第4話 汚名返上
どうやら私のことを課長の悪趣味な犯行グループの1人と思っているらしい。
そうではないと主張することにした。
「俺は高橋と源さんが一緒に帰っているのを見てその後ろを歩いていただけだ。たしかに隠れてしまったのは謝る。ごめん。
でも発端は高橋はこっちの路線じゃないと思ったからなんだ。引っ越ししたなんて話は聞いてないし気になってしまって。」
「もう何年もあなたとは仕事以外の会話はしてないでしょ。それに私が引っ越したからってあなたに言う必要ないよね。」
「昔は何でも話していたじゃないか、一緒に遊びに行ったこともあっただろう。
確かにここ数年はそういうことはなかったが俺は決して花音のことを見放してなんてない!」
「カノンって、もしかして高橋さんの名前ですか?」
口にしたのは源さんだ。
「そうよ。何か?」
「いえ、なんでもないです。ただかわいらしい名前しているんですねって思いまして。」
「今はその話は関係ない。」
高橋が会話を打ち切る。
「なんで私たちの後をつけていたのよ?」
「だから言っているだろ。俺は花音の後をつけていたんだ。
どうして花音は源さんと一緒に帰っているんだ。」
「あなたには関係ない。」
「関係あるよ。こっちはストーカー呼ばわりまでされたんだ。
・・・あれか?源さんがストーカーに合っているってことか?」
「わかっているじゃないの。」
自分で答えに辿り着けた。
と言ってもそれはそれで衝撃的な事実である。
「え?本当に源さんストーカーに狙われているの?」
彼女はコクリと頷いた。
「誰か心当たりはあるの?」
「確定ではないけれど情報の田中さんと管理の為末さんが怪しいと睨んでいる。」
「どうしてその2人?1人は女性だよ。
田中さんと付き合っていたの?」
彼女は顔と手を必死に横に振って否定の意思表示をする。
「仕事では何度かお世話になっていますが恋愛の対象としてはまったく見ていないです。
お父さんって感じの人なんで。」
たしかに彼女と彼では歳の差は15歳以上離れている。
人柄のタイプも違うし確かに恋愛対象にならないと言われるとその通りだねと納得してしまう。
「ということは田中さんの片思いってわけか。管理の為末さんが関係しているのはなんで?」
「あの2人は課長とグルだったのよ。正しくは派遣の藤田さんも入れて3人ね。
多分だけど3人で共謀して課長が女性を手籠めにしていたんだと睨んでいるわ。」
手籠め?不穏な言葉である。
たしかに社内の噂でもそういう話は聞こえてきていたが・・・。
「あなた同じ課長でしょ?前課長について何か知らないの?」
「うーん。俺が課長になったのは3年前だしな。
同じ部でも仕事の役割が違うから絡みってあんまりないんだよね。
あの人って仕事ではまったく問題がなかったしね。
万年課長って言う人もいたけど私はそこまで印象の悪い人だと思っていなかったよ。
今回の事件で驚いたけどね。見かけによらないんだって。」
花音がため息をつく。
使えない奴って感じているんだろう。
「とりあえず田中さんと為末さんが怪しいってわけね。
それなら異動させたらいいんじゃないの?」
2人の頭の上から”?”が出ているのが見えた気がした。
「うちみたいな大手じゃない会社の人事なんて上司の気分一つで異動になることなんて珍しくないからさ。
2人が怪しいなら異動させたらいいと思うんだけど。」
「そんなに簡単に異動って出来るもんなの?」
「課長や部長の承認が必要だね。
あとはどこかに空きのポストがあるかどうかだけどそんなに難しい話じゃない。
承認を得るために2人がストーカーをしていたって証拠がすんなり行くと思うね。
田中さんはIT関係の知識があるから支店の人に声をかければどこか手を上げる人はいると思う。
為末さんの方はどの支店も手を上げないかな。
それでもねじ込めないことはないと思うよ。」
「うちの会社って女性の異動ってあるの?女性で支店が変わるほど異動になった人なんて聞いたことないんだけど。」
「古い会社だからね。昔は女性は結婚したら退職していたころの名残かな。
今は結婚しても働く人が増えたから男と同じように異動させたらいいって声が上がっているよ。
為末さんならそういう意味ではぴったりだと思うね。
新課長も異動させたいだろうし。」
新課長の新しい業務改革にことごとく反対しているのが為末さんだ。
部長との会議の場でもその反対意見を話しているが単に為末さんが新しい仕事を覚えたくないということしか聞いていない。
「どうして為末さんはどの支店も手を上げないんでしょうか。ベテランなんだからどの支店も欲しいと思うんですが。」
「ベテランだけどああいうタイプってどの支店にもいるんだよね。
支店は規模が小さいから首領タイプは一人いれば十分なんだよ。
そこによそ者の為末さんが来たら既存のドンと喧嘩になるだろうからね。」
「たしかにああいうタイプは各支店にいるわね。」
めんどくさいことを思い出したのだろうか花音はため息をついた。
「まずは証拠集めかな。ストーカーをしていたっていう証拠があれば問答無用に異動できるっていうか退職させる方向に持っていくことも難しくない。」
高橋と源はお互いに顔を見る。
そして「証拠があればいいのね。」同時に口にした。
それからはあっさりと事が運んだ。
翌日から高橋が先に会社を出て、それから源が席を発つ。
源が1人で道を歩くのを遠くから高橋が見守る。
そんなことをして3日が経過した時とうとうしっぽを現した。
源の後ろを情報の田中が歩いている姿を見つけた。
高橋がスマホで彼女にメッセージを送り、そのたびに彼女が振り返る。
それに合わせるように田中は物陰に隠れた。
源がいつもとは違う道を進めば彼もその道に進んでいく。
その姿を高橋のカメラで撮影する。
警察に届け出る証拠としては十分でなくても社内で異動させるための証拠としてならば十分であった。
翌日経理チームの課長を通じて情報チームの課長に会議の場を設けてもらい撮影した映像と課長と彼のつながりを打ち明けた。
部長に話しましょうか、と工藤課長から提案され彼はそれを拒否した。
自分で解決すると言い1週間時間が欲しいと答えた。
工藤課長は3日間で決着をつけてくださいと言い、期限が過ぎれば部長に報告すると言い放った。
その翌日、情報チームの田中が退職をするというのが社内に広まった。
彼は支店への異動か退職かを迫られ退職を選んだらしい。
そして道連れなのだろう為末と課長の関係についても暴露した。
その録音されたデータを元に今度は管理チームの新課長が為末と話し、彼女も退職を選択した。
こうして課長とその一味は会社から芋づる式に消えることになった。
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