80 魔道具『滑空舞羽』
下へ下へと落ちていく。
『神の収納箱』を起動し、一つの魔道具を取り出す。
取り出したのは羽根の形をした魔道具、『滑空舞羽』だ。
この魔道具を起動すれば着地の瞬間重力から解放される。
高所から飛び降りても無事に着地することが出来るのだ。
『滑空舞羽』を起動し、着地の直前、ふわりとした感触と共に地面に無事に着地する。
そして『滑空舞羽』を再び収納箱に仕舞い込み、背後の建物を振り返った。
(ここで逃げるのはあり得ない)
なぜなら彼らは、こちらの姿が見えないことに気が付いたからだ。
姿が見えない、それが分かっていれば対策を取るのは簡単だ。
現に先程血を飛ばして目印をつけられ追い込まれた。
対策を取られればいままでのような暗殺は不可能になるだろう。
(先程の二人はここで必ず仕留めなければならない)
外套に付いた血を『霧の小型灯』の光を当てて上書きし見えなくする。
さらに『神の収納箱』から小型のナイフも取り出しそれにも『霧の小型灯』を当てる。
そうして『霧の小型灯』を収納箱に仕舞おうとした瞬間、自分の左腕に痛みが走った。
痛みと共に自分の左腕に何かが垂れている感触がある。
(血かな?怪我したかな)
自分の血は見えない。
自分の中にある何かが血液も含む全てを透明にしているからだ。
だから目視で確認は出来なかったが、おそらく先程窓に飛び込んだとき、どこかを切ってしまったのだろう。
(治療は……しなくていいか)
そもそも怪我を治療する魔道具など持っていない。
それに黒角族である以上、種族の特性状傷は直に塞がる。
腕の痛みを無視して、先程飛び降りた建物へと再び足を向けた。
※
音を立てないよう慎重に足を進める。
階段を登り先程飛び降りた部屋を覗く。
部屋に二人はいなかった。
階段ですれ違ったりはしていない。
出口も一つしかない。
あの二人はまだ建物からは出ていないはずだ。
耳を澄まして周囲の音を拾う。
同時に『岩鼠のイヤリング』も起動して情報を探る。
すると二つの心の声が聞こえてきた。
一人は此方を探すか、一度撤退をするかを迷っている。
撤退した場合、後を付けられることを恐れているようだった。
もう一人は自分が殺されるのではないかと怯えている。
すぐにこの場から逃げたいという気持ちが溢れていた。
(二人目のほうは脅威ではないかな)
そうして二人を探し回ること数刻、最初に交戦した部屋に二人はいた。
このまま隙を突いて仕留める。
そうして一歩踏み出した瞬間、別の誰かの思念を『岩鼠のイヤリング』が拾った。
(これは!?)
その思念を拾ったことに驚いて動きを止めてしまう。
こちらの動きが、その人物には筒抜けだったのだ。
「避けろ!」
建物の下の方から声がする。
その声に反応し、仕留めようとしていた男が飛びいてしまった。
間合いから外れてしまった、ここから攻撃しても届かない。
追撃するか逃げるべきか、迷っている内に階段下から誰かが駆け足で上がってくるのが見えた。
現れたのは見たこと無い人物だ。
スーツを身につけており、頭にそりこみを入れている男だ。
その男の掌に水晶が握られている。
一瞬フォールゥの『虚無光の水晶』と見間違えたがすぐに違う物だという事には気が付く。
その人物は左手に水晶を持ち、右手には刃の長い剣を持っている。
前を見ていない、水晶を見ながら向かってくる。
そうして持っていた細長い長剣を此方に突き出した。
姿が見えないはずのこちら目掛けて剣を突き出しているのだ。
彼はこちらの動きを把握している。
『岩鼠のイヤリング』で心を読みその事は把握していた。
こちらの動きを把握している人物、ハウゼントゥルムの幹部ヴァルデがこちらに向かって襲い掛かってきているのだ。
「お前が亡霊か!死ね!」




