第6話 これから
土曜日お互い仕事が休みでデートの日になった。
デートと思っているのは俺だけかもしれない。
同期でお互いに趣味が同じと言うことで出かけることがあった。
最初は同期数人のグループでそこから段々と人が減っていき2人だけで出かけることになっていった。
淡い恋心と言えば響きはいいがどうにかして恋仲になろうとしていたがその一歩が踏み出せずにいた。
喫茶店でコーヒーを頼んで雑談し昔の同期の話しをした。
俺も高橋もどちらも退職した同期とは連絡がないらしくみんなどうしているのかと勝手に将来を予想したりする。
その後は近くのモールでウィンドウショッピング。
軽食を済ませてさらにウィンドウショッピング。
色んな店や場所を周る中で段々と高橋の顔が困惑していく。
一方工藤の方は楽しそうに会話していた。
そして夕方、護岸工事がされて遊歩道になった川の側を2人で歩いている。
季節は11月下旬。川の風は冷たい。
「ねぇ今日のはデートなのよね?」
「そうだよ。」
「なんか学生というか30代の人がするようなコースじゃなかったような気がする。」
「30代のデートって何するんだ?」
「うーん。そういうのは普通男が考えるんじゃない?」
「2人で考えた方がいいだろう。2人で楽しむんだし。」
「たしかに。んー。ドライブとか?」
「車持ってないわ。」
「買いなよ~。持っていると行動範囲広がるんじゃない。」
「お金の計算しちゃうとレンタカーでいいよなってなる。」
「経理って感じね。」
「それは花音もだろう。」
「確かに独身だと要らないかもね。結婚して子供ができたら必要になる車の種類も変わるだろうし。」
「そうそう、何回も買い替えることを考えると必要になったときに買うってのでいいと思うんだ。」
川に設営されている公園のベンチに腰を下ろす。
「今日のデートはどうだった?」
「んー、私以外だとゼロ点だと思う。」
「そうだと思う。」
「私ならんー、80点かな。」
「そこは100点じゃないのか。」
「だって今日のコースって私たちが初めて2人で出かけた場所でしょ?」
「わかっていたか。」
「最初の喫茶店はわからなかったけど、ウィンドウショッピングあたりからもしかしてって思って、昼ごはんで完全に思い出した。よく覚えていたわね。」
「花音も覚えていたってことだからお互い様だよ。」
2人で笑う。
そして工藤は高橋の顔をじっと見つめる。
その雰囲気に圧されて高橋は黙ってしまう。
2人の間に沈黙が流れる。
お互い良い年齢だと思う。
あの時から俺の時間は止まっている。
5年前、ついに決心して告白しようとデートプランを練り予定を取り付けようとしていた時。
あの日出社すると社内は騒然となっていた。
管理部の女子社員が残業中に飛び降りたという。
幸い命はとりとめたが意識が戻らないという。
役員は風聞が悪くなることを恐れて箝口令を敷いた。
高橋のところに顔を出すと怒りの形相になっていて会話することはできなくなった。
それから何回も何日も会話を試みたが無視されてばかりだった。
事情を知る同僚から彼女と飛び降りた女子社員のことを聞き、彼女が犯人捜しに躍起になっていることを聞かされた。
そのまま5年も月日が流れた。
彼女が男性社員と口をきかないことは常識となり一部の女子社員としか仕事をしないようになっていた。
前任の経理チーム課長は彼女の扱いに困り精神を病み退職してしまった。
その穴を埋めるため、現場と事務との経理ルールを整理するために俺が送り込まれた。
とは言ってもそれは俺にとっても好都合だったので引き受けた。
彼女の側で彼女を守ろうと勝手に誓った。
彼女の憮然とした態度で誰もが彼女は傷つかない神経の持ち主だと思っているがそうではない。
以前の彼女はそのあたりにいるごく普通のOLだ。
よく笑い、冗談を言い、気さくな性格。
それが180度変わってしまったのだ。傷ついていないわけがない。
だから彼女の上司になって彼女へのクレームを受け止めることにした。
いつか治ってくれるはずということを待つことにした。
回想が長くなってしまった。
実際には30秒くらいだろうが彼女の顔の眉間には皺が寄っている。
俺は彼女の両肩を掴んだ。
驚いた表情になる。
「好きだ!付き合ってくれ!」
勢いに任せて言った。
身体中が熱くなる、頭のてっぺんからつま先まで茹でられているようだ。
彼女の方はと言うとひゃ!と声を上げて見る見るうちに顔が赤くなる。
「・・・」
黙ったままだ。
「好きだ!」
もう一度言った。聞こえているはずだが念のため。
「聞こえているよ。」
「どうだ?」
「どうって言われても、わたし会社辞めるし。」
「それについて何だが。考えてみたんだが、会社を辞めるって卑怯じゃないか。」
「?」
眉間に皺を寄せ首を傾げている。
「5年前の課長の件、たしかに傷ついたのはわかる。
とてもショックだと思う。男性社員を敵視して避けていたのもわかる。
それでも、それでも俺もその中に入っていたのはおかしい!
