↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の透明人間~魔道具を駆使する暗殺者~  作者: 城戸一
七章 ストーク・シュテット
70/88

70 こんな結果は認めない

 【クロ視点】



 地面に転がっている人型魔道具の頭を踏み潰してストーク君に駆け寄る。


 あの人型魔道具が首を落としても動くことが出来るとは思わなかった。



 (くそっ!徹底的に破壊すべきだった!)


 ストーク君は自身の腹部に手を当てている、そこからは大量の血が溢れ出しており血が止まっている気配は無い。



 『霧の小型灯』を解除して人から見えるようにして姿を現す。


 ストーク君は瞳だけ動かしてこちらを見る、掠れた小さな声で口を開いた。



 「クロか……ちょっと待ってろ」


 



 そう言うとストーク君は何もない虚空から銀色の杯を取り出した。


 何も入っていない杯、だが軽く杯を揺らすと器に透明な水が溜まっていった。


 その水を傷口へと垂らす。


 水は光を反射して周囲の影に小さな明りを照らしていた。

 


 傷口から流れる血は止まっているように見える。


 だがストーク君の顔色は悪いままだ。 



 「完全には治せなかったか……毒もあるな」



 毒!?



 どうする?


 毒なら医者に見せればいいか?それとも教会?


 教会はここからは遠すぎる、だったらやはり医者か?


 ここからだとダンテの診療所が近い。


 毒の治療はダンテの専門外かもしれない、だがここにそのまま寝かしておくよりましだと思う。


 そうと決まればすぐに運ばなければ!


 そう思い体を持ち上げようとするが、ストーク君に腕を押さえつけられて上手く運ぶことが出来ない。


「クロ……もういい」


 そう言うとストーク君はまた何もない虚空から鍵のような物を取り出した。



 金色の鍵だ、アンティーク調で持ち手には小さな魔石が付いている鍵。


 ストーク君はその鍵を震える手で突き出し、僕の仮面に叩き付けた。

 



 ピシッという音と共に顔につけていた何かが崩れ落ちる。


 丸い何かが床を転がっていった。



 (なんだ今のは……仮面が割れた?)


 「聞けクロ、他の仲間達の事だ」




 刻一刻と変わる展開に頭が付いていかない。

 他の仲間達?スラムで一緒に暮らしていた皆の事か?



 「お前には伝えておかなければならない」



 傷に触るだろうからあまり喋って欲しくなかった、だが真剣な目でこちらを見ていたので喋るなとは言えなかった。




 「レゲンは死んだ、首都の夜道で強盗に襲われて刃物で心臓を一突きされて……即死だった」



 死んだ?……レゲンが?


 スラムに着たばかりの頃、最初に声を掛けてくれたのがレゲンだった。


 揉め事があれば積極的に前に出てみんなを守ってくれていた、そのレゲンが死んだ?



 頭が混乱する、事態を受け止めきれない。何と返していいかも思いつかない。



 「ベルは抗争に巻き込まれて死んだ、敵対する組織のアジトに乗り込んで帰って来たときには既に殺されていた」



 ……ベルも?……え?


 




 「ナントは行方不明だった、だがつい最近頭だけになって帰って来た、殺したのはハウゼントゥルムに敵対する組織だ……もちろんそいつらは皆殺しにしたが」


 ……。



 「ザッハなんか死体も残らなかった 抗争相手が使った魔道具、その攻撃に巻き込まれて気が付けば姿が消えていた」








 告げられる仲間達の死を受け入れられない自分がいる。


 皆はストーク君と一緒に今も何処かで活躍していると思っていた。


 このあと皆と合流して昔話や近況報告をするつもりでいたのだ。



 「お前が……正解だった、都会に出て成功しようなんて思うべきではなかった、ハウゼントゥルムになど入らなければ良かった。この町で静かに暮らしていくべきだったんだ」



 なぜそんな事を言うのだろう、僕はずっと付いて行かなかったことを後悔していたというのに。


 そんな事を言わないでくれ。



 「クロ、これをやる」


 そういって耳に付けていたイヤリングを外し血まみれの手で突き出してきた。


 「『岩鼠のイヤリング』だ、これがあれば……人の心を掴むことなんて簡単だ」


 何を言っているんだ、今そんな事を言っている場合じゃない。


 傷口は塞がった、治療すればまだ間に合う。


 突き出したイヤリングを受け取りストーク君を抱え上げる。


 持ち上げると残った左腕がだらりと垂れ下がった。


 直に治療しなければ。




 まずはストーク君を医者に見せよう。


 医者が治せなければ教会に頼ればいい。



 

 ダンテの家目掛けて一直線に走り抜ける。


 『怪傑のネックレス』が身体能力を上げている。


 普通の人間では不可能な速さでスラムを駆け抜けた。



 人が居れば避けて通った。


 建物があれば飛び越えた。


 


 通行人が僕の姿を見て二度見している。


 顔を青ざめさせ指差すものも居た。


 仮面は割れた、何もない頭部が露になっている、だが今はそんな事はどうでもいい!


