50 仮面への不信
日が昇り、朝日が細長い影を生み出していた。
比較的早い時間のため季節の割には肌寒い。
街の北東にある一等地、上流階級や富裕層が住むその場所にナーデンの屋敷はある。
門に設置されているベルを鳴らすと屋敷の中からタナートが姿を現した。
「クロ殿ではありませんか」
「タナート、久しぶり」
タナートはクロの姿を見ると直に門を開けた。
屋敷の廊下をタナートの後ろに付いて歩く、廊下のにはインテリアのような魔道具が所々に飾られている。
竜の形をした置物らしきもの、以前みた赤い刀身の魔道具。
何処かで見たことのある蛙の魔道具も飾られていた。
しばらく歩き続けると木製の扉が付いている部屋に案内された。
以前も入った事のある部屋だ。
ノックをして中に入る。
「久しぶりだなクロ、待っていたぞ」
「久しぶりナーデン」
ナーデンはソファーを挟んだ向こう側に立っていた。
「座るといい、今お茶を出す」
ナーデンがお茶を汲もうとするとタナートが慌てて止めている。
以前タナートはこういう事が出来なかった、前の癖が抜けていないのだろう。
ソファーに促されソファーに腰をかけた、座ると体が深く沈みむ。
「掲示板は見てくれたか?」
「協会に入ることがあったからその時に」
「針が示したので書き込んだのだ、どうやらあれで正解だったようだ、約束どおり仮面を渡そう」
ナーデンは部屋の隅に立て掛けてあった仮面を手に取る。
「約束の仮面だ、遅くなってすまない」
「ありがとう、間違いなく僕の仮面だ」
仮面を手に取るのは久しぶりだった。
懐かしい、昔スラムで暮らしていたときに友人から貰った大切な仮面だ。
愛着は人一倍ある。
「この仮面、何処にあったの?」
「それはスラムにある雑貨屋で売っていた」
「スラムの雑貨屋?」
「ああ、かなりの値段だった」
スラムの雑貨屋と聞いてウルスの事を思い出す
(ウルスの店で売っていたのだろうか)
もしそうならば仮面の価値を分かっていたのだろう。
高い値段で売っていたのがその証拠だ。
やはりこの仮面は素晴らしい。
「クロ、その仮面は魔道具なのか」
「いや、唯の仮面だよ」
そう答えるとナーデンは神妙な顔つきをした。
「クロ、仮面の魔道具という物はどれも曰くつきのものが多い。装備したものの精神を乗っ取ったり自分の気がつかないうちに価値観を変えてしまう物もある、どれも危険な魔道具だ」
「大丈夫だよ、この仮面は唯の仮面だ、着けていて不自由な事を感じたことは無いよ」
そうは言ったが本当に不自由なかっただろうか、スラムでゴミを漁って日銭を稼ぐ日々、あれが何不自由なくいい暮らしだと本当にそう思っていたのだろうか。
「体の調子はどうだ、装備した事で何処か体が痛いとかだるいとかはないか?」
「スラムで暮らしていて常に気を張っているから、体は慢性的にだるいかも」
大丈夫、問題無いはずだ、だが本当にそうなのだろうか、ナーデンは魔道具の専門家だ、問われて絶対に大丈夫だとは返せなかった。
「まあクロがそれでいいならそれで構わない」
そう言うとナーデンは口を閉ざした。
屋敷を後にする時、ナーデンが不安そうな顔をしているのが印象的だった。
少し不安にはなった、だが仮面を取り戻した喜びの方が大きかった。
そうして仮面の曰くなどすぐに忘れた。
*
翌日、黒角族達との待ち合わせ場所に足を運んだ。
盗まれた金貨や魔道具を返してもらうためだ。
しかし少し早く来すぎてしまったのか待ち合わせ場所に黒角族達の姿は無い。
仕方なしにその場で待つことにした。
だが黒角族達は待ち合わせ場所に現れない。
どれだけ待っても約束の場所に黒角族達は現れなかった。




