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異世界の透明人間~魔道具を駆使する暗殺者~  作者: 城戸一
八章 魔道具を駆使する暗殺者
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76 動き出した暗殺者

 薄暗い部屋、部屋の中央には明りを灯す魔道具が設置されている。



 その魔道具を囲むように円形の机が配置され、六つの椅子が置かれていた。


 だが半分は空席となっており、本来6人で行われるはずの定例会議は物寂しいものとなっている。


 「ストークは死んだのか」



 空席の一つ、ボスが座るはずの席の前にはクチバシがラッパ状になっている鳥の形をした魔道具が置かれている。

 この鳥型の魔道具からはボスの声が聞こえてくる。

 遠く離れた位置にいるボスの声をこの魔道具が伝えているのだ。



 「そのようです、ケルドの奴も一緒に死んだようですな」



 そう相槌を打ったのはハウゼントゥルムの幹部の一人であるヴァルデだった。

 スーツに身を包み、胸元のシャツのボタンを外しながら背もたれに体重を掛けている。

 眉をしかめながら両手を組み、視線はラッパ鳥に向けながらそう答えた。




 「現場になど顔を出すからだ、ストークは追い詰められていたんだ、そんな人間を刺激すれば手痛い仕返しがあるに決まっている」


 そう言葉を発したのはアルジョンだ、指に沢山の装飾品をつけ、顔には竜を象った刺青をいれている。

 ゆったりとした服を着ており、長い裾は地面に付きそうなくらいの長さがある。


 先程からボスとずっと喋っているのがこのアルジョンだ。

 アルジョンはストークが幹部になる前は人材派遣でかなりの上納金を組織に納めていた。


 だがストークに自身の島を荒らされ、仕事と人を奪われた。


 その結果ここ数年はあまり結果を出せていなかった男でもある。




 

 「早急に新しい幹部を任命しなければならないな、ストークとケルドの仕事を引き継げるような人材を探さなければ」


 「安心してくださいボス、ストークの島は私が引き継ぎます。新しい幹部にも心当たりがあります」


 




 ラッパ鳥から聞こえてくるボスの声に、アルジョンがすぐに答える。


 そんなアルジョンの様子を他の幹部二人は黙って見ていた。


 ヴァルデは興味がなさそうに、ワーディルは空ろな目で正面を向いている。




 ヴァルデは先程から何も喋らないワーディルをみる。



 ワーディルは何も喋らない。


 この会議室に現れてから自身の手の甲を摩るばかりで何も発言をしないのだ。


 定例会議の度に他の幹部にいちゃもんを付け、自身の成果をこれ見よがしにアピールするこの男がだ。



 幹部の中でも最古参であるこの老人がここにきて何も喋らないのが不気味だった。



 そんなワーディルを観察していると、話が一段落付いたのかアルジョンが喋るのを止める。


 ラッパ鳥から再びボスの声が聞こえてきた。



 




 「幹部候補がいれば書類を上げてくれ、精査し幹部に相応しければ任命する」



 そんな言葉の後、ラッパ鳥のクチバシがしなだれそのまま膝を突いた。


 通信が切れた証だ。



 ボスが席を離れた以上、定例会議はこれで終わりだ。


 ワーディルは何も言わずに立ち上がり、会議室を後にする。


 その場にはヴァルデとアルジョンが残された。



 「どうするアルジョン、新しい幹部に誰か推薦するか?」



 「当然だ、俺の部下を推薦してハウゼントゥルムでの影響力を広げさせてもらう。そしてストークに奪われた俺の島も全て取り返す」


 「ガツガツしているな、それだけ情熱を持って組織の運営ができるなんて羨ましいぜ」



 「貴様の地位は万全だからそう言えるんだ、どこぞのチンピラを鍛えて対抗勢力に派遣する、今回ストークを殺すためどれだけの人を派遣したんだ?」



 「お前こそストークを殺したがっていただろうが、一体どれだけ暗殺者を送って返り討ちにされたんだ?」



 互いに無言で睨みあう。


 お互いそこから何も喋らなくなり沈黙が訪れる。


 だが痺れを切らしたのかアルジョンが席を立ち、それに続く形でヴァルデも席を立った。


 そして互いに無言で会議室を後にした。



      ※


 

