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僕の日  作者: 海のくらげ


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第四話 僕の日

#第四話 僕の日



自分の中の違和感に気付いたのはお父様とお母様と一緒のディナーの時間だった。

僕はまだナイフとフォークをうまく使えなくて、カチャカチャと音を立てながらお肉を切っていた。

お父様もお母様も何も言わないけれど、僕もそのうち上手に音を立てずに食べたい。


「ルーク」

お父様が僕に向かって話し掛けるように誰かの名前を口にした。

うちには使用人を含め、ルークなんて名前の人はいない。

あれ?ルーク、知ってる。

それは夢の中で呼ばれる名前。

僕は夢の中でルークと呼ばれ、お兄ちゃんと一緒に遊んでいる。


「お父様、ルークとは一体誰なんですか?」

お父様は自分で口にした名前なのに、言ったつもりがなかったのか、僕が聞いた事で驚いている。

きっとどう説明すればいいのか分からないのだと思う。

お母様の方を見るとやっぱり同じように考えているように見える。


でもお母様は僕が聞いた事にはきちんと答えてくれる。言葉を選ぶようにゆっくりと話される。

「エイル、あなたは特別なの」

「特別?」

お母様の言葉をそのまま返した。

「そう、特別。エイルは一人で生まれたけれど、三人が一つの体を使っているの」

僕の中に他に二人もいる。

「それがルーク?」

「そうよ。もう一人はレオン」

お母様は何でもない事のように、当たり前のように言う。

そして、その名前にも聞き覚えがある。

やっぱり夢の中でレオンと呼ばれ、お兄ちゃんと一緒に遊んでいる。


少し混乱した。

僕はエイルで、ルークで、レオン。

でも、ルークの時もレオンの時も僕は知らない。

朝起きたらエイルだ。夜寝るまでエイルだ。

「朝起きてから夜寝るまで僕は僕だよ。明日も起きたら僕だよ?」

「エイル、違うの。明日はルークの日、明後日はレオンの日、そしてその次がエイルの日よ」

お母様はやっぱり何でもない事のように、当たり前のように言う。

でも分かった。

毎日が僕の日だと思ったのに、毎日は僕だけの日じゃなかった!



ふと素朴な考えが頭に思い浮かんで聞いてみた。

「でもお父様は毎日お父様だし、お母様も毎日お母様。皆も三人が中にいるの?」

「いいえ、エイルだけ特別なのよ。神様がそうお作りになったの」

ああ、神様がそう作ったのなら仕方ない。

馬は生まれた時から馬だし、鳥は生まれた時から鳥だ。

僕は生まれた時からエイルで、ルークで、レオン。



私は知っています。

魔法使いがそのようにしました。



「本当?」

僕はその小さな生き物に聞き返した。

その生き物は僕に声を掛けられた事に驚いて、慌ててお母様の後ろに飛んで逃げた。

お母様は自分に向けられた問いだと思ったらしく、応えてくれる。

「ええ、本当です。だから何も心配はいりません」

そうおっしゃるけれど、僕はその小さな生き物に答えて欲しかった。

けれどその日はもう二度と僕の目の前に現れなかった。


すっかり食欲がなくなりご飯を終わると部屋に戻った。

しばらくするとお母様も部屋に戻って来て、横に並んで髪を撫でてくれる。

「エイルにとっては毎日がエイルの日なのね」

お母様は当たり前の事を言う。

「うん、僕の日。お兄ちゃんは毎日僕に会いに来てくれて、毎日遊んでくれる」

僕にとっての毎日はお兄ちゃんと一緒の毎日だ。

「レイナード様?」

「そう、お兄ちゃんは僕がレイナード様って言うととても悲しそうな顔をするから、二人だけの時は今でもお兄ちゃんって呼んでるの。内緒だよ」

お母様は僕の鼻をつんと指で触って、にっこりと微笑んでくれた。

きっと、内緒にしてくれる、という合図だ。



僕はお父様にもお母様にもお兄ちゃんにも言ってない事がまだある。

夢の中でお兄ちゃんはルークと仲良く遊んでいるのを知っている。

ルークは外にはあまり行かず、家の中で僕の知らないゲームをやっている。

別の夢の中ではお兄ちゃんはレオンと仲良く遊んでいるのを知っている。

レオンはお兄ちゃんと一緒に外へ出て馬に乗ったり木に登ったりしている。


ルークもレオンもお兄ちゃんと同じくらいの背の高さで、一緒に笑う事も多い。

僕はお兄ちゃんを笑わせる事は余りなくて笑わされる事の方が多い。

もしかして、お兄ちゃんはルークの事もレオンの事も知っていて、僕には黙っているのかも知れない。

二人と仲良くしたいから僕の事もついでに遊んでくれているのかも知れない。

一度その考えが思い浮かぶとそれがとても自然な事のように思えて不安になって来る。


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