑う。ミリーも愛想笑いをする。正直、二人とも気味が悪かった。
「そうですよ?ですが問題はありません。攻撃しなければ私を倒す事は出来ないんですから」
その言葉を皮切りに二人は戦闘を再開する。獣人の特性を最大限生かして高速で移動するジェンガ。風を切る音が響く。それに対しミリーは自ら動こうとはしない。ただ周りに視線を這わせてただ観察する。
ジェンガがミリーの右後方から鋭い蹴りを放ってくる。空中で足場がないのにその威力は異常だ。しかしミリーは<流心・欄外>でその流れを排除する。蹴りが外れるのを予想していたジェンガは自らの身体の後ろに隠していた邪神器<狼>を振り抜く。<邪>を取り込んだハンマー黒い雷を放電する。
「<流心・渦中>」
黒い雷は全てミリーの角に引き寄せられた。そのままハンマーを流れるような動作でかわしながら黒い雷を纏った角をジェンガへ向ける。
「…なっ!?」
角から放たれた雷撃はジェンガへ直撃する。バヂバヂという凶悪な音と共にジェンガの身体から黒い煙が上がった。その身はすでに満身創痍だ。
「言っとくが俺はこの程度では負けんぞ!!邪神器<狼>!!」
ハンマーに全力の<邪>を注ぐ。するとハンマーが全て黒い雷へと変換される。
「<流心・流浪>」
盛大な光によって二人の姿がかき消される。その衝突が終わった後、立っていたのは一人だった。
「私の勝ちですね」
ジェンガは地面に倒れている。意識はあるようだが<邪>を出し切ったため身体が動かないのだ。その動かない身体を酷使してジェンガは顔を上げる。
「まさか…お嬢ちゃんに負けるとはな」
その発言にミリーはクスクスと笑う。
「お嬢ちゃんお嬢ちゃんって言いますけど私の方が年上ですよ。竜ですから」
「ガハハ…確かにな…それはすまなかったな、お嬢ちゃん」
謝りながらもお嬢ちゃんと呼ぶのを止めないジェンガにミリーは苦笑で応えた。
「なぁ…あんたらの中で一番強いのはお嬢ちゃんか?」
「いえ。一番強いのはシロー様です。ただ…」
「…ただ?」
「…ただ、チームの中で一番無慈悲なのは私です」
そう言ってミリーは残り僅かな<魔>で<水矢>を作り撃ち出す。それはジェンガの心臓を呆気なく貫いた。その後ミリーは地面に落ちている邪神器<狼>を回収してその場を去った。
やがて黒雷ジェンガの死体は身体が砂となり風と共に大地へと還っていった。そんな彼の最期の表情は恐怖ではなく誰よりも満足気な表情だったという。




