女騎士
気配だけは確実に感じるのだがどうも居場所が掴めない。ミリーもどうやら同じらしく辺りを慎重に警戒している。
不意に右後ろの方でカサカサと音がした。それにすぐさまミリーが反応する。
「そこですか!<水矢>!」
シュバッという音と共に水で出来た矢が高速で草むらに飛んでいく。ガサガサっと音がしてそこから飛び出すように現れたのは猫だった。
「………」
「……………」
「にゃ」
二人とも思わず黙り込んでしまった。そんな俺たちを気にする事はなく猫はそのままこの場を去って行った。
「ど、どんまい」
「……………ガクッ」
ミリーは何故か自分でガクッと言ってからその場に崩れ落ちた。どうやら恥ずかしくて落ち着くまで戦えません。とのことらしい。
もちろん姿を消していた女騎士がこのチャンスを見逃すはずもなく、突然目の前にいくつもの炎の玉が出現する。これに対処するのは問題ないが、あまり城で暴れる訳にもいかない。それこそ本当に捕まりかねない。
「おい、何を勘違いしてるのか知らんが俺たちはお嬢様に招待されたただの善良な一市民だ。敵意はない」
すると何処からともなく女騎士の声が聞こえて来た。
「黙れ。何の罪もない猫を殺そうとしていたくせに何を言う。それても敵意は無いが悪意はあるということか」
勘違いを加速させていらっしゃる!?これは少しヤバいかもしれない。とりあえずさっさと気絶させてずらかるとしますか。 いや待てよ。相手はどこにいるか分からないがいい魔法があった事を思い出した。俺はミリーを抱えて跳躍し、適当な場所に足場を固定する。
「<ニルアドミラリ>」
魔法の発動によって周囲が白い光に包まれる。その白い光は大気に溶けるようにして消えていく。すると右の方からすぅっと女騎士が現れる。その顔には表情がない。
空間魔法<ニルアドミラリ>。これはまず周囲に白い光が発生する。その白い光はあっという間に大気に溶け込む。これが溶けた空気を吸い込むとその相手は感情が無くなってしまう。つまり無関心になってしまうのだ。
「お~い、大丈夫か」
パチンと手を叩いて魔法を解除する。女騎士はそれに反応して目をぱちくりさせた。
「何だ、何があった!?」
ちょうどそこに茶髪の騎士その他数名が現れる。俺たちの戦闘の音を聞いて駆けつけたのだろう。
「て、隊長!?」
俺たちの前でうずくまっている女騎士を見て茶髪の騎士が驚いたように言った。他の騎士たちも呆れているような表情をしている。
「彼女隊長だったんですね…」
ミリーも呆れ顔で言っている。どうやら猫のことからは立ち直ったらしい。
「お、お前ら!こいつらはいつの間にか城に侵入していた賊だ!早く捕まえろ!」
「いや隊長…。彼らはお嬢様のお客様ですよ…」
「…何?ウルお嬢様のか?」
「いえティカお嬢様のです」
隊長がこちらをジーッと食い入るように見つめてくる。その顔色はだんだん赤から青に変わっていく。
「す、すいましぇ…痛…舌噛んだわ…んでした」
と横を向きながら謝られた。まるで自分に非はないというかのような様な雑な謝罪だった。
「隊長!しっかり謝って下さいよ!」
茶髪の騎士が隊長の頭を無理矢理こちらに向ける。
「客人に刃を向けたなんてガルトの騎士の名折れですよ」
その茶髪の騎士の言葉に隊長はハッとして今度はいきなり俺らに土下座してきた。
「申し訳無かったご客人どの!出来ればこの事はお嬢様方にはご内密にお願い致します!」
「俺らからも謝ります。すいませんでした。隊長、ドジっこなもんで…」
茶髪の騎士と他の騎士も土下座とはいかないまでも頭を下げてくる。
「私はドジっこではない!!」
隊長が土下座して下を向いたまま怒っていた。全くこの家はどうなってるんだ。
ワガママお嬢様にドジっこ騎士隊長。しかしファーフード家はまだまだこんなもんじゃなかった。
後にシャルビィから聞いた話だがファーフードの一族は街人たちから「残念貴族」と呼ばれていることを聞いた。一族(騎士などの関係者も含めて)の全員が優秀だが変た…個性的なのだという。




