53 魔道具 『鈴蟷螂の鎌』
前回のあらすじ
いなくなった黒角族を探すクロ。
エリアの協力で黒角族の位置を特定する。
だがそこにあったのは山のように詰まれた黒角族の死体だった。
現場に現れた怪しい二人組みをクロは追うことにした。
ハウゼントゥルムの構成員、シェズは上司からの指示を淡々とこなしていた。
上から命令されたのは下部組織である辺境の蛮族、黒角族への粛清だった。
黒角族を殺すのは難しい、黒角族はちょっとした傷なら瞬時に回復してしまうからだ。
殺すなら首をはねるか四肢を切断して出血多量で殺すしかない。
だがシェズはそれを容易くこなして見せた。
自身が所持する魔道具『鈴蟷螂の鎌』、これを使えばどんな相手でも簡単に切り伏せることができた。
この鎌の持ち手には黒いゴムのようなものが撒かれている、だが一部分禿げている所があり、その部分に素肌で触れると鎌が使用者の意識を乗っ取るのだ。
そうして鎌は装備者の目を通して回りに映る全ての生き物を切り刻む。
たとえ相手が金属製の防具を装備していようがその防具ごと切り裂いていくのだ。
そんな『鈴蟷螂の鎌』にも弱点はある。
視界の外にいる人物に対して鎌は攻撃をしない、姿を隠されたり逃げられたりすると攻撃手段が無いのだ。
その特性の為、何人かの黒角族を逃がしてしまった。
だが目の届かない範囲に構成員を配置し、予め黒角族を監視していた。
「シェズさん、黒角族はスラムを抜けた先、カーク川の近くにいるそうですぜ!」
偵察に行かせた部下が戻ってきた、仕事が速く優秀な部下だ。
「そうか、なら今から向かうか、近くに川があるならこの鎌も綺麗に洗えるな」
ハウゼントゥルムは今回の仕事に対して臨時ボーナスを出してきた。
角一本につき金貨100枚、気前のいい話だ。
部屋の隅に置いた紐袋を眺める。あの中には大量の黒角族の角が入っている。
シェズは角を引き渡すことで入る金の使い道に思いを馳せていた。
(何を買おうか、まずは女を抱こう、その後は調度品を新調するか、新しい魔道具を買うのもいいな)
前に所属していた組織はダメだった、金を出し渋りボーナスなんか払う気もなかった。
どれだけ安い値段でこき使えるか、そう考えているのが透けて見える組織だった。
それに比べハウゼントゥルムは結果をだした者に対しての金払いがいい。
(ハウゼントゥルムに移籍して正解だったな)
シェズは椅子から立ち上がり『鈴蟷螂の鎌』に手を掛ける。
「ただ皆殺しにするなら割に合わない仕事だと思ったけどよ、臨時収入が入るなら悪くない仕事だな!」
「ですね!角一本で金貨100枚!さすが裏社会に名を轟かせるハウゼントゥルムだ!」
「普通に殺してもこんなに金貨は払ってもらえねーぜ!」
各々が興奮したようにハウゼントゥルムを褒め称える。
「よし行くぞお前ら!黒角族は皆殺しだ!角は全部毟り取れぇ!」
「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
そう叫んだ瞬間、胸に軽い衝撃があった。
(何だ?)
気になったシェズは自分の胸を確かめる。
すると何かがおかしかった。自分の服が破れている。
せっかく買ったばかりなのに、なぜ破れたのか分からなかった。
更に異変があった、何かを引き抜かれた感触と共に、自分の胸から大量の血が溢れ出たのだ。
部下はまだこちらの異常に気がついていない。
助けろと声を出そうとするが口が動かない。
そうしている間に呼吸が出来ず視界も薄れ、シェズはついに意識を失った。
*
ハウゼントゥルムに所属する構成員の一人は背後で人が倒れたことに気がついた。
「シェズさん?」
敬愛する上司であるシェズが倒れているのだ。
慌てて近づいて様子を確かめる。
シェズに話しかけるが返事が無い、様子を確認すると胸から血を流し、息絶えているように見えた。
「た、大変だ!みんな!シェズさんが!」
そう声を張り上げるが反応が薄い、背後からくぐもった声が聞こえてきた。
目の前の男と視線が合う、見ればそいつも胸から血を流し、胸を押さえこんでいた。
何が起こったのか分からない、そんな顔をしながらそいつは倒れ、二度と起き上がることは無かった。
いや、そいつだけではない、周りにいた人間、そのほとんどが胸から血を流し、床に倒れこんでいた。
同じく異変に気がついた他の構成員も困惑の表情を浮かべ、辺りの惨状をただ呆然と見ている。
何かがおかしい、だが何がおかしいのか分からない、そう混乱している内に仲間は次々と倒れていく。
(攻撃されている!?)
そう気が付いた男は慌ててその場から立ち去ろうとした。
手にしていた黒角族の角を投げ捨てアジトの扉に手を掛ける。
だが扉は開かない。鍵が掛かっているようだった。
鍵は内側から開けられる、すなわち男がいたほうから開けらたのだ。
だが焦りと恐怖により手が震え、中々鍵を開けられない。
それでもなんとか鍵を開け、ドアノブに手を掛けたときには既に遅かった。
胸を何かが貫ら抜く感触、溢れ出す血、朦朧とする意識。
自分が倒れたのが分かった。
恐怖から男は胸を手で押さえる。
それでも血は止まらずただ自分の体が冷たくなっていくの待つしか出来なかった。
ふと見上げると先程自分が放り投げた黒角族の角が浮いているように見えた。
(まさか、黒角族の呪いか)
それが男が最後に考えたことだった。
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