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48 懐かしい名前

 暗い夜道を明りを灯す魔道具が照らしている。

 何年も整備されていない砂利道は歩くたびに石のこすれる音が響き、人の存在をより鮮明にしていた。


 そんなスラムの道を正面から歩いてくるものが一人居る。

 その人物がいる所だけ明りを灯す魔道具が光を放っていない。

 頭部に生えている二本の角が逆光を受け際立っている。

 その人物は正面に陣取った、姿の見えないはずの僕の前にだ。

 

 「見つけたぞ、仮面の子供」


 現れたのは一人の黒角族だった。

 その頭部には二本の角が生えている。

 そして掌には透明な水晶が乗せられていた。


 その黒角族が僕の近くまで来ると異変が起こった。

 先程『霧の小型灯』で隠した僕の外套が視界に入ったのだ。

 透明にして見えなくしたはずの外套がだ。



 「お前には聞きたいことが山ほどある、大人しく付いてきてもらおうか」


 目の前の黒角族は視線を外そうとしない。

 僕の姿が見えているのような動きだった。


 そう理解した後の行動は早かった

 その黒角族に背を向け、スラムの路地目掛けて走る。


 「待て!」


 体に軽い衝撃があった。

 後ろから何かを投げつけられた、だが確認をしている暇は無い、振り返らず全力でスラムの路地裏に飛び込む。


 


 後ろから黒角族の走る音が聞こえてくる。

 だが地の利は此方にある。

 子供しか通れないような狭い路地を選びながら距離をとる。


 距離を取ると先程見えるようになっていた外套が視界から消えていた。

 何か魔道具の効果を阻害する物があるのかもしれない。

 だが距離を取ったことでその効果は無くなっている様だった。

 これなら逃げ切れるだろうか。


 後ろを振り返ると先程の黒角族はいない。

 無事撒けただろうか。


 安心したのも束の間、後方で何かが弾けたような音がした。

 その後直に上空で巨大な火花が散る。


 閃光が周囲を明るくする。

 時間をかけると人が集まってくるかもしれない、急いで逃げなければ。



 そうして路地を抜けた先に複数の黒角族が待ち構えていた。

 だが黒角族達は先程上がった火花の方向をみており僕の存在に気がついていないようだった。

 

 チャンスだ。


 

 その場から離れる為黒角族の集団から距離を取る。

 だが撒いたと思った二本角の黒角族の女が別の道から現れた。


 先程まで持っていた水晶はその手に無く、代わりに白い木の枝が握られている。


 「お前ら良く見ろ!隠蔽の魔道具を使っている!その棘のついた植物だ!取り押さえろ!」


 (植物!?)


 良く見れば外套に手のひら大の棘の付いた植物がへばり付いている。

 外套は見えない状態なのでその植物だけ浮いているように見えた。


 「そこか!」


 開けた道に出てしまった上、黒角族との距離も近い。

 近くで火花を見ていた黒角族に押し倒されてしまった。


 「フォールゥ様、取り押さえました!」

 「良くやった!そのまま離すな!」


 周りには黒角族達が続々と集まってきている。

 軽く数えただけでも10人以上はいた。 



 体を捻り逃れようとするが別の黒角族に頭を押さえつけれら完全に動けなくされる。

 衝撃で身に付けていた仮面が外れる。

 見えないが近くに転がったのは分かった。


 「逃げようなんて思わないことだ」


 そう言うと僕の頭をさらに力を込めて押さえつける。

 体重も乗っているので逃げられそうに無い。


 だが頭を押さえつけていた者の手が僕の角に触れた瞬間、動きが止まった。


 何かを確かめるように僕の頭を一通り触ると慌てて立ち上がり距離をとった。

 その黒角族は困惑の表情で僕の事を見つめている。



 「何をやっている!離すな!」

 「いえ、ですが!」


 その黒角族は呆然とそこから動かない。


 「どけっ!俺が抑える!」


 痺れを切らした別の黒角族が僕の頭を押さえつけた。

 その頭には二本の角が生えている。


 だが先程と同じように角の部分に触れた所でその動きが止まった。


 「はっ?」


 その黒角族も僕から手を離し、慌てて距離を取った。


 「なにをやっているストラード!何故離す!」

 「いや、だって、そんな事あるのか?」


 それを見ていた足を押さえこんでいた黒角族も、不穏な気配を感じ取って手を離す。

 そうして僕を取り押さえる者は誰もいなくなった。


 外套に付いていた植物を外し立ち上がる。

 みれば僕を押さえつけていた黒角族はさらに後ろに下がっている。

 逃げてもいいのだろうか。


 フォールゥと呼ばれた黒角族は、持っていた木の枝をしまい、先程と同じく透明な水晶を取り出すとなにやら操作をし始めた。

 その水晶が掲げられると見えなくなっていた外套、仮面、そして隠していた顔が見えるようになった。


 瞬間、全ての黒角族が動きを止めた。

 

 「えっ」


 周りを囲んでいる黒角族は呆然と此方をみている。

 フォールゥと呼ばれていた黒角族は水晶を持っている手が心なしか震えいている。

 僕を押さえ込んでいた黒角族に至っては地面に座り込んでいた。





 「クロムウェル様?」





 何年振りだろう、懐かしい名前を呼ばれた。

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