67 周りは敵だらけ
ハウゼントゥルムの幹部の一人、バゾックの名前をヴァルデに変更しました。
【ストーク視点】
振り抜いた『暴風竜の大剣』を『神の収納箱』にしまう。
大剣型の魔道具である『暴風竜の大剣』は風を纏った大剣である。
振れば豪風が吹き荒れ風の刃を複数生み出す。
狙いを定めて振りぬけば遠くにいる人間に攻撃も出来る魔道具だ。
向かいのビルにいた暗殺者、離れた相手を攻撃するために遠距離攻撃が出来る『暴風竜の大剣』を取り出した。
遠目からの確認だが相手の首が落ちたのを確認した。
(随分間抜けな暗殺者だったな)
こちらを狙っていたのに大きな音を立て悲鳴を上げる。
誰かと交戦でもしたのだろうか、このビル郡には浮浪者が何人か住み着いている、大方浮浪者の縄張りでも侵したのだろう。
ただ今回は相手が間抜けで助かった。
『岩鼠のイヤリング』を使えば近くに居る悪意を持った人間の存在は分かる。
だが今回のように『岩鼠のイヤリング』の効果が届かないところから攻撃されれば事前に攻撃を察知することは出来ない。
遠距離対策として守りに優れた魔道具も持っているが魔石を節約するため起動していなかった。
この先からは気をつけなければ。
(どうする?他の幹部の部下にも会いに行くか?)
ヴァルデとアルジョンはこれを機にこちらを排除しようと動く可能性がある。
そうなるとハウゼントゥルムの幹部で唯一此方に敵意を持っていないケルドに頼るしかない。
もしくは滅多に動かないボスに頼るという手もあるが……
(ボスに頼ると評価を下げられそうだな)
まずはケルドに会いに行こう。
ケルドは金にがめつい。常に金儲けの事を考えているような奴だ。
大金を払えば匿うぐらいの事はしてくれる。
そうして身を隠しながら生き延びた部下を探し出し、体制を立て直す。
そしてこのふざけた報復をしてくれたワーディルを殺すのだ。
今後の方針は決まった、まずケルドに会いに行こう。
ケルドの部下はさらにスラムの奥、一際大きいビルを根城にしている。
おそらく通話の魔道具を持たされているはずだ、金を握らせれば取り次ぐくらいはしてくれる。
周囲を警戒しながら建物から出る。
遠方からの攻撃を警戒して『神の収納箱』から『守りの護符』を取り出す。
『守りの護符』は体に透明な膜を纏い、衝撃を吸収してくれる魔道具だ。
あまりにも強い衝撃は吸収しきれないが遠方からの軽い攻撃の一発や二発は耐えられる。
『守りの護符』を起動し、早足でケルドのアジトへと向かう。
道中『岩鼠のイヤリング』は何人かの思念を拾った。
拾ったのは道の端に転がっている浮浪者、スラムの孤児の思念だ。
どいつも腹が減った、食べ物が欲しい、お金が欲しい、仕事をくれ、病気を治してくれ。
そんな事を思っている奴らだった。
金と時間に余裕があれば声を掛けていたかもしれない。
食料を与え病気を治し、そうして動けるようになったら仕事を与える。
恩義を感じ始めたら『岩鼠のイヤリング』で心を読む。そしてその人物の心に響く言葉を投げかけてやれば忠実な部下が誕生する。
そうやって忠誠心の高い部下を量産してきた。
だが今はそんな事をしている余裕は無い。
普段ならば声を掛けたであろう者達を素通りし、ケルドのアジトへと向かう事にした。
※
しばらく歩き続けると一際高いビルの前に辿り着く。
ケルドの部下が根城にしている場所だ。
ビルの入口には見張りが立っており神経質そうに辺りを警戒している。
見張りはこちらの存在に気が付いたのか、持っていたナイフを腰に差してあるホルダーにしまい頭を下げてきた。
「これはこれはストーク様、何か御用でしょうか」
「ケルドに話がある、通話の魔道具があるだろう?繋いでくれ」
「しばしその場でお待ちください」
そういうと見張りの男は中に入っていく。
この場で待つのは遠方から狙われる可能性もあるのであまり良くない。
しかし他に手は無いのだ、待つしかない。
しばらくその場で待たされた、ビルの中から先程中に入った見張りの男が歩いてくる。
その歩みの遅さにいらいらしながらも平静を装い笑顔で対応する。
「お待たせしましたストーク様、中にお入りください」
念のため見張りの男の思念を読む、こいつに指示されたことは俺を案内する事だけだ。
見張りの男の後を付いていく。
考えるのは今後の事、まずはどうやってケルドに協力を漕ぎつけるかだ。
金を払うのは決まりだ。
奴はどの位で納得するだろうか、白金貨20枚くらいか?
『神の収納箱』には大量の白金貨が眠っている、各地の部下が稼いだ金、その殆どをこの『神の収納箱』に溜め込んでいる。
白金貨20枚くらいなら即座に払える、ただ金以外のことを要求されたら協力を漕ぎつけるのは難しいかもしれない。
そんな事を考えながら進んでいると『岩鼠のイヤリング』が複数の人間の思念を拾った。
耳に届く心の声を精査する。
「は?」
聞き間違いか?
一瞬そう思った。
なぜなら耳に届いた心の声は悪意にまみれていたからだ。
予想していた状況とは違う展開に困惑し、足を止める。
これは不味い。
「ストーク様?どうされましたか?」
何も知らないであろう見張りの問いを無視する。
『神の収納箱』から『暴風竜の大剣』を取り出した。
突然取り出した凶器に驚いている見張りには目もくれず、アジトの奥に向かって『暴風竜の大剣』を振りぬいた。
暴風が吹き荒れる、ビルの廊下に飾られていた調度品が激しい音を立てて壊れる。
もう一度『暴風竜の大剣』を振りぬいてケルドのアジトに背を向け走り出す。
後方ではなにやら喚き声が聞こえてきた。
「ストークだ!絶対に逃がすな!」
「生死は問わん!ここで確実にしとめろ!」
ケルドの部下が俺を殺そうと迫ってきている。
奴は俺を排除することに決めていたようだ。




