生命
竜を倒したその後、俺たちは眠っている女を連れて近くの森に移動した。お互いに高い<魔>をぶつけ合って戦ったので、その<魔>を嗅ぎつけてガルトの街の騎士団が来たりすると厄介だからだ。
もちろんマルシャワイ男爵たちの死体は跡形もなく消しておいた。いくら下級貴族といっても貴族なので死体が見つかると面倒なことになるからだ。
「う…あ……え…?」
ようやく女が目を覚ました。シャルビィはその声にビクッと驚いている。女は周りを見渡し俺らに気付くとキッと睨みつけた。
「私をなぜ助けたんですか?見殺しにした罪滅ぼしですか?」
怒りが言葉が滲み出ている一方、その奥には疑問と恐怖があるのを俺は見逃さなかった。シャルビィは顔を下げている。きっとあの時の光景を思い出して唇をかみ締めているのだろう。
「まさか。俺の人生に恥ずべき事なんか無い!!」
言い切る。そうだ、俺は全力を尽くした。非難される筋合いはない。
「ふざけないで!!見殺しにして恥ずべき事はないなんて!!やっぱり人間なんて!!」
金切り声を上げて取り乱す女。俺は一度溜め息を吐く。
「見殺しになんかしてねーよ。なぁシャル?」
「…え…ああ…シローはあの時助けようとして魔法を出したんだが一歩間に合わなかったんだ…。だから見殺しにした訳じゃ…」
シャルビィが俺を庇うように弁護する。まぁシャルビィが言ってる事は半分しか合ってないけどな。
「そんな言い訳が…!!」
「すとーっぷ!落ち着け女。まずアレを見ろ」
そう言ってシャルビィと別れた後に回収してきた物体を指差す。それを見てシャルビィも女も目を見開いた。
「子供たちの遺体…!?」
「…………」
前者がシャルビィ。後者が女だ。俺は立ち上がり五人の子供の死体に近付いていく。中には腕や足が千切れている子供もいる。
「<遡及>」
すると子供たちの遺体は光に包まれ、身体が傷一つ無く修復されていく。
「…そんな事をしても身体の傷が消えるだけで生き返ったりはしませんよ…」
子供たちの遺体を見て怒りよりも悲しみが勝ったのか、先ほどまでの怒鳴るような声ではなく沈んだ声だった。
「まぁこのままならね」
俺はニヤリと笑う。その顔にシャルビィと女が怪訝そうな顔をする。
「どういう事だ?」
シャルビィの質問には答えず、変わりにポケットから小さな紙切れを取り出す。
「これ何だか知ってるか?」
二人ともそれには答えない。まぁ当然だろう。俺の世界の技術だし。
「これはな…強力すぎて倒しきれない生き物を封印するための御札さ」
「…まさか!?」
流石に竜である女は伊達に長生きしていないのか似たような物に心当たりがあるようだ。
「そのまさかさ。んじゃこれで一件落着だ」
そう言って御札を破る。するとそこから淡い光が現れ子供たちの身体へと戻っていった。
「…あ…!…ああ…」
ヨロヨロと女が子供たちに駆け寄り、しゃがみ込んで胸に耳をあてる。
「…ああ!…聞こえます…!…子供たちの音が…聞こえます…!」
ボロボロと笑いながら泣く女。その顔は俺が今まで見たこともない不思議な表情をしていた。喜び、驚き、悲しみ、悔しさ、そんな言葉では現しようのない表情だ。
シャルビィも静かに泣きながら俺の服をギュッと掴んでくる。俺はシャルビィの頭を一度軽く撫でてから女が泣き止むまで静かにしているのだった。




