54 去る者と残る者
パーヴァイング街を分割するように通る巨大な川、川に沿うように街を抜けると途端に人がいなくなる。
下流では複数の黒角族が集まっており、なにやら揉めているようだった。
二本の角を生やした黒角族を中心に両者は睨みあいをしている。
フォールゥとベクスだ。
少しはなれたところで『霧の小型灯』を解除する。
一番近くにいた黒角族が僕の存在に気がついた。
「クロムウェル様!?」
「あの二人は何をやっているの」
そう言って二人に近づく。
揉めていた二人はこちらの存在に気がついた瞬間傅いた。
それに習い周りの黒角族も傅き始める。
「クロムウェル様、なぜこんな所まで」
「約束の場所に現れないから探したんだよ」
「も、申し訳ありません、その、常に監視をされているようでしたので、クロムウェル様に迷惑が掛かるかもしれないと」
確かにあんな連中に監視されている時に会うのは適切じゃない。
「これ、渡しておくよ、その為に人間の街にいるんでしょ」
ハウゼントゥルムと名乗っていた男達が持っていた角、紐袋に入っているそれを纏めて黒角族に渡す。
「これは!仲間の角ですか!?なぜクロムウェル様が」
「ハウゼントゥルムのアジトに忍び込んで盗ってきた」
「そ、そんな危険なことを、申し訳ありません」
フォールゥは渡された角を大事そうに抱えている。
「あの、クロムウェル様、ストラードの奴はいませんか」
ベクスが心配そうに尋ねてきた。
「あいつは死んだよ」
「そ、そうですか」
ベクスはうつむいて渡された角を見つめている
「こちらクロムウェル様の持ち物です」
後ろで傅いていた黒角族が立ち上がり、布に包まれた道具一式を渡してきた。
金貨に指輪の魔道具、確かに僕が持ってたものだ。
「うん、確かに受け取ったよ」
そこで会話は止まってしまった、辺りに沈黙が訪れる。
どの黒角族も気まずそうに互いを見合っている。
「フォールゥ達はこれからどうするの、そろそろ里に帰ったほうがいいんじゃない」
これ以上人間の街に残るのは黒角族にとって良くない。
そう思っての発言だった。
「殆どのものは里に帰そうと思っています、今所持している角を持たせて」
「クロムウェル様も一緒に帰りましょう」
「僕は帰らないよ」
「な、なぜですか!?クロムウェル様が生きておられたと分かれば里の皆も喜びます」
「僕は政争に負けてここにいるからだよ、里に帰るなら僕が生きていたことは黙っていてね」
黒角族は角の多さが絶対だ、四本角の僕が命令すればそれを破ることはないだろう。
同じ四本角が命令すれば別だが。
「分かりました、何か考えがおありのようですし黙っています、ですがクロムウェル様お一人を残すわけには参りません、このフォールゥ、この地に残ります」
「ええ?いいよ、一人で大丈夫だから」
「そういうわけには参りません、四本角のお方を、このような場所でお一人残すなどあってはならないことです」
そう言うとフォールゥは顔をあげ正面に立った。
「私はクロムウェル様のご両親、ロシュ様とサヴェル様に御使えしておりました、そのお子様であるクロムウェル様に御使えするのは当然です」
「えぇ……」
「勿論私だけではなく、他にも数名残します、どれも腕の立つ人物です、いざという時自分の身を守ることはできるくらいの腕前はあります」
「いや、迷惑なんだけど」
「迷惑でしょうが御使えさせてください」
(これは言っても聞かないな)
フォールゥの後ろに複数の黒角族が立っていた。
彼らがフォールゥと共にここに残る人達なのだろう。
フォールゥを言い聞かせるのを諦めてベクスを見る。彼も何か言いたそうにしていた。
「クロムウェル様、私は残りの黒角族を引き連れて里に戻ります、仲間の角を供養しなければ」
「ああ、気をつけてね、僕の事は黙っておくように」
そう言うとベクスは納得いかないという顔をしていた。
「あの、クロムウェル様、なぜご自身が生きておられることを隠すのです、里に戻れば皆歓迎すると思います」
「あそこは僕が生きていると都合が悪い人たちがいるんだよ」
「そんな方が?」
「そう、もういないけどアトラスとか」
「はい?」
「アトラスを殺したのは僕だよ」
「え?」
背後で複数の黒角族が息を飲んだ音が聞こえた。
「クロムウェル様がアトラス様を殺したのですか?」
「そうだよ」
「な、何故です、お二人は昔あんなにも仲が良かったではありませんか!?それなのになぜ?」
答えても良かったがあえてベクスの問いを無視した。
言ったところで解決するとは思わなかったからだ。
「じゃあなベクス、元気で」
そう言ってベクスに背を向ける。
振り返らなかったのでベクスがどんな顔をしているか分からなかった。
斜め後ろではフォールゥが付き従っている。
「フォールゥは何も言わないのな」
「私が御使えするのはクロムウェル様です、クロムウェル様が判断されたことに異を唱えることはございません」
「そっか、もしかして気がついてた?」
「魔石がありましたから」
先程返された道具一式に魔石も入っていた。
アトラスから引き抜いた魔石だ。
あんな大きい魔石はその辺の魔物からは採れない。
「ねぇフォールゥ、ティリは元気だった?」
里にいたとき仲の良かった黒角族の名を出した。
「はい、お元気ですよ、クロムウェル様の命日になると必ずお墓まで足を運んでおられます」
そう聞いて心が痛んだ、だが里に戻ることも出来ないのでどうすることも出来ない。
忘れるしかない。
昔仲が良かったと言えばアトラスもそうだ、里でアトラスは頼れる兄貴分だった。でも最後には敵対された。
(裏切られた?いや違う、立ち回りが悪かっただけだ、僕と僕の両親が世間知らずでうまく対応できなかった、それだけの話だ)
ここでベクスと分かれてから始めて後ろを振り向いた。
何名かの黒角族はこちらをみていたが、ベクスがこちらを振り向くことは無かった。
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