35 魔道具 『聖人のロザリオ』
見慣れぬ場所に少女は戸惑っていたが水を飲ませたり、話を聞いたりしているうちに落ち着いてきた。
少女の名前はエリアというらしい。
少女はしきりに僕が着けている仮面を気にしていた、今身につけている仮面はナーデンから貰った豊穣神の仮面だ。
「豊穣神様が病気を治してくれたのですか?」
「僕だけじゃないよ、色んな人が協力してくれて薬を作れたんだ」
ラントにキアラ、それにダンテ、後は薬師のトルテ。
いろんな人の善意の元に今の状況がある。
「家まで送るよ、いこう」
そう言ってエリアの前に手を差し出す。
皮手袋をつけた僕の手だ。
手を差し出すと少女は手を握り返してきた。
そうしてよろけながらも立ち上がる。
そのままエリアの手を引いて寝床を出る事にした。
※
少女を自宅に送る為スラムを歩く。
なにかの役に立つかもしれないので僕は複数の白火病の特効薬を持ち歩いている。
念の為だ。
スラムを歩く。
道中すれ違う人々にジロジロ見られた。
トラブルに巻き込まれないよう早足で進む、エリアは病み上がりで少しフラフラしていたがなんとかついてきている。
そうして歩き続けていると浮浪者の多い地区に足を踏み入れた。
周囲を見渡すと道の端には酔っ払いや浮浪者が多数寝ている。
酒を飲みすぎて嘔吐している者、頭から血を流している者もいる。
その中で一際目立つ老人がいた。
老人は地面を這っている。
その老人は両手が肘の先から無く、足も片方が無かった。
そして口には刃物を咥え、歯を食いしばりながら地面を這っている。
片足で地面を蹴り腹が地面に擦られながらもゆっくりと前へ前へと進んでいた。
良く見れば顔に白い斑点も浮いている、白火病だ。
エリアがその老人をみて足を止める。
「可哀想……」
そう呟くと僕の手を離し、老人の方へと向かっていった。
老人の正面に立つエリア。
エリアの存在に気がついた老人はエリアに対して大声で怒鳴りつけ始めた。
「なんだ小娘!馬鹿にでもしに来たのか!子供一人噛み殺すくらいは出来るのだぞ!」
老人は首を振り口に加えた刃物でエリアを切りつけようとする。
エリアは無言で老人の前に座り込み、懐から銀色に輝く十字架のような物を取り出した。
そして老人の真上にて十字架を掲げる。
十字架から光が放たれる。
その光はどんどん大きくなり老人の体全体を包み込んだ。
辺りは眩しすぎて何も見えない、だがその場でしばらく待つと光が収まり老人の姿が見えるようになる。
そして老人の姿に変化が起こっていた。
手足はまるで元からあったように五体満足そろっていたのだ。
老人は突然生えてきた自分の手足を信じられないような顔で見つめている。
自分の手を開いたり握ったり、そうして自身の腕の感触を確かめている。
遠目から一連の流れを見守っていた浮浪者達から軽いざわめきが起きた。
人の無くなった手足を生やす十字架の魔道具。
この魔道具はもしや……
僕も驚きながら呆然と見ていたが、なにやら周辺の浮浪者達が此方を指差している。
心なしか人も集まってきている。
その場から去ろうとエリアの手をとるがお爺さんの顔が気になった。
白火病の症状、顔に白い斑点が浮いている。
せっかく拾った命だ、このまま病に苦しむのも可哀想だ。
「お爺さんこれ病気を治す薬だよ、飲んでね」
所持していた白火病の特効薬をお爺さんに渡す、これでこの人は助かるだろう。
お爺さんは手足が生えてきたことが信じられないのかまだ手を握ったり開いたりしている。
お爺さんの前に白火病の特効薬を置く。
そうしてすぐにその場を去ることにした。




