第5話 前課長との関係
「一気に片付いたって感じだわ。」
そんな会話を工藤、高橋、源の三人は住宅街にあるタバコ臭い喫茶店で話していた。
「もっと苦労するかもって思っていた。
それこそ暴力事件になるかもって思ってたんだけど。」
高橋はつまらなそうにコーヒーを啜っている。
「さすがに暴力事件はまずいだろう。先月に続いて2か月連続は昼のワイドショーで放送されるレベルだわ。」
「工藤課長、ありがとうございます!相談してよかったです。」
相談?最初はストーカー疑惑で詰問されていたような気がするが。
「解決してよかったね。」
と工藤は愛想笑いを浮かべて答える。
「ところで為末さんと前課長の関係は何となくわかるんですが前課長と田中さんってどういう関係だったんですが、仕事でも絡みはなかったですよね。
やっぱり前課長に脅されていて仕方なくやらされていたということですか。」
源が純粋に質問をしている。
まだ社会に出たばかりの人には少々つらい現実というのがある。
真相を聞いていた工藤は眉間に皺を寄せ顔を背けた。
その態度を見てどういう関係だったか理解した高橋は工藤に言う。
「いい機会なんじゃない。男はろくでもないってことを教えてあげれば?」
「いや・・・さすがに言いづらい。これは男でもドン引きだよ。」
その言葉を聞いて社会に出て1年経っていない彼女は興味津々と言った感じだ。
教えてくださいよー!っと工藤に物理的に迫っている。
彼女の顔が近づきそれから逃げるように背中を反らせる工藤。
「わかった、わかったよ、全部言うよ。聞いて後悔しても知らないからね。」
と両手で彼女を静止して落ち着かせる。
「なんで田中さんが前課長とグルだったのかってのは・・・」
そして彼は話し始めた。
田中は独身で女性ウケもよくなかった。
見た目もパッとしなければ魅力的な会話ができるタイプでもない。
恋人もおらず自宅と会社を往復するのが彼の人生であった。
そんな時に課長に女性を紹介された。
女性は課長の遊び相手の1人だった。
課長は女遊びが派手だったようで仕事と家庭でのストレスを異性で発散することに段々と嵌って行っていた。
奥さんとの仲は当然冷え切っており課長のスマホにはGPSのアプリがインストールされどこにいるのかが監視されていた。
女遊びができなくなった課長はその相手を社内に求めるようになった。
社内であればGPSを辿られても会社で残業していると思わせることができ、プロ相手では刺激に満足できなくなっていた課長としても会社の女性を標的にするのは新たなチャレンジとして興味がそそられていった。
そして課長は自分の意のままに動いてくれる協力者を必要とした。
それが管理チームの為末さん、藤田さん、そして情報チームの田中さんであった。
田中さんには自分が遊んだ女性を紹介して協力関係を保っていた。
それが課長が逮捕されて会社からいなくなったので彼は女性に餓えていた。
本当なら源さんも自分のものになるはずだったのにと。
そして彼は源さんにストーカーして襲う機会を探っていた。
「・・・というわけです。」
工藤の話を聞いてため息をもらう高橋に対して源は背中を反らして引いている。
「私が男嫌いになるのもわかるでしょ?」
高橋のつぶやきに源も頷いた。
「男で一括りにしないでほしい。男でもドン引きだから。
さすがに一ミリも擁護できないよ。」
「源さん、あなた社内で人気あるんだから気をつけなさいよ。」
高橋に言われて彼女ははい、と小さく返事をした。
喫茶店から出て源さんとは別れた。
高橋と工藤の2人は並んで帰宅していた。
「そういえば為末さんもあくどいことしていたの?」
「あくどいというかあの人の場合は若い女性に嫌がらせをする役目だったみたい。」
「役目って言うか元々そういう人だったじゃない。」
「まぁ噂好きで噂をまき散らしている人だったから喜んで課長に協力していたんだろうね。」
為末が女性を精神的にいじめ、田中がストーキングを行う、対象者が疲弊している時に前課長が救いの手を差し伸べる。
それでも相手がまだ頼ってこないときには藤田も加勢する。
そうやって役割分担をして女性を陥れていた。
その見返りとして為末は仕事の負担軽減と各種ハラスメントの黙認、田中は課長のおこぼれに預かり、藤
田は派遣契約の延長だった。
事務職の派遣は人気がありいつでも若い女性に切り替えたいと陰で言われていたらしい。
生活のため協力させられていたと考えると同情する心が芽生えてくる。
「そうかしら・・・彼女、私たちを書庫に監禁しようとしていたとき顔は笑っていたわ。
本当に嫌々やっていたのかしら。」
「それに関してはその場の雰囲気というのもあるから何とも言えないかな。
そういう行為を何度もしてきて罪悪感が薄れていたとかも考えられる。
彼女自身も自分がどういう気持ちでそういうことをしていたかはわからないかも。」
工藤が息を大きく吸い込み決意を固めるように息を吐いた。
「ところで本当に退職するのか。まだ部長には言ってないし事件も解決したことだし残ってもいいんじゃないか。」
「むしろこれで心置きなく会社を辞めれるわ。ありがとう。」
はぁ、とため息をつく。
「そうだ今度遊びに行かないか。久々にさ。」
「久々って何年振りなのよ。」
「いいじゃないか、もう悩みはないんだろ?」
「まぁそうね。」
「行先は俺が考えておくよ。」
「はーい。」
2人ともこの瞬間だけは26歳の当時に戻ったような気分になっていた。
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