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僕の日  作者: 海のくらげ


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第三話 エイル

#第三話 エイル



エイル たぶん四歳


僕はエイル・ルヴァン。

ルヴァン子爵家はオルブライト伯爵家に仕える身分だ。

本当は子爵家から伯爵家に出向くのが当たり前なのだけど、お兄ちゃんは毎日遊びに来てくれる。

お兄ちゃんというのはレイナード様の事。

レイナード・オルブライト。

それがお兄ちゃんの本当の名前。

お父様もお母様もレイナード様と呼びなさいと言う。

でもお兄ちゃんにレイナード様と呼ぶと悲しい顔をして「お兄ちゃんと呼んで」と言われるので二人きりの時はお兄ちゃんと呼ぶ事になった。


お兄ちゃんは毎日僕に会いに来てくれて、毎日遊んでくれる。

朝起きると侍女に着替えさせてもらい、顔を洗ってから食堂に行く。

椅子によじ登るようにして座ると目の前にパンとスープが置かれる。

ご飯を食べてから侍女に口の周りを拭かれて、椅子から飛び降りて部屋に戻ってお兄ちゃんが来るのを待つ。

窓を開けて遠くの方を見ていると、見えないうちから馬車をひく馬の足音が聞こえて来る。

そうしたら、窓を閉めて玄関に走って行き、外で馬車が来るのを待つ。

お兄ちゃんは馬車が止まるか止まらないかのうちに扉を開けて降りて来るから、飛び付くと抱き上げられる。


お兄ちゃんは一緒に遊んでくれながら色んな事を教えてくれる。

積み木が齧るものでない事はすぐに覚えた。

丸い物、四角い物、三角の物、色々な形があって大きさも色々ある。

僕は三角形の尖った部分が一番口に入れやすい。

尖った部分を齧るとお兄ちゃんは笑って頭を撫でてくれるけれど、侍女には取り上げられちゃう。


本を読むのはとても好き。

一緒に並んで寝そべって本を広げると一文字一文字指でなぞりながらお兄ちゃんが読んでくれる。

文字は幾つかの形で出来ていて、その組み合わせで言葉が出来ている事を知った。

絵本の動物を指さすと「これはリス、これはキツネ」と名前を教えてくれる。

お兄ちゃんは僕が見た事のない動物も何でも知っていてすごい。


時々眠いのかお腹が減ったのか分からなくてモヤモヤして泣くと、お兄ちゃんがだっこしてくれる。

お兄ちゃんの手が背中を支えてくれて、その手の温もりを感じると安心してしまう。

ほっぺにキスされると、それを合図にしあわせに包まれながら夢の世界に移動してしまう。

折角お兄ちゃんがいるのに寝るのは勿体ないけれど、お兄ちゃんは黙って帰ったりしない。

僕が起きるまでずっと待っててくれる。

目が覚めた時にお兄ちゃんがいると凄く嬉しい。



お兄ちゃんと一緒に手を繋いで庭に出るようになると、今まで以上に色んな事が分かるようになった。

空はとても広くて高く、窓から手を伸ばしても雲には届かなそうな事。

広い敷地の外にはもっと広い世界が広がっている事。

お兄ちゃんが馬車で来るよりもずっとずっと遠くまで繋がっていて、お兄ちゃんも行った事がないみたい。

自分の足で走る嬉しさ、お兄ちゃんに追い掛けられるスリル、捕まった時の表現しづらい楽しさ。

もう少し大きくなったら木登りを一緒にしようと約束した。

馬に飼い葉を与えて、ブルブルと鼻息を立てられたけれど、馬は僕の事を気に入ってくれた。

お兄ちゃんの事は時々イタズラするから嫌だと言っていた。

お兄ちゃんはとても優しいんだ、嫌いにならないで、と説得しておいた。



僕はお父様にもお母様にもお兄ちゃんにも話せていない事があった。

それを秘密って言うらしい。侍女に聞いた。

秘密にしたいわけじゃないけれど、どう話したらいいのか分からないから話してないだけ。

普通は夜になると眠くなるのに、最近は何故かそわそわする。

そのせいで落ち着かなくて寝られない。

とても眠いのに無理矢理起こされているような気持ちで眠れないでいるとお母様がやって来て子守唄を歌ったり、胸を優しくとんとん叩いてくれるけれど、それくらいじゃ落ち着かない。

僕の中の何かがずっと掻き回されている感じ。



私には分かります。

魔法使いの魔法はほんの少し失敗して、エイル様には昔飼っていたエイルが混じっています。

エイルは仔犬ではなくオオカミの子供です。

満月が近付くと血を掻き立てます。



とうとう僕は我慢出来なくなって、窓を開けて空を見上げた。

まあるいお月様が見えた瞬間、叫んだ。

「あおーん」

遠くから応える声が聞こえる。

「ウォーン」

益々血がたぎり、何度も叫んだ。

声は段々遠ざかり、置いていかれたのを理解した。

子供の僕が付いていっても邪魔だから。

でも、何故あの声に反応してしまうのかは分からないままだった。


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