第二話 魔法
#第二話 魔法
あれほど毎日遊んでいたのに、ルーク様はレイナード様の元を訪れなくなります。
私にはもちろん分かります。
魔法使いがルーク様に魔法を掛けたのです。
日毎に人格が変わる魔法。
ルーク様の翌日は体の丈夫な人格になります。
その人格にはレオン様と名付けられます。
その次の日はまだ幼い人格になります。
名前はまだ付けられず、赤ちゃんと呼ばれます。
赤ちゃんとは、生物が小さい時の呼び方です。
主に他の生物に頼って生きている存在です。
ルーク様のお父様とお母様はとても驚かれます。
最初の一週間、起きると違う子供が寝ている事に驚き、恐れ、不安に涙を堪え、そして子供に不安を与えてはいけないと優しく接します。
次の一週間、全てを受け入れ三人の人格と暮らし始めます。
私は魔力で出来ています。
私のいるこの場所以外でも魔力を通して色々な事を知る事が出来ます。
自室で一人つまらなそうに遊ぶルーク様の姿を見ながら、心配して毎日様子を見に来るレイナード様の事を見る事も出来ます。
二人とも寂しそうな顔をしています。
私には感情がないので寂しいという気持ちは理解出来ませんが、会いたがっている事は経験から理解します。
病気を理由に会えない毎日が続きます。
レイナード様が悲しい想いをされているのを、魔法使いに相談しましたが悲しい感情は取り除けない、何もしなくても良いと言われます。
私はそれで二人が寂しそうにしているのを毎日見ています。
ようやくレイナード様が屋敷に受け入れられルーク様と対面すると二人は抱き合って喜びます。
寂しかった期間の分だけ喜びも大きくなるのだと分かります。
そうなると一年も二年も会わなければどれほど大きくなるのだろう、後で魔法使いに聞いてみます。
今までの会わなかった時間、二人の空いた時間を埋めるように色んな話をし、庭を駆け回ります。
走って息を切らすルーク様に駆け寄り、大丈夫か、すまなかったとおっしゃります。
大丈夫、ルーク様はそう返されますが、三人に分割されてから、走るのはいっそう苦手になります。
次の日、レイナード様が恐る恐る扉の内側を覗きます。
レオン様が元気に出て来て挨拶をされます。
お母様が事情を説明されます。レイナード様はとても驚かれている様子ですが、レオン様はレイナード様にこれから仲良くしてください、と積極的に前に出て来ます。
レオン様はルーク様の分も元気があり、木に登るのも得意で木の上からレイナード様を引き上げます。
蜂の巣を攻撃する時も二手に分かれ、石を投げて怒った蜂を引き連れて逃げ回ります。
もちろん蜂の方が早いのですぐに追い付かれますが、池に飛び込んで潜って逃げます。
それだけではありません。
レオン様はすぐに別の場所から這い上がり、レイナード様を助けに来ます。
レイナード様は私が守っているので大丈夫ですが、レオン様は木の枝を振り回し折角宥めた蜂を再び怒らせ、帰ってもらうのは大変です。
でも、レイナード様にはレオン様が自分の望む強い友達である事に大変満足されます。
赤ちゃんにも会わせてもらえます。
普段よりも丁寧に手を洗い、うがいをして、服のほこりを落として綺麗になってから、お父様とお母様の寝室に入れてもらいました。
小さなベッドに寝ている赤ちゃんを驚かせないように、声は出してはダメです。
そっと音を立てないように近付き、上から見下ろしました。
(かわいい!かわいいかわいいかわいい!!!)
私は魔力で出来ているので、直接的な感情は声に出さなくても分かります。
レイナード様は赤ちゃんに心を奪われています。
魔法使いは赤ちゃんをそのように作ります。
深緑のはねた髪と長いまつ毛、茶色とグリーンの混じった瞳、ぷっくりと膨らんだほっぺたにまだ小さい鼻、ほんのり紅い唇。
全てレイナード様の思う通りの可愛い顔です。
そっと部屋を出ると、「エイル」とおっしゃり、赤ちゃんの名前はエイルになります。
レイナード様はルーク様が少し力が弱くなった事に気付きながらも楽しく遊び、喧嘩をします。
けれど今までのように嫌いにはなりません。
腹の立つ事もありますが、レオン様、エイル様とは違う心地よさが心の底にある事に気付きます。
だから、ルーク様と遊ぶ時にはチェスやパズルなどの頭を使う事をして、レオン様と遊ぶ時には木登りやかけっこ、令嬢のお茶会にイタズラをして過ごします。
エイル様とは兄弟のように優しくゆっくりと過ごします。




