劣等感
「お前らリックルスープって知ってるか?」
ヒントがニヤリと笑いながら言った。別に全然カッコよくないけどな。
「知らないな。うまいのか?」
「ああ、俺自身はこの街一番のうまうまだと思っている」
「そんなにうまうまなんですか?」
「うーうーうまうまだ」
なるほど。こっちの世界でうーうーうまうまはこうやって使うのか。てかそもそもうまうまって…。俺も今度使ってみよう!
「ならさっそく行こうぜ」
「ああ、場所はギルドのある通りの一本隣の通りだ」
そうして今度こそ門を出ようと一歩踏み出すと後ろから声が聞こえた。
「おーい。どこに行くんだ?」
ミスティオは報告が終わったのか。こちらに戻って来たようだ。俺たちは一斉に振り返った。
「飯食いに行くんですよ、隊長」
「そうか。ならさっき殺…迷惑を掛けた詫びだ。奢らせてくれ」
「お前今殺し掛けたって言おうとしたろ!!でも飯は奢ってくれてあざっす!!」
「お前イケメンなのに残念なタイプの人間だな…」
ヒントとミリーは何故か溜め息を吐いている。何故だ?まぁミスティオも訳が分かってないようだしいいか。
「メシメシメシ~♪」
「シロー様ってもっとクールなキャラだと思ってました。実は楽しいお方なんですね」
「まあね。なんかテンション上がると騒ぎたくなっちゃうんだよね~」
「それはいかんな。騎士ならば常に冷静を…」
「騎士じゃねぇよ!」
「…そうだったな」
再び勘違いドジっこぶりを披露して一人沈むミスティオ。ヒントは隣でカラカラと笑っている。
「そういえばティカって何であんなに人の話を聞かないの?」
「それは私も気になります」
その質問にヒントとミスティオは顔を見合わせる。どうやら目だけで会話しているようだ。
「そうだな。まぁお前らはお嬢様の被害者な訳だからな。特別に教えてもいいけど…」
「他言無用で頼む」
ヒントの言葉にミスティオが続いた。それに俺とミリーは頷く。
「まずお嬢様には兄と姉がいてな。五つ上のスレイター様と二つ上のウルリア様ってのがいるんだ。スレイター様は昔から<武>の才能が凄かったらしくてな。つい何日か前に王都騎士団からスカウトが来て王都アステリに行っちまったんだ」
王都騎士団。これも前にシャルビィが言っていたが入団の最低条件が<魔>と<武>の二つを使いこなせることだったはずだ。つまりティカの兄はミスティオと同等、もしくはそれ以上の実力があるのだろう。
「それでウルリア様の方は身体は弱いが政治手腕に非常に長けていてな、現ファーフード家当主の右腕としてメキメキと頭角をあらわしているんだ。最近でこそ顕著にお嬢様との差があらわれたが、これはずっと前からそうだったんだ。優秀な兄と姉。
それに比べて元気が取り柄だけのお嬢様。これはずっとお嬢様にとっての恐怖でありコンプレックスだったんだ。皆、お兄様とお姉様ばかりを見て誰一人自分を見てくれないってね。だからお姉様は目立とうとする。そうでなきゃ自分のことを見て貰えないって思ってるんだ。そんなことないのにな。当主様も奥様もスレイター様もウルリア様も俺たち騎士団も街の皆だってちゃんとお嬢様を見てる。そしていつだって心配してる。俺はいつかお嬢様に気付いて欲しいんだ。一人じゃないってことを。虚勢を張らずにそのままでいいんだってことを…」
お店に着きそれぞれ無言で席に座る。それぞれ何か考えているようだ。メニューを聞きに来た店員にはミスティオがリックルスープ四つと答えていた。
「じゃあティカちゃんがシロー様に絡んできたのは…」
「お嬢様よりも目立っていたからだろうな。噂ではあのシャルビィ・ルーランも君達の仲間なんだろう?それは目立つなというのは無理だと思うがな」
店員が驚きの短さでリックルスープを運んで来た。さすがに人気料理なだけあってすぐ出せるように準備しているのか。
「よし!暗い話はこれで終わりだ。よし食うぞー」
ヒントが無理矢理場を明るくして食事が始まった。俺は一口リックルスープを口に運ぶ。
「どうよ?俺イチ押しのリックルスープの味は」
ヒントが得意気にしている。何か無性に悔しいが確かに美味い。
「うまうま。初めての味だぜ」
そしてさっそくさっき覚えたうまうまを使ってみた。どうやら使い方に間違いは無いようだ。
「はい。すごく美味しいです。あっさりしてて」
ミリーも美味しそうにスープを飲んでいる。うまうま使わないのかよ。
「ふふふ。そうだろそうだろ」
「何で隊長が得意気なんですか」
その時、バタバタっと音がした。俺は振り返る。するとそこには見覚えのある金髪ツインテールの少女の後ろ姿があった。俺の動きに合わせて視線を移した三人もそれを見て驚いているようだった。
「お嬢様…!?」
ヒントが慌てたように声を出したがそれはティカには届かず彼女は走り去っていってしまった。




