36 使えなかった魔道具
スラムを抜けた先の歓楽街をさらに進むと住宅街に入る。そこにある複数の中の一軒がエリアの家だった。
エリアは家の前で立ち止まり進もうとしない。視線はしたを向いており自分の家から目を背けているようだった。
今の時間、家に家族はいないのか家の中からは物音一つしない。辺りは他の家から響く生活音だけが聞こえている。
何か声を掛けようか、そう思うがいい言葉が思いつかない。
「ありがとうございます、ここまででいいです」
エリアはそう言って手を離し、僕に背を向けた。だが相変わらず家の前で立ち止まり中に入ろうとしない。
そして意を決したようにこちらを振り返った。
「豊穣神様、お礼にこれを差し上げます」
「これは?」
渡してきたのは先程使用した十字架だった。
使用すれば欠損した人体をも修復する魔道具、それをエリアは渡してきた。
「その魔道具は私の家には必要ない物なんです、それが原因で家族皆仲違いしている、そんな物無い方がいい」
エリアの家庭事情は分からない、だがあまりいいものではないのだろう。悲しそうな顔をしていた。
エリアはここ数日家から離れていたはずだ、家族はエリアを探しに行かなかったのだろうか、いや探しに行っているからここにいないのか。
「また今度お話して下さい、あの指輪があれば相手が何処にいるか分かるから」
指輪を僕が持っていることに気がついていたようだった。
隠していたつもりだったが最初に寝床にいたとき荷物を漁られていた、覚えていたのだろう。
「危ないからスラムには来ちゃダメだよ」
「では豊穣神様が会いに来て下さると嬉しいです。私はここにいますから」
そう言ってエリアは家の中に入っていく。
「さようなら、豊穣神様」
そう言ってエリアは帰っていった。
エリアが家の中に入ったのを確認してから背を向ける。
しばらく歩き続ける、気になってもう一度振り返ると窓からこちらを見ているエリアがいた。
※
手元には十字架の魔道具が残った。
人の欠損した手足を瞬時に治す魔道具、そんな魔道具に心当たりがあった。
『聖人のロザリオ』だ。
なぜ彼女がロザリオを持っていたのか、それは分からない。
彼女の家庭環境が分かれば事情も分かるのだろうがそこまで踏み込む気はなかった。
エリアが話さなかったという事は聞かない方がいいのだろう。
ロザリオを掲げる、エリアがそうしていたように頭上高く掲げ、光がちょうど反射するところに自身の頭を据える。
こうすれば切り落とした角が生えてくると思ったのだ。
だがロザリオは発動せず、角も生えてこない。
エリアが使ったとき、ロザリオは薄い光の膜に覆われていた。
だが今僕がロザリオを掲げてもそのような膜は現れなかった。
この手の魔道具には覚えがある、おそらく特定の人種しか使えない魔道具だろう、条件は分からないが僕に使えないことはなんとなく分かった。
使えないのなら所持していても仕方がない。さっさとナーデンに渡してしまおう、渡すことを条件に仮面の捜索を急かすのだ。
仮面と引き換えにロザリオを渡す事も考えたが、国宝級とも言われる魔道具を自身の所で抱えておきたくなかった。
こんな物を抱えていたら絶対にトラブルに巻き込まれる、手元に置いておきたくない。
ロザリオを外套の内ポケットにしまい、ナーデンの屋敷へと向かう事にした。