 なるべく衝撃を与えないように丁寧に走り続ける。


 背負っているストーク君が落ちないよう腕をしっかり抱えながら進んだ。



 そうして辿り付いた歓楽街の近くにある建物。


 ダンテが店を構えている場所だ。



 夜間診療所の為今の時間は営業しているはずだ、だがまだ営業時間前なのか門は閉っていた。


 今は緊急事態だ、診療所の扉を必死に叩く。


 


 「ダンテ!開けてくれダンテ!」



 そう言って診療所のドアを叩く、何度もドアを叩くと中から人が出てくる気配があった。



 「なんだ、なんの用だ」


 不機嫌な顔をしながらダンテが中から出てくる。


 だがダンテは僕の姿を見て一歩後ろに下がった。



 「お前……クロか?何だその姿は?」


 「負傷者がいるんだ!助けてくれ!」


 「負傷者?」



 ダンテは背中に背負っていたストーク君と僕を交互に見る。




 「分かった、奥へ運べ」


 診療所の奥へと進み慎重に寝台の上にストーク君を寝かした。


 ダンテは脈を計ったり心臓の音を聞いたりしている。



 「どう?ダンテ」



 「……悪いが俺に出来る事はない」


 ダンテは黙り込み何も答えない。


 医者では治せないのか?ならば教会だ。


 ストーク君の体力も気になる、抱えて運ぶより教会関係者をここに連れてきたほうがいい。


 急がなければ!


 診療所を後にしようと救護室を出ようとする。



 「待てクロ、何処へいくんだ」


 診療所から出て行こうとする僕をダンテが呼び止める。



 「教会関係者を呼んでくるんだ!教会には魔道具がある!人を治療できる魔道具が!だから今すぐ人を呼んでこないと!」




 「落ち着けクロ」


 そういってダンテは此方の腕を掴む。



 「すぐに連れて来ないと、必ず戻ってくるから!お金ならいくらでも払う!」



 「落ち着け、そう言っているんだ」



 ダンテは僕の腕を掴んで離さない、そうしてそのまま腕を引っ張りストーク君が寝ている寝台の前まで連れてきた。




 「良く見るんだ」



 そう言ってストーク君が横たわっている寝台の前まで連れて来られる。


 顔は青白かった、とても調子が悪そうに見える、一刻も早く教会関係者を連れてこないと。


 だがダンテはストーク君の手首を持ち上げ僕に触らせてきた。



 なぜそんな事をするのだろう、ダンテが持ち上げたストーク君の腕を確認する。



 その腕はとても冷たかった、死人のような冷たい手。



 ……え?



 

 頭が理解することを拒んでいる、だがその手の冷たい感触が嫌でも事実を伝えてくる。


 体を動かすことも出来ずにその場に立ち尽くす。



 「クロ、残念だがもう亡くなっている、治療は出来ない」



 ストーク君の額に手を添える、その顔は冷たくとても生きているようには見えなかった。



 体から急に力が抜けてその場に膝を付く。



 手が震える、呆然とその場で先程まで動いていたであろう亡骸を見つめる。



 死んだ?ストーク君が?



 間に合わなかった?



 何時亡くなったんだ?最後にストーク君と話した後?それとも運んでいる途中?


 気が付かなかった、ただひたすら医者に見せなければと思い突き進んでいた。




 ただ結果としてストーク君は死んだ。




 何だ?何が悪かった?



 自分に力が無かったからか?


 それとも透明人間である事を隠して中々声を掛けなかった事か?



 「あああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」




 だれが殺した?



 ハウゼントゥルム?



 その組織が悪いのか?





 「何がハウゼントゥルムだ!裏社会の頂点だ!そんなふざけた組織許さない!」


 

 体を傾けたことで先程受け取ったイヤリングが外套の内ポケットから転がり落ちた。



 「俺が滅ぼしてやる!この世に名前すら残さない!待っていろハウゼントゥルム!」
















 【ベクス視点】



 家の端が霞んで見える、そんな巨大な屋敷。


 ベクスの主であるヴーノが暮らす屋敷だ。



 パーヴァウィングの街から帰還し、真っ先に自身の主の下へ報告に向かった。


 


 人払いをした応接間、そこで自身の主に頭を下げながらパーヴァウィングの街で起こった顛末を伝える。


 





 「クロムウェルが生きていたというのか」


 「はい、この目でしかと確認しました」



  ヴーノ様は腕を組みながら何やら天井を見つめたいた。


 「この事を知っているものはどれだけ居る?」


 「遠征していた者全員でございます」


 「殺して口封じは無理か、ならばベクス、その事を知るもの全員に口外し無い事を厳命しろ、言う事を聞かない奴がいたら俺の所までつれてこい」


 「畏まりました」


 「細心の注意を払うのだ、特にティリの奴に伝わったら面倒な事になる、それだけは絶対に阻止しろ」


 「はっ心得ております」


 



 「カーク、いるか?」




 「はい」



 そう呼ぶと屋敷の別の部屋で待機していた複数人の黒角族が現れる。


 その中には三本角の黒角族も混じっている。


 「パーヴァウィングの街へ向かえ、そうしてクロムウェルを殺して来い。一刻でも早く仕留めるのだ」


 「畏まりました」


 そうして部屋の扉を閉め去っていく。


 やはりこうなってしまった。


 折角見つかった四本角を持つお方なのだ、主であるヴーノ様にはクロムウェル様と協力して我々を導いて欲しかった。


 クロムウェル様の両親を殺したのはヴーノ様のご両親だと言う噂がある。


 もちろん表向きは事故でなくなった事になっている、だがかつてクロムウェル様のご両親に使えていた者達は今でもヴーノ様のご両親を恨んでいる。


 クロムウェル様の生存を伝えればこうなる事は分かっていた。


 だが私が仕えるのはヴーノ様なのだ。


 だから仕方がない。


 そう思いながらパーヴァウィングの街に残してきた同胞が一人でも生き残るように祈った。

 


 七章完結です、次の投稿から八章になります。

 ある程度完成してから投稿するので少し日は開くと思いますが必ず投稿するのでしばらくお待ちください。

 活動報告も更新しました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。