40 行き先はダンジョン
数日前、僕は寝床で惰眠を貪っていた。
最近は色々あってあまり寝ていない。ここらで寝溜めをしておきたかった。
衣服を取り払い透明な状態で横になる、毛布がずれていたので掛けなおそうとしたその時、寝床へと続く階段を降りる音が耳に届いた。
寝床の天幕をめくり、複数の黒角族が乗り込んでくる。
黒角族は寝床に土足で入り込むと、隅に置いてあった日用品を床にぶちまけ始めた。
何かを探しているようには見えない、目に入る物を手当たり次第に投げ捨てている。
そうして寝床を一通り辺りを荒らし終わると、最後に唾を床に吐き捨て去っていった。
なぜ?
何かしたか?いや、色々やったのは覚えている。だがバレてはいないと思っていた。
ウルスも忠告していた、逃げた方がいいか?
スラムを離れるのは少し気がひける、最近は知り合いも増えた。
それにここを離れるのは昔の友達との約束を反故にするような気がして行動に移せなかった。
仮面も手元に無い。
荒らされた寝床を見渡す。
黒角族は躊躇いも無く寝床を荒らしていった。
どうみても平和的な解決はできそうにない。
僕の力で彼らに対抗できるとは思えなかった。
逃げよう。
そう決意したのが数日前である。
すぐに寝床を抜け出し、スラムに横付けるように止まっていた一台の馬車に飛び乗った。
馬車の持ち主の話を盗み聞いた所、どうやらこの馬車は街の外へ向かうらしい。
ならば丁度いいと僕は馬車に乗り続ける事にした。
もちろん衣服は身につけず透明な状態だ。
馬車に乗っている人物は二人いた、一人は学者、もう一人は冒険者だ。二人は街を出て東にある遺跡を目指しているらしい。
「僕はダンジョンの秘密を解き明かしたいのだ」
そう豪語する人物は学者のハーマンだ。
まだダンジョンに着いていないのに既に長靴にズボンをしまい込み帽子は耳まで覆う物を被っている。
大きなリュックを背負い、御者をしている冒険者の後ろで力説している、熱が篭るのか掛けている眼鏡が少し曇っていた。
準備は万端という感じだ。気が早い。
「旦那、まだ目的地まで距離があります、もうちょっとゆっくりしてて大丈夫ですよ」
そう話しかけるのは冒険者のニックだ。
顔には複数の傷があり元々怖い顔がさらに迫力を増していた。
背はそこまで高くないが普段から鍛えているようで筋肉の盛り上がりで巨体に見える。
普段背中には巨大な大剣を背負っているがいまは御者をやっているので剣は馬車の隅に置いてある。
二人が目指しているのは街から東にある古代遺跡だ。
古代遺跡の中心に地下へと続く空洞がある。
その空洞の壁は白く舗装されており内壁にはいくつかの魔道具が設置され光を放っている。
現代人では作ることが出来ない魔道具、それが壁一面に設置されているのだ。
なぜそんな物が設置されているのかというと、その空洞は今は亡き古代人の住処なのである。
このような空洞は世界各地にあり、日夜冒険者が魔道具を求め内部の探索を行うらしい。
人々はそのような遺跡をダンジョンと呼んでいた。
二人が向かっているダンジョンは機械兵の螺旋穴といい螺旋状になっている階段が下へと続いているダンジョンらしい。
道中様々な罠が仕掛けられている、それは古代人が仕掛けた防犯装置の一種で侵入者の行く手を阻んでいた。
そう、かつては行く手を阻んでいたのだ。
このダンジョンは探索し尽されている。
数十年前にとある冒険者達がダンジョンの最下層に到達し、中にいた機械兵を駆逐してからというもの魔道具は取り尽された。
光を放つ魔道具だけは学者達の研究資料として残されているが、それらもいずれ回収されるだろう。
そうハーマンが力説していた。
馬車の内部で数日過ごす、ハーマンとニックは気が合うのか良く語り合っていた。
「僕は遺跡の魔道具を持ち帰るのは反対です、あれらは大変貴重な歴史の資料です!それをお金に換えるなんてとんでもない!」
「そうは言っても俺達冒険者は魔道具を持ち帰るのが稼ぎの一つです、お金を払えば学者さん達も安全に魔道具を調べられる。お互い得していると思うんですよ」
「それはそうですがダンジョンをそのままの状態で保存することも大事なのです!」
二人が熱い議論を繰り広げていると、馬車の外の景色が変わり土の道も汚れた石畳に変わった。
「旦那、目的地がみえてきましたよ」
まず目に入ったのは中央に聳え立つ塔だった。
その塔を中心に住居だったであろう石造りの建物がポツポツと点在している。
塔は途中で崩れており上まで登れない、かつては塔の一部だったであろう上部は近くで横倒しになっていた。
かつては白かったであろう壁は灰色に染まり欠けている。そのうえ蔦が這い苔に覆われていた。
塔の内部に侵入する、内部は白い金属で覆われ高い位置に光を放つ魔道具が等間隔に設置されているのがみえた。
内部の隅には下へと続く螺旋階段があり、その螺旋階段目掛けてハーマンが走り出す。
「ニックさん、早速いきましょう!」
「俺が先行します、まだ機械兵が残っているかもしれませんから旦那は後ろから付いてきて下さい」
そう言って二人は階段へと向かっていった、どうやらここがダンジョンの入口のようだ。
僕も付いていこう、そう思い足を進めると端の方に壊れた機械兵が乱雑に積まれているのが目に入った。
その中の一つ、四足歩行の機械が動いたように見えたのだ。
二人は動いている機械兵に気がつかなかったようだ、見れば既に階段を降り始めている。
僕が対応した方がいいだろうか、そう思い機械兵の山を再び見る、だが先程までいた四足歩行の機械兵は見当たらなかった。




