43 おかえりなさい
元来た道には戻れない、ならば進むしかない。
機械兵が消えていった通路に足を延ばす。
大丈夫だ、僕の姿は機械兵から見えない、道中遭遇したとしても問題はないはずだ。
長く細い通路を一人で進む、この通路は横幅は狭いが天井は高いのでより孤独感を増している。
幸いにも機械兵と遭遇することは無かった。何年も前に探索され尽くしたダンジョンだ、機械兵も先程遭遇した固体で最後だったのかもしれない。
しばらく進むと前方に階段がみえる。
だが現れたのは下へと続く階段だった。ダンジョンから脱出する為上に続く階段を探していたのだがあてが外れてしまった。
ここまでは一本道だった。進むしかない。
階段はこれまでと同じ螺旋状だ。
下まで続く階段はどれも不自然なくらい真っ白だった。
どんどんダンジョンの奥まで進んでいるが大丈夫だろうか。
もしかしたら一生ここから出れないのでは?
それは嫌だ、何としてでもここから出なければ。
焦る気持ちが階段を降りるペースを早くする。
だが焦りすぎてしまった、段差を踏む感触に違和感を感じバランスを崩した。あわてて壁に取り付けられていた手すりに捕まる。
危なかった、何が起こった?
辺りを注意して見てみると僕が踏んだ段差だけ他の段差とは色が違い黄ばんでいた。
この段差が少し沈んだようだ、これは罠か?
踏むことで何らかの仕掛けが発動する罠だろうか。
だがしばらくその場で待つが何かが起こる気配は無い。
段差が沈んだのでバランスを崩したがそれだけだ。それを狙った罠だったのか?
さすがにそんな事は無いと思うのだが、古いダンジョンだし罠も壊れていたのだろうか。
疑問に思いながらも階段を下りる、するとまた細く長い道が続いていた。
通路は一直線だ、長い通路の先には巨大な扉がある、いかにも何かがありそうな扉だ。
そして通路の中心に四足歩行の機械兵が陣取っていた。
どうする?あの機械兵は二足歩行とは違い戦闘用には見えない。
近くを通るくらいなら大丈夫だろうか。
四足歩行の機械兵のレンズは赤く点滅しながらこちらを向いている。
しかし突如機械兵は向きを変え、何も無い通路の壁を見つめ始めた。
壁がぼやける。
そして壁だと思っていた場所に突然通路が現れた、四足歩行の機械兵は現れた通路へとゆっくり入っていく。
まさか隠し通路か?
通路は閉じられる気配が無い、空いたままだ。
道は二つある、前方の閉じられている巨大な扉、そして今四足歩行の機械兵が入っていった通路だ。
どうするべきだろうか。あの通路は罠か?誘っているのか?
いや、僕の姿は見えないはずだ、あの機械兵は一見こちらを認識しているような動きをしていたが偶然だろう。
もし僕の姿が見えるのなら先程の二足歩行の機械兵はニックに向かわず近くに居た僕に向かってくるはずだ。
ならば一見こちらを認識しているような動きはあの機械兵の通常の行動なのだろう。
疑って掛かるから何もかも悪い方に考えてしまうのだ、僕の姿は見えていないことを前提に計画を練るべきだ。
隠し通路はパスだ。隠してある通路が出口に繋がっているとは思えない。
そう思っていたが僕が選べる道は一つしかなかった。
巨大な扉はびくともせず開かなかったのだ。
結果的に僕が選べる道は隠し通路ただ一つだけだった。
薄暗い通路を進む、明りの魔道具もあまり設置されておらず足元が見えない事が多々あった。
しばらく歩くと扉が見えてくる。
扉は木材で出来ていた、これまでの無機質な金属の扉とは違うようだ。
緊張しながらもドアノブを回す。
その部屋はやけに生活臭がする部屋だった。
室内には机と椅子が置いてあり部屋の隅には寝具も設置されている。
ここで古代人が暮らしていたのだろうか。
そして気になる点がもう一つ、部屋の隅に人が居た。
いや、一見人に見えるそれは機械だった。
人型の機械兵だ。
所々塗装は禿げている。人の皮膚を再現したであろう精巧な腕からは機械がはみ出していた。
殆ど壊れかけだ、もしこれが戦闘用の機械兵であったとしても何も出来ずこの機械兵は壊されるだろう。
機械兵は部屋の隅で座り込んでいた。
機械兵は立ち上がろうとするが足の関節はキイキイと音を立てるだけで動かない。
何度も機械兵は立ち上がろうとするがその度に関節から音を発するだけで立ち上がることは出来なかった。
立ち上がることを諦めた機械兵は口を開き、何らかの言葉を発した。
その機械兵の声は所々途切れていてうまく聞き取れない、声を発する機能も壊れているのだろう。
だがその機械兵が発した最後の声ははっきりと僕には聞こえた。
「おかえりなさい」
そう機械兵は言葉を発した。




