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55 交錯

 ベクスは集団の先頭に立ち、故郷に向かっていた。

 考えるのはこれからの事、四本角であるクロムウェルの事を自身の主に伝えるかどうかだった。



 里には現在5人の四本角がいる。


 その一人が現在の黒角族の王であり、ベクスが仕えているヴーノだ。


 堂々とした物腰、鍛えられた体躯、人をひきつける大きな声、まさに黒角族の王として相応しい人物だ。

 世界各地にちらばる黒角族はヴーノの命に従い角の収集に明け暮れている。


 自身に従わない黒角族を遠ざけているとの噂もあるがベクスはそうは思っていない。

 角の回収は黒角族にとって大切なことだ。


 ベクスはヴーノとの会話を思い出す。


 「ベクス、もし外で角の多い黒角族と出会ったらすぐ俺に連絡しろ」 


 言われたときは外で定住している黒角族の情報を集めろということだと思っていた。


 (だが本当はクロムウェル様の生存を危惧していたのではないか?)

 

 ベクスはクロムウェルから存在を隠しておくよう言われた事を思い出す。


 (だが私が御使えするのはヴーノ様なのだ)


 だから


 そこでベクスは始めて後ろを振り返った。

 パーヴァウィングの街からは遠ざかっており既にフォールゥ達の姿は見えなくなっている。

 だが地平線の彼方に四本の角が見えたような気がした。




     *




 フォールゥは昔の事を思い出していた。

 まだ幼く自身に力が無かった時のことだ。


 当時自分は二本角としては中途半端な存在だった。

 片方の角が短く頭皮に埋没しているような形だったのだ。


 同じ二本角の黒角族からは侮られ、かといって一本角の黒角族からは崇められる。

 父は二本角だったが早くに亡くなっていた、母は一本角だったため子供にさえ敬語を使い、自分から話し掛ける事はほとんど無かった。


 そうして幼少期を孤独に過ごしていた。


 ある日の事だ、ロシェ様の家で会合を行うと聞き、両親と共に屋敷を訪れた。

 他の黒角族はそれぞれ仲の良い者達と会話に花を咲かせている。

 だがフォールゥには気軽に喋れる相手が居らず、部屋の入口付近で一人佇んでいた。

 すると一人の子供が部屋に入ってきたのだ。


 「おはよー」


 間の抜けた、気軽に友達に話しかけるようなそんな声だった。


 声の主はこちらを向いていた。

 それが自分にかけられた声だと気がついたのは数秒たってからだった。


 「は、はい」


 とっさの事に挨拶を返すことができなかった。


 それが四本角であるクロムウェル様だと分かるのはそんなに時間は掛からなかった。

 黒角族は上下関係がしっかりしているため、挨拶をする順番すら決められている。


 まずは角の多い者から声を掛ける。

 同じ角の数の者が複数いる場合、自らに親しい者から声を掛けるのだ。



 その場には他に二本角がいた。

 しかし何故か一番最初に自分に挨拶をしたのだ。


 それを見ていた他の二本角からは侮られるようなことは無くなった。

 徐々に同じ二本角との交友も広がっていく。

 そうしてフォールゥは黒角族内での立ち回りを覚えた。



 その時思ったのだ、この幼い四本角の黒角族にお仕えしようと。

 当時は叶わなかった、そして永遠に叶わないと思っていた願い。


 自分の前方を見る、角が欠けてはいるが四本角であることは変わらない。

 当時と同じ飄々とした歩き方で自分の前を歩いている。


 フォールゥは自身の願いが叶ったことに気がついた。


 暫くの間主を見つめていると、不意に姿が掻き消えた。

 魔道具の力を使い姿を消した様だった。


 フォールゥは溜息をつきながらも、自身の主を探すことに喜びを感じていた。




     *




 ハウゼントゥルムの幹部、ストーク・シュタットは部下が集めたという角を回収する為スラムにあるアジトを訪れていた。

 だがアジトに足を踏み入れるとそこにあったのは事切れた部下の姿だった。


 「一体何処のどいつだ」


 自身の計画が潰されたことに怒りを覚える。

 死体は全て心臓を一突きされ殺されていた。

 よほど凄腕の暗殺者でもなければそんな事は出来ない。


 「糞が」


 部下を殺した犯人を見つけ出して血祭りに上げなければ気がすまない。

 だが生き残りが一人もいないのだ、調べるにしても手がかりが何も無かった。


 

 当ても無くスラムの屋台街を歩く。

 すると遠くのほうで仮面を着けて歩いている子供が目に入った。

 その子供はストークの存在に気がつかずそのまま歩いている。

 普段ならなんとも思わない、そんな風景だった。

 だがその子供が付けている仮面に見覚えがあり足を止める。


 「あれは」


 その仮面は『宿り虫の仮面』だった。

 世の中には魔人と呼ばれる体内に魔石を宿している種族がいる。

 『宿り虫の仮面』を装備したものが体内に魔石を宿している場合、魔石から力を抜き取り自身の内部に存在している空の魔石にエネルギーを蓄えるのだ。


 そんな仮面外せばいいと思うかもしれないがそうはいかない。

 仮面には使用者の精神に働きかける効果もある。

 仮面を大切にする心、仮面が世界で一番大事だと思い込ませる効果があるのだ。

 そうして使用者は仮面を手放せず、仮面にエネルギーが溜まっていく。 


 (懐かしい仮面だな)


 そして思い出した、まだ幼い頃、スラムで汚泥を啜って生きていた時の事を。

 その時に、自分の取り巻きの一人に魔人らしき者がいた。

 体内に魔石を宿しているだろうからそいつに『宿り虫の仮面』を渡した。

 魔道具と間違われて盗まれないように、魔力を遮断する特殊な液体でコーティングし、外に魔力が漏れないようにした。


 いつか回収して巨大な魔石を手に入れてやろうと計画していた、今日まですっかり存在を忘れていた。


 確か名前は


 「クロだったかな」

5章完結です、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。


それとタイトルとあらすじを変更しました、あらすじは今後も少し変更するかもしれません。

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