慟哭
マルシャワイ男爵とその他数名が何やら小声で話し合っている。さすがにこれは聞き取れず読唇術をするにも少し距離が遠すぎた。
「それじゃガキ共に会わせてやろう。感謝しな、ヌフッ」
いちいち笑い方がキモいんだよクソ男爵が。マルシャワイ男爵以外の奴らが馬車に入り五人の子供たちを引きずって来る。俺は言いようもない嫌な予感がした。
「おら!さっさと歩けガキ共!!」
五人の子供たちはなすがままに馬車の外に放り出される。中には泣いている子供もいる。
「みんな!」
亜人の女がそんな子供たちを見て駆け出す。鎖は男が手に巻き付けている分を解いていたので鎖に邪魔されずに亜人の女は子供たちへと近づく事が出来る。
子供たちも彼女の姿に気付いたらしく、のろのろと立ち上がる。
「…お、おねぇちゃぁん…」
一人がそう言って歩き始めると残りの四人もそれに習うように歩き始める。
そしてそれは起こった。
子供たちと彼女との距離があと数メートルといった所でマルシャワイ男爵の近くにいたオールバックの男が魔法を放った。初級の魔法だったので発動までが早く、ゼロコンマで放たれた魔法は俺にも止める事は出来なかった。
本来なら大した事はない魔法だ。だが魔法を放ったオールバックの男はプロの護衛ということ。子供たちは男たちに乱暴に扱われ衰弱していたということ。これが最悪の結末を生み出した。それと同時に俺もある魔法を放った。
魔法で一斉に吹き飛ぶ子供たち。そこでさらに追い討ちをかけるように魔法を連発させる男。
亜人の女もシャルビィも俺も動けなかった。いや最初の魔法が発動された時点で今さら動いても無駄だと分かっていた。
魔法が終わった頃には物言わぬ五人の子供たち死体が転がっていた。
「…………………え……?」
亜人の女は訳が分からないといった顔をする。
「…ナリー?……ルクス?…メイビ?……ホラン?……シャンズ?……あ…」
子供たちの名前を呟きながら死体を茫然とした瞳で見つめている。その瞳には先ほどまでの爛々とした輝きはなく空虚のみが広がっていた。
「ヌフッ、これで希望も砕かれ何もない貴様は我らに従うしかないだろうなぁ」
その言葉に他の男たちが大声で笑う。
「……あ…死んじゃったの…?どうして…?どうしてどうしてどうしてどうして」
次第に状況を呑み込んできた亜人の女は壊れたようにどうして、と繰り返す。
マルシャワイ男爵たちは子供たちを目の前で殺す事で反抗心を奪い、亜人を我が物にしようとしたのだ。
「本当に安っぽくて最低で殺したくなる」
俺はこの世界に来て初めて殺意を抱いた。シャルビィもその瞳には怒りと殺意が籠められている。
「どうしてどうしてどうしてどうしてどうして……………そうだ殺された誰にあいつらに殺せ人間を醜い醜い殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ」
亜人は狂ったように喋り続ける。それをマルシャワイ男爵は鬱陶しく思ったのか、亜人の方へと近付いて髪の毛を掴もうとする。
そして掴もうとしたその瞬間、マルシャワイ男爵の頭が吹き飛んだ。
「…は?」
オールバックの男はあまりに一瞬の出来事で何も反応出来なかった。そんなオールバックの男も次の瞬間には身体の上半身が吹き飛ばされていた。
「あ、あ…ば、化け物だぁぁっ!!!」
残った男たちも馬車を置いて我先にと逃げようとする。だが逃げる暇もなく次々と殺されいった。
『ウアアァァァァッッ!!!!アアアァァァァッッ!!!!』
残されたのは亜人の女の慟哭のみだった。




