変貌
『ウアアァァァァッッ!!!アアアァァァァッッ!!!』
亜人の女の慟哭が草原に響き渡る。その身体からは異常な量の<魔>と<武>が溢れ出している。
「な、なんだアレは…!?」
シャルビィが立て続けに起こる出来事に理解が追いついていないかのような表情をしている。
そうしている間にも亜人の女の身体からは<魔>と<武>が放出され続け、やがて変化が起こった。
亜人の女の背中から髪と同じ色をした大きな翼が生え始めた。全身も水色の鱗に覆われ巨大化していく。口からは鋭い牙が生え、顔の形が変わっていく。
「…そんなバカな…!?竜人ではなく竜そのものだと!?」
シャルビィが苦しそうにしながらも驚きを露わにする。
「しかも人に変化出来るなんて竜の中でも最高位の竜神クラスのやつのみだぞ!!」
圧倒的な<魔>と<武>にシャルビィは膝をつく。
『ウアアァァァァッッ!!!コロシテヤル、醜イ人間ドモヲ!!!』
完全に竜となった姿は凄まじかった。最初は水色だった全身が今は濃紺色に染まって翼を一振りしただけで嵐が吹き荒れる。五十メートル近くのその圧倒的巨大は見るものに本能的恐怖を悟らせる。口からは白いブレスが溢れている。
これが竜。それも竜神と呼ばれるクラスの。その圧倒的力は災害そのものだ。
「逃げなければ…殺されるぞシロー…」
シャルビィが竜から一瞬たりとも目を離さずに言った。あまりの<魔>の強さに俺たちの<隠者>の魔法は解かれており、今はあちらからまる見えの状態だ。
『ウグアアァァアァァァァッ!!!!』
竜は慟哭を続ける。その黄金の瞳からは涙で潤んでいる。その頭にある一本の角は天を衝くように立っている。大切な子供たちが殺された。だからこそ抑えられなくなったのだろう。
「だけどそいつは人を殺していい理由にはならない」
突然の俺の言葉にシャルビィが驚いたようにこちらを見る。が、すぐに視線を竜へと戻す。
竜はしばらく慟哭を続けた後、ゆっくりとした動作で立ち上がった。それだけで、たったそれだけで大地が震える。まるで世界すらも竜を恐れているかのように。
次に竜の顔がこちらを向く。その黄金の瞳には俺とシャルビィの姿が写し出されていた。
「くぅっ…!?」
シャルビィが蛇に睨まれた蛙、もとい竜に睨まれたシャルビィになっていた。
『マズハ貴様ラカラダ、人間ドモ』
竜の身体全体がこちらを向く。どうやら俺たちは完全にターゲットにされたらしい。シャルビィを連れて逃げる事も出来るが、それをしたら竜は街を次々と破壊し殺戮の限りを尽くすだろう。そうはさせないためにも俺たちが今ここで竜を倒す必要がある。
殺すのではなく、倒す。このまま竜を殺してしまったのなら残るのは悲しみや憎しみだけだ。もう一度理解し合えるなんて安っぽい事は考えていない。でも、せめて止めてやろう。そう思い俺は立ち上がる。
「シロー…?」
シャルビィが不安そうに俺を見つめる。
「<神域>!」
神のみしか干渉することは出来ないと言われている最上級の結界の中にシャルビィを閉じ込める。
「…何をする!?まさか…シローお前…!無理だ!!逃げろっ…!!相手は竜神クラスだ!!人がどうこう出来る相手じゃない!!!」
俺はシャルビィの言葉を流しながら竜へと近付いていく。
そうしてこの世界に来て初めての大きな戦いが始まった。




