52 急転
残酷な描写があります、苦手な方はこの話を飛ばしてください。次話の前書きに簡単なあらすじを書きます。
記憶を頼りに指輪が示した方角へ進む。
スラムの朽ちた塔の前まで来たが黒角族達はいない。
指輪では大体の位置しか調べられなかった、この辺りを探すしかない。
この辺りは治安が悪く反社会勢力の人間がよく出入りしている。
念のため『霧の小型灯』を使い身につけている道具をすべて透明にした。
そうして慎重に周囲の探索を始める。
(一体何処に行ったのか)
古代人が暮らしていたという朽ちた住居群。
建物の壁が崩れ通行不能になった裏路地。
朽ちた塔近くの柵付近と探し回ったが見つからない。
朽ちた塔よりも更に奥、錆びた屋根が目立つ大きな建物に足を向ける。
そこは放棄してから何年も経つ工場跡だった。
何かの機械は錆びており、もうまともに動くことはなさそうだ。
床には壊れた機械が乱雑に積まれている。
それらを避けながら暫く進むと嗅ぎ慣れない匂いが漂ってきた。
あたり一面鉄くさい据えた匂いが充満している
その匂いは奥に進めば進むほど強くなっていった。
そうしてとある工場跡の奥の部屋の前までくるとその匂いは最高潮達した。
まず目に入ったのは床一面に広がった赤だった。
始めはそれが何か分からなかった。
何か分からないくらいその死体は損壊していた。
「え?」
その部屋は黒角族の死体で溢れかえっていた。
何がどうなっているのか分からない。
目の前の光景を脳が理解するのを拒んでいた。
辺り一面に広がる黒角族の死体。
どの死体も何か鋭利な刃物で切断されたような切り口があった。
そして印象的なのがどの死体も頭部の角が無くなっていることだった。
目の前の凄惨な光景と血の匂いで頭がうまく働かない。
生きているものはいないように感じた。
しばらくの間呆然と立ち尽くす。
だが部屋の端の方で何かが動いたことに気がついた
それが人だと気が付いたのは数秒経ってからだった。
『霧の小型灯』を解除して動いた人物に近づく。
その人物は胴を切断されながらも這って前に進もうとしていた。
普通の人間ならば即死だ、だが強靭な体をもつ黒角族はそんな状態でも少しだけ生きることは可能だった。
「クロムウェル様……ですか」
床を這っていた人物はストラードと呼ばれていた黒角族だ。二本あった角の一本が無い。
「何があったんだ」
「私達と協力していた組織があります、少し活動方針で揉めまして、このざまです」
「他の黒角族達はどうした」
「ベルクとフォールゥは逃がしました、もちろんそれぞれに付き従っている黒角族も」
「そこにある工作機械をどけると地下へ続く通路がります、そこに盗んだ物を隠しています、あれを盗んだのは俺なのです、申し訳ありません」
「別に怒ってなかった」
ストラードの体が痙攣を始めた。
血が勢い良く噴出し床を赤く染める。
「クロムウェル様、俺は幸せでした、最後にこうして四本角のお方とお話できて……知っていますか?里ではいまだにロシュ様を称える組織があるのですよ、ロシュ様の息子であるクロムウェル様がお戻りになれば皆どれだけよろこぶことか」
ストラードの瞳は既に僕を見ていない、目は空ろで焦点も定まっていない。
「どうか、里にいる四本角の方達と共に我らを導いてください、そして黒角族の繁栄を……」
そういった瞬間ストラードの体から力が抜けた。
体からはいまだに血が流れている。
床に広がるストラードの血は他の黒角族の血と混ざり、すぐにどれがストラードの血か分からなくなった。
ストラードに言われたとおり工作機械を動かすと地下へと続く階段があった。
地下室には盗まれた金貨や魔道具の他にも色々あったが自分の物いがい手をつけないようにした。
(今これは僕には必要ない)
地下室から上がる、すると他の人間の気配がした。
(フォールゥたちが戻ってきたのか?)
そう思い近づくがどうも様子がおかしい、聞きなれない声が聞こえてくる。
念の為、『霧の小型灯』を使い再び透明になる。
「うげぇ、なんだこの有様は」
「シェズがやったそうですぜ、相変わらず殺し方がグロい」
現れたのは見慣れない二人組みだった、一人は鉈を、もう一人は紐袋を手にしている。
「角の採り忘れがないか確認しろってよ、こんな中調べるほうの身になってくれよ」
「上の連中は命令するだけですからねぇ」
「さっさと終わらせて掃除屋に連絡しようぜ、こんなもんトラウマになる」
そうして二人組みは黒角族の死体を調べ始めた。
「お?ちょっと待て、取り残しがあるぞ」
鉈を持っていた男が床に転がっていた黒角族の死体を持ち上げる。
その黒角族の死体はストラードだった。
ストラードの体を持ち上げ鉈を振るう、そうして角を切り落とした。
「兄貴、さっさと終わらして帰りましょう、夢にでそうだ」
「分かっている、俺だってこんな所にいたくない」
二人は工場跡地の出口に向かい始めた。
「ん?」
「どうした」
紐袋をもっていた人物が足をとめ、後ろを振り返った。
「今足音がしたような」
「おいおい怖いこと言ってんじゃねーよ」
「いや、たしかに聞こえたような」
「いい加減にしろ、俺ら以外誰もいないだろうが、ほら行くぞ」
二人はそのまま振り返りもせず工場跡去った。
二人の男は気がつかなかった。
息を潜め、後ろから付いてくる生き物がいたことを。




