62 懐かしい思い出
七章が完成してから投稿しようと思っていたのですが、何度も書き直してしまって中々完成しないので少しずつ投稿します。
また以前のように週に1回か2回ペースです。
【クロ視点】
「クロ、久しぶりだな」
階段を降りてきた人物を見る。
耳にはイヤリングをつけ、腕にはジャラジャラと鎖のアクセサリーを身につけていた。
目つきは鋭いが人当たりのいい笑みを浮かべており、その表情が近寄りがたい印象を薄れさせていた。
「ストーク君?」
今よりも幼い頃、逃げるように追い出された故郷。
そうしてようやく辿り付いたスラム。
右も左も分からず困り果てていた僕に生き方を教えてくれた人がいた。
それがストーク君だ。
「元気だったか?クロ」
「う、うん」
もうここには戻ってこないのではないかと心の何処かで思っていた。
突然の来訪に驚きを隠せない。
「この場所、まだ使ってたんだな」
「そういう約束だったから、手入れも良くしてたんだ」
ここは皆で使っていた寝床だ。
彼らが去っていった時、帰れる場所があるようにと維持してきた。
「そう言われると周辺の廃墟より荒れ具合が進んでいないな」
ストーク君はそういいながらあたりの壁に手を付いたりしている。
「ストーク君、今日はどうしたの?」
「そりゃ久しぶりにこの街に戻ってきたからな、昔の知り合いを訪れるくらいはするさ」
スラムの子供達でお金を溜め、都会に行って一旗上げようと計画していた。
何人もの子供達が賛同してストーク君に付いて行き、この場所を後にした。
僕は怖くて付いていけなかった。
当時は幼かったし環境が変化することも怖かった。
そうして友達を見送った、その事を少しだけ後悔していた。
だがいまならば付いていく。
それなりの力は身についた、魔道具を使えば身を守るくらいは出来るだろう、誰かの足手まといになったりしない。
そう思いながらストーク君の方を見る。
彼は子供達の人気者だった、常に彼の回りには誰かが居た。
そうして昔との違いを思い出す、ストーク君が一人で居るのだ。
彼は常に誰かと行動していた。
だが今は一人でこの場所を訪れている。
幼い頃はストーク君が一人で居ることなど見た事が無かった。
他の子供達はどうしたのだろうか、一緒に旅立った他の仲間達は?
問いかけようと口を開きかけるが、ストーク君が先に言葉を発する。
「悪いなクロ、今日はちょっと忙しいんだ。また改めて会いに来るから」
「え?うんそれはいいけど」
「じゃあなクロ、また今度な」
そう言ってストーク君は階段を駆け足で登って行く。
忙しい中会いにきてくれたのか、なんだか申し訳ない。
そうして寝床で一人取り残される。
以前スラムの孤児達と一緒にここで暮らしていた。
崩れそうな建物が多い中、この階段下のスペースは痛みが少なかった。
他人が訪れる事も殆ど無い、それを気に入りここで暮らしていた。
しかし本当に懐かしい、他の皆も元気だろうか。
荒事があれば積極的に前に出てみんなを守ってくれたレゲン。
滅多に手に入らない食料が偶然手に入ったとき、うまく調理して平等に配ってくれたベル。
幼い子供が病気になると、何処からか薬を持ってきてくれたナント。
気配りが出来てさりげなくみんなのフォローをしてくれたザッハ。
皆いい人だった。
元気にしているだろうか、この街に戻ってきているのだろうか。
戻ってきているのなら話がしたい、昔のように一緒に活動をしたい。
そんな事を思いながら思い出に浸っていると誰かが勢い良く階段を降りてくる音がした。
一瞬ストーク君が戻ってきたのかと思った、だがこんなに勢い良く降りてくるのはおかしい。
フォールゥ達だったらこんな荒い階段の降り方をしない。
今度こそ物取りか?
そう思いながら階段の方向をみていると、一人の女性が息を切らせながら駆け込んできた。
その女性は頭に二本の角があり、手には水晶を持っている。
フォールゥだった、前言撤回。
なんでこんなに焦っているんだ。
魔道具は起動していないようだがその水晶を起動されるといざという時困る。
「どうしたのフォールゥ、そんなに焦って」
「いえその、なんというか暴漢に襲われていないか心配になりまして」
「大丈夫だよ、いざという時は姿を消すし、今なら対抗手段もあるから」
そう言って『怪傑のネックレス』を見せる。
フォールゥは困ったような焦ったような微妙な顔をしているのが印象的だった。




