78 魔道具『水晶眼』
ハウゼントゥルムの幹部の一人、ヴァルデは目の前に並んだ三人を眺める。
集めたのは自らの部下の中で最も信頼できる三人だ。
3人の前に設置された机の上には平らな目玉の形をした魔道具がそれぞれ三つ並んでいる。
「ヴァルデ様、これは?」
真ん中にいた部下、一番大柄な男タルソンが声を上げる。
「それは『水晶眼』と呼ばれる遠見の魔道具だ、その目玉が捉えた視界はこの水晶に表示される」
ヴァルデは机の引き出しに閉っていた三つの水晶のうち一つを取り出し掲げる。
その水晶をみれば部屋の天井が映されていた。
「お前達はその魔道具を身につけ、現在街を騒がしているストークの亡霊を探し出して殺せ」
「ストークの亡霊……」
ここ数日、ハウゼントゥルムの構成員が暗殺される事件が多発している。
殺されるのはストークに敵対していた幹部の部下ばかり。
ハウゼントゥルムの構成員である事を隠して生活していた部下も、なぜか特定され暗殺されている。
「これ以上舐めたまねを許すわけにはいかない、ハウゼントゥルムの権威に関わる!」
そう言ってヴァルデは机を叩く、その衝撃で『水晶眼』が跳ね上がった。
「何がストークの亡霊だ!あいつは死んだ!」
ヴァルデは顔を真っ赤にして起こっている、部下の三人はヴァルデを刺激しないよう黙って聞いている。
「死んだ人間に出来る事など何も無い!おそらくあいつの部下が何かの魔道具を使って暗殺をしているだけだ!」
ヴァルデは息を荒げながら机に叩き付けた自分の拳を見つめている。
「お前達は何としてでもストークの亡霊と呼ばれている人物を探し出せ!行け!」
「はいっ!」
3人は同時に返事をし、机の上に置いてあった『水晶眼』を回収してヴァルデの私室を後にした。
※
「どう思うカペル」
タルソンは自身の横で並んで歩いていたカペルに声を掛ける。
カペルは渡された『水晶眼』をピンで服に着けている所だった。
「間違いなく内部犯だろうな、出自を隠していた構成員まで殺しているのは内部の事情に詳しいからだろう」
身分を隠し、一般人に扮して暮らしていたハウゼントゥルムの構成員まで殺されている。
衛兵に官僚、メディアなどにもハウゼントゥルムの構成員は潜んでいる。
彼らは慎重に行動している、数年はその組織で真面目に働き、ある程度の地位を得てからハウゼントゥルムに益がでるよう動くのだ。
にも関わらず、組織の中で狙ったかのようにハウゼントゥルムの構成員だけ殺されているのだ。
その中にはまだ行動すらしていない者も殺されていた。
「此方の情報が外部に漏れていた可能性は無いのか?敵対勢力の人間が殺して回っているでは?」
斜め後ろを歩いていたデュークが疑問の声を上げる。
「その可能性もある、もしくは何らかの方法でハウゼントゥルムの構成員かどうか判断する方法があるのかもしれない。どちらにせよ情報が漏れているのは確かなのだ」
「くそっ、どいつが情報を流してやがる」
「もしくはハウゼントゥルムの構成員か特定する魔道具があるのかもしれないな」
(魔道具か)
以前、そんな事ができる魔道具を持っている可能性のある人物がハウゼントゥルムにはいた。
ストークだ。
奴は自身の派閥に送り込まれた他の陣営のスパイを見抜いていた節がある。
例えばストークの派閥に潜り込ませたスパイから流れてくる情報は、どれも陽動や虚偽の情報ばかりだったのだ。
ハウゼントゥルムで情報を扱うのが一番上手いのがストークだった。
だから今、ハウゼントゥルムの隠れ構成員が殺されている現状を見て、事情を知っている一部の人物がストークの亡霊だと騒いでいるのだ。
「他の幹部とは協力しないのか?ワーディル様やアルジョン様の所はどうしているのだ」
「ここだけの話、アルジョン様は暗殺されたらしい」
「何?」
突然知らされた情報に、カペルとデュークが足を止める。
二人は信じられないといった顔で驚きの表情を浮かべている。
「現場は混乱している、トップを失ったアルジョン様の派閥は勿論、ワーディル様の派閥も何故か機能不全に陥っている」
「なんだそりゃ、どうなっていやがる」
「まともに動いているのは俺達の派閥だけだ、なんとしても俺達でストークの亡霊を探し出さなければならない」
3人そろって街道を歩く。
町はいつも通り活気に満ちている。
だが心なしか通行人が少なくなったように感じた。
※
タルソン達三人は町外れにあるアジトに足を運んでいた。
尋ねたアジトはここで4つ目だ。
ハウゼントゥルムのアジトが集中的に狙われている為、何か変化がないか確かめて周っていた。
自身の派閥が機能不全に陥っていないかの確認をするのは当然、怪しいものが居れば圧を掛け話を聞いた。
だが誰も彼もストークの亡霊におびえるばかりで有益な情報は何も出てこなかった。
そうして何件かアジトを回り、町外れにあるハウゼントゥルムのアジトに足を運んだとき、異変を感じた。
何時もならば必ず入口の前で見張りをしていた男が居ないのだ。
常に神経質な顔をしながらただの通行人にまで威嚇をする名物男がいたアジトだ。
だが建物の入口にその男は確認できず、アジトは不気味なほどに静まり返っていた。
「おい、これは……」
カペルが指差した先を見ると、建物の横になぜか廃材が置かれている。
つい先日までは無かった物だ。
そしてその廃材をどかすと、拭いてはいるようだが赤い液体の様なものが眼に入る。
おそらく血だ。
血はまだ乾ききっていないように見える。
少し前、いや数刻前かもしれない、ここで何かがあったのだ。
「中に入って確かめるぞ」




