遭遇戦(シャルビィの場合1+ティカ)
これもまた四郎が黒氷レスカー・レインドと対峙するその僅か前、ティカ・ファーフードは森の中にいた。討伐依頼でミミミズという巨大な木のミミズを討伐し終えた帰り道だった。四郎からの<光字>には気付かずにのんびりと帰路についていた。
森林の隙間から漏れる光が心地良く、ティカは睡魔にかられる。森に自生している薬草などをチマチマ採りながらふらふらと歩いていく。
それからしばらく歩いていると木の根元に倒れている男の子を発見した。頭からちょこんと可愛らしい角が生えている。
「鬼かしら?」
ティカはしゃがんで倒れている男の子の頬をつんつんする。しかし何も反応はない。
「まさか行き倒れ!?ヤバいじゃない!助けないと!」
ティカはとりあえず男の子の上半身を起こし、木に寄りかからせる。
「…よく分からないけどこういう時は雷を浴びせるのが一番よねっ。ショック療法ってやつかしら」
明らかに間違っている回答だが周りにツッコむ人間がいないためティカは止まらない。鼻歌を歌いながら指先に僅かな電気を集めるティカ。
「それじゃ、いくわよ~」
ポイッと指先の電撃を少年に浴びせたティカ。少年の身体がびくんびくんと痙攣した。
「ひ、ひぇっ…!」
自分でやった事に対してかなりビビっているティカ。口を大きく開けて慌てている。すると少年のまぶたがゆっくりと開く。
「う…ここは…」
「ほっ…さすがあたしね。貴方、大丈夫かしら?」
少年の瞳がティカを捉え徐々に焦点が合っていく。
「…………うげっ!しまった!!」
少年は慌てて飛ぶようにしてティカと距離をとる。そんな少年の様子にティカは訝しげな眼を向ける。
「お、おおおお前!どうして僕を助けたんだ!!」
少年はビシッとティカを指差す。
「そりゃ行き倒れがいたら助けるでしょ、普通」
「そ、そうなのか。だけど僕はお前の敵だぞ!」
「敵…?」
「そうさっ。僕はお前がミミミズと戦って弱っている所を後ろからボカーンとしてやるつもりだったのさ!…途中で見失っちゃったけど…」
早口でティカに並ぶ位のマシンガントークで話す少年。ティカはとりあえず大人しく少年の話を聞いておく事にした。
「でも怖くて震えた訳じゃないんもね!ただ木の近くで武者震いしてただけだもんね!!」
身ぶり手ぶりで話す少年。
「だから今日はこの位で勘弁してやるもんね!」
そう言って少年はティカに背を向けてバタバタと走って行く。しかし途中でピタリと止まりこちらを振り返る。
「た、助けてくれてありがと…」
それだけ言って再び少年は走り去ってしまった。ティカはポカンとしてるだけで話にはほとんどついていく事が出来なかった。ただ唯一分かった事は…。
「そっちは森の奥よ…?」
その夜、森に少年の叫びが木霊したという。
シャルビィ・ルーランは護衛任務を終え、娯楽都市ともおしゃれの街とも呼ばれるバロックにいた。珍しいそうなお菓子を買って家の中へ入れていく。お金も大分貯まった。
「ふふん♪」
ご機嫌なシャルビィは鼻歌を歌いながら街中を歩いて行く。時折、周りの人から邪気のある視線を感じるがもう慣れた。それよりもシャルビィにとっては男たちからのいやらしい視線の方が苦痛だった。
「全く…男というのは…」
そう呟いた時だった。後ろの方から複数の悲鳴が上がった。反射的に振り返る。
するとそこには黒く燃え上がる炎があった。
「な、何が…!?」
シャルビィは警戒しながらも細剣を構える。一瞬の油断が命取りになることをシャルビィは知っている。視線を周りにはしらせる。
「ギャハハ!なーにビッてんだよシャル」
炎の中心にいたのはシャルビィにとって馴染み深い存在だった。
「姉…さん…?」
シャルビィが昔、姉としたっていた人物。正確には従姉だが。そのシャルビィの声が疑問形だったのは再会が久々だったからだけではない。あまりにもシャルビィが知っている姉と今目の前にいる姉はかけ離れていたからだ。
赤く輝いていた髪は今は黒みを帯び、瞳も淀んでいる。その口調もシャルビィが知っている口調とは全くの別物だった。そしてなによりシャルビィが知っている姉はこんな事をする人物ではなかった。
「ギャハ、あんたはまだあたしを姉と呼ぶんだね」
「姉さん…どうして…?」
シャルビィのその台詞には色々な意味が込められていた。どうしてそんなに変わったのか。どうしてここにいるのか。どうしてこんな事をしたのか。
そんなシャルビィの想いに姉、ジェアナ・ルーランは告げる。
「どうしてって、あんたを殺すためだよっ!」
ジェアナの周りに再び黒い炎が吹き荒れる。
「ギャハハ、あたしは『黒の眷族』黒炎のジェアナ・ルーラン様だ!あんたの命、あたしが燃やすよ!!」
そうしてジェアナとシャルビィの戦いが始まった。