 ハウゼントゥルムの幹部の一人、アルジョンは自室にて部下からの報告を受けていた。


 町の外れにあるストークの隠れアジト。


 そこを監視していた部下からの報告だった。



 「どうだ?何か変化はあったか?」


 そう問いかけるが何か変化があるとは思っていなかった。

 既にストークは殺している、何かあるとすればストークの部下が動いたときだけだ。



 「隠れ家を監視していた者からの報告によりますと、今朝設置してあった魔道具の一つが動き出したそうです」


 「魔道具が動き出しただと?」


 「はい、転移台座と呼ばれる一瞬で離れた位置に移動できる魔道具が動き出したそうです」


 転移台座は長距離を一瞬で移動できる便利な魔道具だ。


 当初はこれを使ってストークが移動してくると思っていた。


 だがストークが転移台座を使う前に殺すことに成功した、故にこの魔道具に動きがあるとは思っていなかった。

 



 「で、転移台座で移動してきたのは一体誰なんだ?」



 「それなのですが……誰も現れなかったのです」



 「なんだ?どういう事だ?」



 「転移台座は確かに起動しました、その証である緑色のランプも灯っています。我々は転移してくる人物に対処するため身構えていたのですが、何時まで経っても人は現れず、そして起動の証である緑のランプもいつの間にか消えてしまいました」




 (起動光が消えた?魔道具の誤作動か?)



 報告に来た部下を見る、嘘をついているようには見えない。

 この部下は小心者で、嘘をつくときに眉毛がピクピクと動くのだ。


 こちらの様子を伺いながら恐る恐る報告はしている。


 だが嘘はついていない、そう思えた。



 「他に変わった事はあったか?」


 「その……転移台座に埋め込まれていた魔石が無くなりました」


 「魔石が?」


 「はい、転移台座に埋っていた魔石は巨大な物でしたから誰かが盗んだのではないかと」



 (ストーク亡き後、隠れ家にあるものは好きにしていいといった、待ちきれずに誰かが盗んだのか?)



 「分かった、他に報告はないか?」


 「今日の報告は以上です」


 「ご苦労だった、下がっていい」


 「はい、失礼します」


 そういって部下は部屋を後にした。





 部下が去った後、アルジョンは自身の後ろにある柱に手を添えた。


 手をかざすと壁沿いに設置されていた戸棚が動き出す。


 そしてそこに人一人が通れるくらいの通路が出現した。



 隠し部屋である。




 アルジョンは何も無いこの部屋で一人で酒を飲むのが日課だった。


 四方には窓すらなく、部屋の中には明りを灯す魔道具と棚に置かれた複数の酒とグラスだけがある。


 この部屋で一人、今後の展望を考えるのだ。






 (ストークは無事殺した、空いた幹部の席には俺の部下を据える、そうしてハウゼントゥルムでの影響力を広げるのだ)




 棚からグラスを取り出し酒を注ぐ。


 グラスに酒を注ぎながらも今後の事を考える。


 今後の事を考えると自然と口端が上がってしまう。




 (幹部の席は二つある、そのどちらにも俺の部下を据えるのがベストだ)





 「今日は祝いだな」


 グラスを手に持ち口を付けようとする。



 そうしてグラスに口をつけた瞬間、首筋に強烈な痛みが走った。


 床に転がり落ちる感覚。



 なんだ?そう思い自信の首に手を当てようとする。


 だが思うように体を動かせない。


 眼だけ動かし上を見ると、自身の首元から大量の血が吹き出ているのが見えた。



 助けを呼ぼう、そう思っても口が動かない。



 意識を失う直前、豊穣神の仮面を着けた人物が視界に入った気がした。

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