第一話 レイナードとルーク
#第一話 レイナードとルーク
世の中には理不尽なことがたくさんあります。
例えば火を熾せと命令されたり、水を凍らせろと命令されたり、時には雷を落とせと言われたり。
そんな命令に私達は逐一応えています。
私達は『魔力』、と呼ばれるものです。
世界中に溢れていて人間が色々捏ねくり回すと色んな現象が発生します。
それを『魔法』、と呼んでいます。
魔力はそれ自体に意思はなく、使役者(主に人間です)が操作した通りに動きます。
その結果が火を付けたり、凍らせたり、雷を落としたりになるのです。
人間は魔力を扱うのにとても優れていて、単に魔力を使って自然現象を意図的に発生させるだけにとどまらないのです。
例えば魔力を集めて人の形を作り、意思を持って仕事を出来るようも出来ます。
私もその一人です。十五センチメートルほどの身長で背中に透き通った羽根が生えています。
髪は緑色で薄いピンクの服を着ています。
残念なのは、私は魔力なので普通の人間には見えません。
あ、そうそう。時々少しだけ私達の事を見られる人がいて、『妖精』と呼んでいます。
私は魔法使いに仕える妖精です。
魔法使いのお仕事はレイナード様が危険な目に会わないようにする事です。
そして魔法使いは私にレイナード様を見守るように言い付けます。
今日もレイナード様は元気に庭を駆け木の枝を振り回し、お友達のルーク様と仲良く遊んでいます。
走り回るのも好きですが、木に登るのも大好きです。時々失敗して落ちる事があります。
木から落ちると危険、というのは今までの経験から知っています。
掴まっている木の枝が折れそうになると、私は魔力を木の下に集めます。
すると、背中から落ちても魔力のクッションで怪我をしません。
レイナード様は池に石を投げるのが好きですが、時々勢いを付けようとして失敗して落ちる事があります。
水に落ちると危険、というのは今までの経験から知っています。
石を投げる勢いで水に落ちそうになると、魔力を集めてお友達のルーク様の腕を引っ張ります。
その腕でレイナード様を後ろから抱きしめると水に落ちずに済みます。
レイナード様が食事をしている時、スプーンを床に落として音を立てるとお父様に叱られます。
叱られると悲しい気持ちになる、というのは今までの経験から知っています。
けれど魔法使いから、叱られるのも必要だから助けなくていいと言われています。
肘に触れているのに気付かずテーブルの下に落としてしまいます。
お父様が不機嫌な顔をして、給仕がスプーンを取り上げ新しいものに取り替えます。
今日はレイナード様が先に謝られたので叱られずに済んだみたいです。
レイナード様は将来伯爵となる方です。
ルーク様は将来右腕となる方です。
それらがどのような意味なのかは私には分かりません。
けれど、二人が仲良しという事は分かります。
いつも一緒に遊び、一緒に学び、一緒におやつを食べています。
時々、喧嘩もします。
例えば、レイナード様が木に作られた蜂の巣を突こうとした時にルーク様がやめるように言うと怒ります。
意気地なしと言ってルーク様の胸を木の棒でつつきます。
ルーク様はむっとして、怖いわけではない、蜂が可哀想だからと反論します。
レイナード様はルーク様の言葉を無視して木の棒で蜂の巣をつつきます。
二人は蜂に追いかけられますが、私は蜂を宥めて巣へ返します。
もちろん、ルーク様は刺されて泣いています。
二人は少しずつ大きくなっていきます。
すると諍いも大きくなります。
もちろん、最終的にレイナード様が勝ちます。
例えば、二人は仔犬を飼います。
仔犬はエイルと名付けられ、二人は可愛がります。
それから遊ぶのは二人と一匹になります。
エイルは二人の成長する速度よりもうんと早く成長しますが、残念な事に病気になります。
そして、看病の甲斐なく虹の橋を渡ります。
エイルの亡骸を抱いてルーク様は泣きます。
レイナード様も泣きながら、ルーク様に泣くなと言います。
二人は泣きながら喧嘩をしています。
二人はお互いの心の痛みを癒し合う事は出来ません。
それは、レイナード様が伯爵であり、ルーク様が子爵だからです。
レイナード様はお父様から伯爵としての振る舞いを教えられて来たからです。
それで、レイナード様はおっしゃいます。
「ルークなんか嫌いだ。不幸になってしまえ!俺は木に一緒に登ってくれる強い友達とエイルのような可愛い友達が欲しい」
私の目を通して魔法使いがレイナード様を見ていました。
私の耳を通してレイナード様の言葉を聞いていました。




