32 診察
医者はダンテと言う名前らしい、ダンテを連れスラムの寝床まで向かう。
道中何度か絡まれることがあった、だがラントは複数のチンピラに囲まれても臆する事なく叩きのめしていた。
酔っ払いは基本無視、掴みかかってくる奴はラントが払いのける。
スラムに住む者の対応に困っていたのはダンテだった。ダンテは白衣に薬鞄を背負っている。誰がどう見ても医者に見える。
そのため怪我や病気で動けなくなった者、痩せ細った両親が我が子を見てくれと泣き付いてくる事が多々あった。
その都度ダンテは丁寧に断りをいれている、中には人でなしと罵ってくる者もいた。
「この格好で来たのは失敗だった」
この辺りは身寄りの無い子供が寝床にしている、少し歩いただけで状態の悪そうな子供が沢山居る。
「可哀想だとは思うが全ての人間を助けられる時間も薬もない、見て見ぬ振りをするしかない」
言っている言葉はきついがダンテは悔しそうな顔をしていた。
*
「ここの中です」
寝床に着く、今にも崩れ落ちそうな廃墟、その地下に続く階段が僕の寝床だ。
「こんな所から入るのか」
壁にはヒビが入っており空いた大きな隙間から中に入る。
「あまり衛生面はよくなさそうだな」
建物内、かつて通路として使われていた場所を歩く、端のほうでは崩れた瓦礫の上に埃が積もっている。
掃除をする者はいない、そんな時間と余裕を持っている人間はスラムには存在しない。
「ここです」
自分の部屋の前につく、中からは人の息づかいが微かに聞こえる。
「入るよ」
天幕を開け中に入る。少女は態勢は変わっていたが寝息を立てて寝ていた、昨夜見たときより若干苦しそうだ
「どれ、見せてみろ」
ダンテが手袋をつけ少女の顔に触れる、瞼を開いたり口を開けて喉を除き込んだりしていた。
ラントは天幕の前で立っている、見張りをしてくれているのだろう。
「これはちょっとな」
ダンテが苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「こいつは恐らく白火病だ」
「白火病?」
「最初は熱が出るだけなので風邪だと勘違いする事が多い、だが何日も熱が下がらず暫くすると顔に白い斑点が浮く、その斑点が熱を持っていることから白火病と言われている」
ダンテは付けていた手袋を外し袋に入れる。
「外いいか?」
ダンテに促され部屋の外にでる。
「治療するには特効薬が必要だ、だが俺は持っていない」
「手に入れる方法は?」
「薬を作る素材の一部が高級品でな、高い上に市場に出回る事がほぼない、入手は不可能だ」
ここまでやって、治すことはできないのか。
「今の俺にできる事は栄養薬を渡す事くらいだ」
そう言ってダンテは栄養薬を渡してきた。
「朝と夜、水と一緒に飲ませろ」
「あの子は助かるの?」
「白火病は特効薬を飲まなければ治らない、白火病にかかって今現在生きている人間は特効薬を飲んで助かった者、もしくは今も病気と戦っている者、その二種類しかいない」
そうなのか、ならばあの子は助からないのだろう。
「薬の素材さえあればなんとかなるが俺には手に入れられない」
素材か。
「その手に入りにくい素材って何なの?」
「黒角族の角だ、黒角族はこの国では人として認められている、ゆえに人体の一部である角の取引は認められていないんだ」
ラントと顔を見合わせた。
ダンテから少し離れた位置でラントと話し合う。ダンテは病気の子の面倒をみている、この場にはいない。
「おいクロ、あの時の黒角族ってどうなったんだ」
「遺体はスラムの掃除屋がすぐに処理しちゃうからもうないだろうね」
「あいつらか、じゃあ何か?もう角はないって事か?」
「遺体処理班が価値を分かっていれば裏市場に流しているかな、でも普通は燃やして共同墓地にいれて終わりだね」
魔石は確保したけど角は取らなかった。
「じゃあ無理ってことか」
「そうなるね」
「このままなのは可哀想だな」
そんな話をしていた所、天幕からダンテがでてきた
「クロ、今出来ることはやってきた、だがこのままだといずれ亡くなるぞ」
「ありがとう。後は僕が見るよ」
「そうか」
ダンテは荷物をまとめ帰り支度を始めている。
「ところで気になったんだけどさ、この病気って移るの?」
「それについては判らん」
「んん?」
「空気感染なのか飛沫感染なのか、明らかに飛沫を浴びているような奴が発症していなかったり、患者に一切関わりがない人物が発症したり、白火病については感染経路が一切不明だ」
後ろで話を聞いていたラントが顔面蒼白になっている。
「何か心当たりはない?確証はなくていいからさ」
「悪いがまったく無い、病気にかかった人の年齢、性別、職業、共通するものが見当たらない」
「もしかして僕逹もかかったりする?」
「可能性は無くはないとだけ」
「そう」
ラントの手が少し震えていた、もしかしたら移っている可能性もあるのか。
「黒角族の角があれば薬はすぐ作れるの?」
「他の素材が揃っていればな、1日もあれば作れると思うが」
「ダンテの所に角を持っていけば作ってもらえるの?」
「俺は医者だから作れないぞ、作れる薬師を紹介する事はできるが」
そうか、それで十分かな
「黒角族の角、手に入れる宛があるから準備しといて、明日の朝には持ってくる」
「は?」
ダンテが胡散臭いものを見る目でこちらを見ている。
「手に入れられるってお前本当か」
「うん、宛があるよ」
「まてまて、薬を作るとしても他の素材も結構高価なんだ、俺の給料二、三ヶ月分は吹っ飛ぶ」
「薬一つ作るのにそんなにお金がかかるの?薬になったらすごい値段になるんじゃない?」
「一本の角で何千個も薬が作れるからな、そこまで値段は高くならない」
「そうなんだ、じゃあ薬が売れたらダンテが出した分は売上で捕賃して」
「本当に黒角族の角を用意できるのか?他の素材はナマ物混じっているから保存とかできねえぞ」
「大丈夫用意できるよ」
ダンテは胡散臭げな顔でこちらを見ている、その表情はこちらの事をまったく信じていないようにみえる。
「どのくらいの確率で用意できるんだ?」
「十割」
「十割?」
それを聞いたダンテは腕を組みながら何か考え始めた。
下を向きながら何かブツブツと呟いている。
「本当に用意できるんだな」
「まず間違いなく用意できるよ」
「分かった素材を用意しておく、準備があるから明日の昼頃診療所に来てくれ」
後はダンテを治療所に送り届けて終わりだろう、そう思い護衛を任せた人物をみると未だに青い顔をして固まっている。
「ラント、病気になっていたとしてもこれから特効薬作るから大丈夫だよ」
「おう」
ラントは心ここにあらずという感じだった。大丈夫だろうかこの護衛は。
ダンテの護衛はラントに任せる、僕は僕でこれからやらなければならない事がある。