俺が犯人じゃないってわかってだろ!」
「・・・でも、あの時は全員が犯人候補だったから。」
「それでも俺のことは信用してほしかった。相談してほしかった。
なんであんな感じになってしまったのか全然わからなかった。」
「それは・・・ごめん。」
「それに、花音の態度のせいで上司だった課長にクレームがめっちゃきてそれに耐えきれなくなって辞めてしまったよな。」
「それも・・・ごめん。」
「それで俺が花音の上司になった。相変わらずクレームは来ていたが俺は守ろうって決めたからクレームを黙殺していた。俺が何度も頭を下げていたんだ。」
「それも知ってる。」
「だからこそ花音は辞めるべきじゃない。
これからは愛想よくして少しずつ自分の評判を上げていかないといけない。」
「もう上がらないよ。その労力で新しいところで働いた方が効率がいい。」
「そうじゃない。自分で評判を落として、自分の問題が解決したから辞めますって自分勝手すぎる。」
「でもここ1カ月くらい仕事するのしんどい。全然スムーズに進まないし。
今までよくこんな状態で仕事していたなって気がする。」
「周りの対応はまだ変わったとは言えない。それは花音が回復したってことを知らないからだ。
これから少しずつ評判を上げていけば少しずつ仕事はしやすくなるよ。
俺のところに来るクレーム、今はほとんどないからな。
高橋さん変わったよねって言ってくれる人が増えたんだ。
これから評判を上げていくんだよ。」
「でも・・・しんどいよ。疲れるよ。」
「俺がいる。同期、上司の俺がいる。今まで花音の壁になってきたんだ。
もうしばらく壁になることなんて平気だ。
だから辞めるな。自分の問題が解決したからってそれで終わりじゃない。」
「・・・わかった。もうちょっと頑張ってみる。」
花音らしい返事だ。
以前ならYesかNoでしか答えないやり取りだったが昔の彼女は優柔不断でどちらかと言えばか弱いところがある人なんだ。
「一緒に頑張ろう。」
「うん。・・・なんか告白っていうかプロポーズみたい・・・」
両肩をガシッと掴んで逃げれない体勢になっている。
「俺は結婚してもいいと思っているけど」
「それは早いよ。まずは恋人からでしょ。」
OKということかという顔で花音の顔を見ると無言で頷いてくれた。
嬉しくてそのまま抱き着いた。
翌日いつも通りに出社する。
花音も後ろにいたらしくオフィスのドア前で挨拶をされる。
そのまま2人で入っていく。
歩きながら挨拶をかけていく、相手からも挨拶が次々と返ってくる。
彼女も元気よく挨拶していてみんな普通に返している。
いつもと同じなのに爽やかに映る。
今日も仕事を頑張るかと気合を入れた。
了
これにて一連の話は終了になります。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
評価していただけたら幸いです。




