2年前
──チカチカと、水飛沫に閃光が映る。
獰猛な笑みを浮かべる戦士達は、雷の矢を構えて、こちら側の水の砦を裂こうとする。戦士は宙を駆け、水精の力を使役する防人を、一人、また一人と撃ち落とす。
「このままでは雷精域の境を守る、パージャを維持することが……」
切り立った崖のこちら側を守る大瀑布、この滝の水にこちらの守備範囲内で触れた者は、内側を病んで伏すのだろう──なぜかザザはそう直感した。
それなのに、雷精域の戦士達は怖れというものを知らないかのように立ち向かう。
戦局が戦士達の圧倒的優位になり、士気が最高潮に高まった頃、中心者と思われる壮年を取り巻き、嵐が巻き起こる。掲げた両手の上には、ひときわ巨大な雷の刃が爛々と輝く。
『雷精よ、戦いの時だ!!! 堰き止めるものを、我らこそが崩してくれるわ!!……──破壊の一撃!!!』
絶望が漂う防人をかき分け、一人の青年が前に出て、賛歌を唱え始める。
「甘き毒を新たに与えん……酔いしれるがいい、色欲の惑い……!!──水精は我らが眷属、決して手放しはしません……!!!」
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「兄ちゃん!?」
「わたしは、あなたと比べて、年齢が離れているとは思えませんが?」
「わっ?!……誰です?」
ザザがガバリと身を起こすと、すぐ目の前に少年の顔があった。
栗色の髪、灰色がかった瞳は、ザザがこれまで見たことのない色である。
そもそも、ここは大瀑布──毒水の砦の内側にある、祭壇。それも、これまた壁際に沿って、外敵に対して毒の効果を発揮する水が流されている場所である。……この場所の説明を受けたことがないザザが、そのような情報を知っているのは我がことながら不可解ではあるが。
「わたしはあなたを助けに来た者です。行きましょう、ミトラ」
「ミトラ?……違う? オレの名前はザザでしょう……?」
灰色の瞳の少年は、考え込むように眉を潜める。と、ザザを氷の柩から出るように促し、二人で手をとってクルクルと踊り出した。
クルリと大きくターンを決めたところで、侵入者はザザを抱き寄せ、唇を合わせる。
「んぅ?!……ん……」
熱い唾液をコクリと飲み干させたところで、侵入者はザザから距離を取る。
「水精を取り巻く事態は、想定より深刻です。しかし、あなたは事態を打開する鍵です。これはおそらくまちがいありません。近い将来、わたしたちは再びあなたを助けるでしょう。必ず」
少年が栗色の髪をなびかせユラユラと踊ると、彼の周辺が暗くなり、フッと姿を目視できなくなった。
「ザザ!!!」
「兄ちゃん!」
流れる汗を拭こうともせず、兄と呼ばれたその人、ミィはザザを抱き締める。
「雷精域は全員撃退したと思ったのですが……なぜ起きているのです?! 何があったというんですか!?」
「えっ? 知らない人がいて、兄ちゃんに、寝る前にしてもらうのと同じことを……」
その言葉を聞くや否や、ミィは噛みつくようにキスをした。
「ちょっ、にいちゃ……?!」
「金輪際、俺以外とこういうことはしないで……!!」
血相を変えた様子に怯むザザを見て、ミィは一息ついてから、にこりと言葉を重ねる。
「兄ちゃん寂しいなって、嫉妬してしまうでしょう?」
「うん、ごめんなさい」
「じゃあ、仲直りにもう一回ですよ」
「うん!」
「ははっ、素直な子は好きですよ」
嫉妬深い兄は、グリグリと頬を擦り寄せる。
「愛していますよ、ザザ。──心穏やかな眠りを与えよ、心地よき微睡みを授けよ、夢の先で全てを忘れて、水精と共に全てを忘れて……」
ザザはこんこんと眠り込んだ。けれど、栗色の髪の少年の熱が消えることはなかった。
ミィは苦い顔で、氷の柩を修復しながら、ザザをそこに閉じ込める。
「トラップの破壊は雷の矢に近い、だが眠りから覚まさせたのは……内通者め、どこまで他の精域と繋がっているというのです……!?」




