1年前
景色が見える。
ここは氷の柩の中で、充たされた溶液で生きながらえているというのに。そんなピクリとも動かない自分の様子すらも、部屋の隅を流れる水を通して見える。
いつもならば沈んでいるだけの意識が、あたたかな炎をともされた気球のように浮上していた。
流れ巡る水を通して様々な景色が見える。目まぐるしく映される場面が変わる。
祭壇の建つ険しい峰を少し下ったところには、川の水で身を清め、そして癒す者。彼らはこの場所に食料や日用品をおろしたところだ。
この場所まで来る為には雷精域の飛び地を通らなければならないみたいで、川に潜る者たちはホッとした顔をしていた。
分かる。
水精が匿われた今の状態では、水精域以外の様子は感じ取れない。
さらに低地に視界が進み、人々の生活圏の近くに来れば、池では魚介類を捕る者、田ではあぜを手入れをする者たち。そして広間にある大きな噴水の周りを駆ける子供たちが映った。
この祭壇に常駐する人々は、いつも襲撃に備えて緊張した様子だけれど、生活圏の人々は、ゆったりとした表情を浮かべている。
水精を閉じ込めることで、水精域の人々は守られている。
だけど、いつまでもこのままではいられない。酒場で酔いを楽しむ者は、体を蝕まれるとたしなめられている。
──この状態は、均衡を崩して然るべし──
誰も話しかけてくれる人がいない状況の中、頭の中に漠然と声が響く。
オレはあなたの正体を知っている。あなたは万物に公平に降り注ぐ水の力、あなたの正体は水精。
──汝等は強大である。そしてあまりにも危うい──
公平という存在を、酔いをもたらすものとして置き換えられた存在は続ける。
──遠方から水の調和が絶え、乾きと共に命は果てゆく──
──ただちに解放されたとて、力の波及は近接地域への波及からである。もはや猶予は大いなる恒星の周囲を数回かけるのみ──
──懲罰者として、この地に息づく生物の息吹を止めるべき時か──
「待って下さい。それではみんながあまりにもかわいそうです」
声なき声で、水精に伝える。
「皆があなたを独占する理由は、外の人々に怯えているからなんです。だからオレが皆に外との交流を始めることを勧めます。お互いを知り合って、傷つけあうことがなくなれば──不安がなくなれば、きっとあなたを閉じ込める理由はなくなるでしょう」
景色が見える。
あの日、助けに来ると約束した少年が、水精解放のために動いている水精域の人々と、しきりに話し合っているのが。
「次に目覚めた時、友愛の願いを込められた者として、あなたを解放してみせます」




