73 鑑定士との出会い
薄暗い地下に続く階段を降りる。
壁には蜀台代わりに明りを灯す魔道具が設置されている、魔石が切れかけているようで点滅を繰り返していた。
階段を降り終え、右に曲がると金属製の扉が目に入る。
その扉の前には目つきの悪い大男が座り込んでいた、大男はこちらの存在に気が付くとゆっくりと立ち上る。
「ここはガキが来るところじゃねえ、さっさと帰りな」
大男はこちらを睨みつけながら近寄ってくる。
「鑑定士に用があるんだ、通してくれないかな」
そう言いながら男に近づき、その手に直接硬貨を握らせた。
「あん?ガキがなに言ってやが……」
大男は渡された硬貨を見て動きを止める。
金貨を5枚ほど握らせた。
大男は渡された硬貨と俺を交互に見比べている。
「少しそこで待っていろ」
そう言って大男は扉の奥へと消えていった。
アシュ鑑定所と書かれた看板が下げられている金属製の扉の前で待つ。
しばらくその場で待っても誰かが来る気配は無かった。
扉から少し離れた位置でしゃがみ込み、その場で待つ。
考えるのは今後の方針だ。
(まず持っている魔道具の効果を知る必要がある、鑑定士ならば魔道具の詳細を調べられるはずだ)
自分では調べられない、故に鑑定士という魔道具を調べる専門家に依頼することにしたのだ。
そんな事を考えながら待っていると、先程大男が消えていった扉の先から人の足音が聞こえてきた。
金属製の扉が開き、先程の大男ではなく別のひょろっとした髪の長い女が出てくる。
「あんたが客だな、入りな」
髪の長い女に促され中に入ると通路の両端には棚が設置してあった。
棚には様々な道具が置かれている。
共通するのはどの道具も魔石が付いているという事だ。
「棚の物には手を触れないでくれよ」
そういいながら女は通路の先にあるさらに奥の扉に手を掛け中に入った。
後に続き部屋に入る、中には机にソファー、壁には絵画が飾られている。
鑑定士はソファに座り、向かいのソファに座るよう首で促した。
「私が鑑定士のアシュだ、ここに来たって事は魔道具の鑑定依頼かな」
「ああ、複数の魔道具の鑑定をして欲しいんだ」
「複数の鑑定ねぇ、まずは物を見ないと判断できないな」
「魔道具は大きいものもある、ここで全部出してもいいか?」
そう言うとアシュはこちらをジロジロと眺め始めた。
来客用であろうこの部屋であの大量の魔道具をだしていいのかと思っての発言だった。
だが相手は翡翠鳥の模様が付いた魔道具の存在を知らないのだ。
どう説明しようか悩んでいると先にアシュが口を開いた。
「とりあえず鑑定部屋で物を見ることにするよ、折角座ったところ悪いんだけど別の部屋まで来てくれるかい」
そういってアシュは部屋から出て行く、その後を付いていき通路を歩く、そうして別の部屋の前まできた。
部屋の扉を開けると先程とは違って無機質な灰色の壁が目に入る、四方を無機質な壁に囲まれ、中央の床にはボロボロの布切れが一枚あるだけの部屋だ。
「ここならスペースがある、さ、出してくれ」
魔道具を出す前に、鑑定士の心を『岩鼠のイヤリング』で読む。
鑑定には時間がかかる、そのため魔道具を預けなければならない。
ここに来る前に別の鑑定士に依頼をしようとした。
だが『岩鼠のイヤリング』で心を読むとこっそり別の似た魔道具に入れ替えようとしたりそのまま盗もうとする者がいた。
信頼できない鑑定士に魔道具は預けられない。
『岩鼠のイヤリング』で人の心を読み、信頼できそうな鑑定士を探しているうちにこのアシュ鑑定所に辿り付いたのだ。
目の前の鑑定士の心を読む、アシュには仕事に真摯に向き合う気概が感じられた。
ここならば魔道具を預けても大丈夫だと思う。
翡翠鳥の模様がついたスイッチを押す、そうして魔道具を取り出せるよう念じる。
「へぇ神の収納箱か、いい魔道具を持っているじゃないか」
翡翠鳥の模様が付いた魔道具をみて鑑定士が声を上げた。
この魔道具は『神の収納箱』というのか。
効果は把握していたが名前は知らなかった。
一目見ただけで魔道具の名前を当てて見せた、この鑑定士は凄腕なのかもしれない。
そんな事を考えながら次々と魔道具を収納箱から取り出す、取り出される魔道具を鑑定士は興味深そうに眺めていた。
一気に魔道具は取り出さない、先程それで痛い目にあった。慎重に一つ一つ取り出していく。
一番重かったのは台座のような魔道具だ、重くて片手では支えきれず床に勢い良く落としてしまった、壊れていないだろうか。
そうして魔道具を全て取り出すと部屋の中は大量の魔道具で埋め尽くされた。
「これを全部鑑定しろって?」
鑑定士は取り出された魔道具を見渡して引きつった笑みを浮かべている。
「ああ、できるか?」
「勿論出来るさ、だけどこれだけの量の鑑定となるとそれなりの値段が掛かるよ、予算は大丈夫なのかい?」
「支払いはこれで」
神の収納箱に右手を突っ込み硬貨を取り出す。
取り出したのは白金貨、神の収納箱に入っていたストーク君の遺産だ。
中に入っていた硬貨を使う事には少し抵抗があった、だが必要な出費だと割り切り使う事に決めた。
使えるものは何でも使う、そう決めたのだ。
「白金貨か、君とんでもない硬貨をだすね、お釣りを用意するのが大変だよ」
「釣りを用意するのに手間が掛かるなら手間賃を払っても構わない」
「じゃあ遠慮なくこの硬貨から引かせてもらうよ、他に何かあるかな」
「可能な限り急いで鑑定してくれ、それと魔道具を持ち込んだ事や鑑定結果を人に言わないで欲しい」
「それだと特急料金だね、料金はさっきの白金貨から引かせてもらうよ、守秘義務の方は言われなくとも守るさ」
「どのくらいで鑑定できるんだ?」
「明日の夕方にはできてると思うよ」
ここに来る前に既に日は暮れかかっていた、アシュは一日でこの量の魔道具を鑑定できるようだ。
「では明日の夕方また来る」
「あいよ、コンザ。見送って差し上げろ」
そう言うと先程の大男が部屋の扉を開けた。
姿は見えなかったが近くに待機していたようだ。
コンザと呼ばれた大男に先導され、先程通った通路を歩く。
コンザの後を付いて歩くと両端の棚に置かれた魔道具が目に入る。
先程と同じく大量の魔道具が置かれていた。
だがよくよく見れば置いてある魔道具が先程と違うように思う。
この一瞬で置いてある魔道具を全て入れ替えたのだろうか。
『岩鼠のイヤリング』でコンザの心を読んでも彼は魔道具が入れ替わっていることにすら気が付いていないようだった。
そのまま真っ直ぐ通路を歩き続け先程通った金属製の扉の前までくる。
コンザが重そうな扉を片手で空けた。
「またのお越しを」
そう言ってコンザは頭を下げてきた。
営業スマイルだろうか、口の端を吊り上げニコニコしている。
ここに来た時とは態度が変わっている、おそらく良客だと判断したのだろう。
改めてコンザを良く見る。
厳つい大男が手もみをしながら頭を下げている。
本人は営業だと思って笑っているのだろう、だが怖いだけだった。




