72 遺品
墓地の管理人に遺骨を渡す。
数枚の金貨を渡して丁寧に埋葬してもらった。
石碑に名前は刻まない。
共同墓地は昔からそのルールで運用されてきた。
悪逆の限りを尽くした暴君も名も無き聖人君子も皆同じ。
死人に特別扱いは無い、皆供養して埋葬するだけ。
「確かに埋葬したよ」
「有難うございます」
管理人にお礼をいい頭を下げる、これで埋葬は終わりだ。
うまく供養できただろうか、このような事をしたのは初めてなので比較できなかった。
共同墓地にはちらほらと人が訪れている。
隣を見れば痩せた母親が幼い子供の手を引いて墓石の前で祈りを捧げているのが目に入った。
子連れの親子に習って自分も膝を付き、墓の前で祈りを捧げる。
だが集中できない、祈りを捧げようとしてもハウゼントゥルムへの怒りが沸いてくる。
とても死者を労う事などできなかった。
まだストーク君が死んだことに納得がいっていないのだ。
その場から立ち上がり、祈りを捧げる親子を尻目にその場を後にする。
共同墓地を振り返りもせずその場から去った。
※
寝床に戻り一息つく。
寝床の階段下には薄く埃が積もっていた。
普段はフォールゥが掃除をしてくれる。
だが今はこの場から離れるよう命令しているので居ない。
『岩鼠のイヤリング』を装備している限り心を読んでしまう、黒角族は様子のおかしい俺を皆心配していた。
善意でこちらを心配している人たちの心を読みたくなかった、その為自分勝手な理屈なのは分かっているが『岩鼠のイヤリング』の範囲外に退避してもらっている。
薄く埃が積もった床に腰を下ろす。
取り出すのは先程掃除屋から取り返してきた魔道具だ。
魔道具は銀色のスイッチの形をしており、掌サイズのボタンの中央に翡翠鳥という珍しい鳥を象った模様が刻まれている。
(何の魔道具だ?)
『岩鼠のイヤリング』で掃除屋の心を読んだ。
ストーク君の遺体を火葬した後、骨だけになった遺体の中心にこの魔道具が落ちていたようなのだ。
それを何時もの癖で掃除屋は懐に収めただけ、魔道具を使用したりはしていない。
故にどんな魔道具かは分からない。
(どうするべきか、このまま発動して確かめるか?)
鑑定屋という魔道具に詳しい人たちに調べてもらうという手もある。
もう一度ボタン型の魔道具をよく眺める。
薄暗く光の殆ど届かない階段下では中央に掘られたの模様はくすんで良く見えない。
(翡翠鳥の模様?)
翡翠鳥の模様で思い出す。
翡翠鳥の模様は魔導技師グルントが晩年に作ったと言われる魔道具の特徴だ。
魔導技師グルントは戦争で妻子を亡くし晩年を一人で孤独に過ごした。
戦争を険悪するようになったグルントは二度と人を傷つける魔道具作らないと宣言した。
そう宣言してからは過去の自分の作品と区別するため、作った魔道具に翡翠鳥の紋章を刻みこんだ。
翡翠鳥は争いを好まず外敵が現れても逃げるだけで決して交戦はしないという特性を持った鳥だ。
グルントは平和の象徴として翡翠鳥を魔道具に刻み込んだのだろう。
そんな平和を愛していた晩年のグルントが、魔道具を発動することで人に危害を加える魔道具を作るとは考えにくい。
ならばこの魔道具は起動しても安全なはずだ。
少し緊張しながらも翡翠鳥の紋章が彫られたスイッチを深く押し込む。
カチリという音がする。
同時にブゥンという音が右前方から聞こえた、見ると右前方の空間が蜃気楼のように揺れていた。
(これは?)
しばらくその空間を見ながら考える。
そしてストーク君が自身の横に、今のような揺らいだ空間を生み出していたことを思い出した。
今と同じように揺らいだ空間の中に手を突っ込み、中から魔道具を取り出していた。
(だとするとここに手を突っ込めば魔道具を取り出せるのか?)
おそるおそる揺らいだ空間に右手を突っ込む。
空間の中は生暖かかった、手首を曲げ空間の中を探る。
中に何かがある雰囲気はない。腕を上下に動かしても何かに触れる様子は無い。
(魔道具は入っていないのか?)
そう思った瞬間、手につめたい金属が触れた感触があった。
驚いて腕を空間から引き抜く。
その手には中央に魔石が付いたドアノブが握られていた。
手を引き抜いたと同時に右前方にあった空間は無くなっている。
(魔道具の事を考えたら取り出せた?)
そうだとしたらこちらの意識を読み取って望むものを取り出してくれるのかもしれない。
もう一度スイッチを押し、右前方に揺らいだ空間を出現させ床に転がっていた石ころを投げ入れた。
そして右手を突っ込む。
先程と同じく手にはぬるい感触があるだけで何も掴めない。
だが先程放り投げた石ころ思い浮かべた、すると手に角ばった感触を感じる。
突っ込んだ右手を揺らいだ空間から引き抜くと先程放り投げた石ころが掌の上に乗っていた。
(物を出し入れできる魔道具か)
ストーク君はこの中に魔道具を入れて持ち運んでいたのだろう。
彼の遺品がこの中に詰まっている。
この魔道具を掃除屋から取り返して正解だった。
遺品を好き勝手他人に使われるのは我慢ならない。
もう一度翡翠鳥のボタンを押し、揺らいだ空間を出現させ右腕を突っ込む。
そして魔道具の事を考える。
(魔道具を全部出してくれ)
結果的にその行動は間違いだったかもしれない。
なぜなら右腕にかなりの圧が加わったのだ。
かなりの重さがある、突っ込んだ右手だけでは支えきれないくらいの重さだった。
(これはまずい!)
あわてて空間から右手を引き抜く。
引き抜いた右手と同時に複数の魔道具が揺らいだ空間から溢れ出した。
ガチャガチャという音があたりに響き渡る。
空間から溢れるでる魔道具は止まる気配が無い。
あふれ出る魔道具が落ちる衝撃であたり一面に埃が舞う。
足の踏み場も無いくらいに階段下を魔道具が埋め尽くした。
大量の魔道具に囲まれ身動きができない。
(どうしようこれ)
大量の魔道具に囲まれながら考える。
魔道具は様々なものがあった。
手のひら大のリング状の物もあれば羽根の形をした金属状の物もある。
禍々しい髑髏の模様が刻まれた凶器もあった。
(この魔道具を……どうしようか)
そのまま床に転がりながら考える。
魔道具に囲まれながら考え事をしていると、再びハウゼントゥルムへの怒りが沸いてくる。
(この魔道具を使う?何に?例えば……ハウゼントゥルムへの復讐に?)
一度そう考えるとその考えに頭が支配される。他のことを考えられない。
手にした羽根の形をした魔道具を強く握り締め、もう一度辺りを埋め尽くしている魔道具を見渡す。
この魔道具を使う。
使うとしてもどんな魔道具なのかは分からない。
詳しく調べる必要があると思った。




