65 魔道具『岩鼠のイヤリング』
【ストーク視点】
辺りは一面血の海だった。
『鈴蟷螂の鎌』の効果が切れたようだった。
発動中は確かに無敵だが達成感が無い。
そんな事を思いながら足元に散らばる人だった物を踏みつけ『鈴蟷螂の鎌』を『神の収納箱』に仕舞う。
死体はどれも原型を留めずバラバラになっている。
ここに踏み込んだ人数は十人以上いた、ここまで損壊が激しいと何人殺したか分からなくなる。
もしかしたらあの状況で即座に逃げ出したものがいるかもしれない。
『鈴蟷螂の鎌』は目に見える人間を切り殺すだけだ、即座に視界の外に逃げれば生き延びることが出来る。
部屋の中をウロウロと動き回っていると『岩鼠のイヤリング』が誰かの思念を拾った。
その人物の感情は恐怖に陥っており、ひたすら助かりたいと心の中で反芻している。
慎重に辺りを見回す。
床には大量の死体。
壊された扉の向こうには誰も居ない。
周囲を見渡すと切り刻まれたソファーに机、真っ二つに両断された壁が目に入る。
割れた窓ガラス、窓の外側には人が隠れるスペースなどは無い。
残るは天井の通風孔、そして部屋の奥にある衣装棚だ。
手にしていた『鈴蟷螂の鎌』をしまい『神の収納箱』から『蜘蛛の格子』を取り出す。
『蜘蛛の格子』は巨大な網で獲物を覆う魔道具だ。
その網は粘着性の網で相手を捕らえ動けなくすることが出来る。
何年か前に首都近くのダンジョンで大量に出土した物だ、『蜘蛛の格子』は世の中に数多く同じ物が出回っている。
連続で使用する事は出来ないが時間が経てば粘着性の網は時間と共に補充され、また使えるようになる。
故に回数制限など気にせずに使える。
部屋の奥に設置している衣装棚の前まで足を運ぶ、そうして勢い良く棚の取ってを掴み扉を開いた。
同時に『蜘蛛の格子』を起動し、粘着性の網を浴びせる。
「やめろおおおおお助けてくれええええええ!!」
衣装棚に隠れていた人物が網から逃れようと体を捻り始める。
だが網は捕らえた人物に更に絡まりつき、逃げようと暴れる男の体に纏わりつき動きを封じた。
捉えた男を良く観察する。
こいつはこのアジトに踏み込んできたとき一番後ろにいた奴だ。
さながらこの床に散らばっている奴らの纏め役といった感じか?
この後どう動くべきか悩んでいた。
こいつを尋問して今後の行動を決めよう。
「おいお前、誰の指示でこんなことをした?」
「し、しらない!俺は唯の下っ端だ!、上の人間に言われた通りに行動しただけだ!」
ワーディルの指示なのは分かっていたがあえて問いかける。
相手が嘘をついているのは分かっている、それを知らない振りをして話を合わせるのは楽しい。
「本当にお前は何も知らないのか?」
「こんな荒事をするとは思っていなかったんだ!だから助けてくれ!」
「お前、名前は?」
「ルークだ」
「ルーク、お前本当に誰の指示なのか知らないのか?」
「本当だ!俺は最近ハウゼントゥルムに入ったばっかりなんだ!ただ指示された仕事をこなしていただけなんだ!助けてくれよ!」
そうか、関係ないのか。
でも『岩鼠のイヤリング』はこいつの嘘を見抜いている。
こいつが最近ハウゼントゥルムに入ったなんて嘘。
ルークという名前も嘘。
コイツはワーディルの孫で名前はカル、実の祖父から俺を殺すよう指示を受けて行動している。
「お前はワーディルの孫のカルだろう?なにすっ呆けているんだ?」
そう事実を突きつけるとカルは顔を青ざめながら震え始めた。
自分でも口の端がつりあがっているのが分かる、相手の嘘を見破って突きつける瞬間は何度経験しても最高だな。
「な、なんでそれを……」
「俺の情報網を舐めるなよ?お前の身長体重、昨日最後に話した相手すら全て分かるぜ」
震えだしたカルの顔を覗き込む、その顔からは大量の汗が吹き出ている。
あまりの怯えように笑いがこみ上げてきた、本当に何でも分かっていたら今こんな状況になどなっていない。
「で?お前は俺に対してどんな酷いことをしてくれたんだ?ここ以外のアジトも潰したのか?」
「正直に言えば助けてくれるのか?」
「ああ、正直に言えばな。だけど言葉には気をつけろよ?事前に下調べをしているからな、お前が嘘を言ったらすぐ分かるぜ」
『神の収納箱』から唯のナイフを取り出しカルの目の前で揺らす。
それを見たカルが唾を飲み込んだ音が聞こえてきた。
「……首都にあるアジトは全て潰してある、何人かの構成員には逃げられたが殆ど殺した」
「首都のアジトと言っても色々あるからな、どこの事をいっているんだ?」
「大通りの軽食屋に町外れの小屋、それに教会近くの民家とかだ」
「……教会近くの民家もか?」
「そうだ、ワーディルの爺さんはそこにストークの虎の子が眠っている。そう言って念入りに人を送っていた」
教会近くの民家には『転移台座』の他にも強力な魔道具や大量の金貨を隠してある。
俺が稼いだ財産の殆どはそこに置いてあった、あそこの場所は俺しか知らなかったはず、いったいどうやって存在を知った?
「ボスや他の幹部は止めないのか?ハウゼントゥルムの内輪揉めだぞ、他の組織に付け入られる原因になる」
「それに関しては知らない!本当だ!信じてくれ!」
その後カルを尋問しても碌な情報を取れなかった。
一度脅してからはこいつは一度も嘘を言っていない。
こいつからはこれ以上情報を取れないだろう。
「分かった、もういい」
そう言うとカルは安堵の表情を浮かべた、助かったとでも思っているのだろうか。
手に持っていたナイフを構えなおす、そうしてカルの胸へと突き刺した。
カルが目を見開き此方を見ている。
最初から生かすつもりなど無かった、相手の嘘を見抜けないのは大変だな。
その後は振り返らず死体まみれの部屋を出た。
今後はどのように動くべきだろうか、そんな事を考えながらボロボロになったアジトから脱出する。
なんとなく、他のアジトがあるビル群の奥へと進もうとした。
その時『岩鼠のイヤリング』が誰かの思念を拾った。
一瞬だったので誰の思念だったか分からない。
『岩鼠のイヤリング』はある程度近くに居る人間の心しか読めないのだ。
辺りを見渡す、目に見える範囲には人はいない。
再び『岩鼠のイヤリング』を起動するも誰の思念も届かない、効果の範囲内に人はいないようだった。
その後もしばらく『岩鼠のイヤリング』を起動し続けたが誰かの思念が届く事は無かった。




