79 魔道具『灯火ククリ』
『深淵狼の短剣』に付いた血を布で拭いその場に捨てる。
転移台座で移動してきてからはひたすらハウゼントゥルムの構成員を殺して周った。
最初は転移台座で移動してからすぐに戻るつもりだった。
だが転移台座で移動した先、転移台座を囲むように見張りが立っていた。
イヤリングで心を読む、彼らはハウゼントゥルムの構成員だ。
ハウゼントゥルムの構成員だと分かった瞬間、自身の中にある怒りを抑え切れなかった。
その場で皆殺しにしようとしたが直に思いなおす。
ここで彼らを皆殺しにしたとしてもそれで終わりだ。
どうせなら構成員をまとめて一網打尽にしようと思ったのだ。
まずは『転移台座』にはめ込まれていた魔石をこっそり抜き取る。
間違っても彼らが『転移台座』を使用し、フォールゥが居る場所へと移動させない為だ。
そうしてその場に居たハウゼントゥルムの構成員全ての心を読み取る。
アジトの場所や構成員の所在を把握してから行動する事にした。
ストーク君に協力していた構成員には手を出さなかった。
そうやって何度もハウゼントゥルムのアジトを回り、構成員を仕留めていった。
今もヴァルデと呼ばれるハウゼントゥルムの幹部の部下を殺し終えたところだった。
あたり一面鉄臭い匂いが充満し、周囲は不自然なくらい静まり返っている。
だからだろうか。
沈黙の中、外で誰かが喋る声が聞こえてきたのだ。
みればこの建物目掛けて3人の人物が歩いてくる。
ここからでは彼らが何を話しているのかは聞こえない。
共通するのは服に巨大な目玉の形をした何かをつけているという事だけだ。
『岩鼠のイヤリング』の効果範囲からは外れている、彼らが何をしにこの建物を訪れたのかは分からない。
三人は建物の前でなにやら調べるような動作をしていた、しばらくその場で何か言い合っていたが、建物を指差すと中へと入ってきた。
ここはハウゼントゥルムが所持する建物だ、一般人は入ってこない。
彼らの同行を探るため、壁伝いに音を立てないよう移動する。
みれば下の階から3人が上階へと上がってくるところだった。
階段を登りきった三人は近くにあった部屋の扉を開き中に入る。
気が付かれない様、三人に続いてその部屋へと入る事にした。
「おいみろ、ここにも死体がある」
「首を両断か、相手は手だれだな」
部屋の中に入ると3人の中で一番大柄な男がしゃがみ込み、死体の様子を調べていた。
「血が乾いていない、まだ犯人は建物内にいるかもしれない」
周囲を警戒しているのか、一人が死体から離れ僕の目の前まで歩いてきた。
当然透明になっているこちらには気が付いていない。
息が届きそうなくらいの距離、存在がばれないよう思わず呼吸を止める。
岩鼠のイヤリングは既に3人の心の声を拾っていた。
彼らはヴァルデという幹部の部下だ。
ストーク君を殺そうと部下を動かした幹部の一人。
彼ら個人の思想を読んでも、普段は恐喝に暴行。そうやって生計を立てている。
碌な人間ではない、殺しても心は痛まない。
『深淵狼の短剣』を構える、そうして一番近くにいた構成員の首を一閃した。
「デューク!?」
残りの二人は直に異変に気が付き壁沿いに跳躍した。
壁を背にして殺された構成員の名前を叫んでいる。
「見ろ!血の後がある!そこに誰かが居るんだ!」
血に塗れた『深淵狼の短剣』を指差し叫んでいる。
いままで殺して回った構成員は血の跡などには気がついていなかった、気が付いても混乱し動きを止めるだけ、何も出来ない者ばかりだった。
手に持っていた『深淵狼の短剣』を投擲する。
声を上げた大男のほうに投擲したのだが躱された。
そして大男は此方目掛けて向かってきた。
即座に『神の収納箱』を起動する。
取り出したのは『灯火ククリ』と呼ばれる短い湾刀だ。
暗闇で光るだけの唯の刃物、特殊な効果は何も無い。
『灯火ククリ』は使い捨てにするつもりだった。
牽制も兼ねてもう一度大男に『灯火ククリ』を投擲しようと構える。
「なんだ!剣が浮いているぞ!」
「人だ!姿を隠す魔道具を使用しているんだ!絶対に逃がすな!ここで仕留めろ!」
持っていた『灯火ククリ』を放り投げる。
先程より近くで投げたので、大男も身を捻りながらギリギリでククリを躱す。
その隙に二人から更に距離を取る。
正面から戦うのは下策だ。
相手に此方の姿は見えないのだ、
身を隠し、相手が油断したところで攻撃するのが此方の最善手。
いまここで交戦するうまみはあまり無い。
だが『深淵狼の短剣』は回収したかった。
少し迷いながらも部屋から出て階段を駆け上る。
上階の扉を全て開け、一番奥の部屋へと飛び込んだ。
窓際に寄りかかり呼吸を整える。
「くそっ!何処行きやがった!?」
音を立てて階段を登ってくる音がする。
この部屋に入るところは見られていない。
他の部屋の扉を開けて撹乱した、隙をみて下の階に下りて『深淵狼の短剣』を回収しよう。
だが確信があったのか、それとも偶然だったのかは分からない。
先程の二人は一直線に僕が潜んでいる部屋へと踏み込んできた。
先頭にいるのは先程の大男、その後を追うようにもう一人の男が付いてきている。
先頭にいる大男はなぜか生首を手にしていた。
「おいタルソン、なんでデュークの頭なんか持っているんだ」
「これはこうするんだ」
そう言って大男は首だけになった死体の髪の毛を掴んで振り回す。
生首から垂れていた血が周囲に飛び散る。その血は部屋の隅で身を潜めていた僕にも掛かった。
「いたぞ!あそこだ!」
瞬間、拳を振り上げながら一直線にこちらに向かって襲い掛かってきた。
逃げ道はない、躱すこともこの狭い部屋では難しい。
背後には窓があるだけだ。
意を決して背後の窓へと飛び込む。
建物の上階から飛び降りる事にした。




