31 優秀な護衛
「なあいいだろ、酒を持ってきてくれ」
「お金も無いのに頼もうとしないでよ、この前付けた分もまだ払っていないじゃない」
酒場に戻るとラントが給仕の女性に絡んでいる。店内に人は少ない、もうすぐ店を閉める時間なのだろう。
「大丈夫だって、クロがお金持ってくるからさ」
「あんな子供パシりにしてんじゃないよ」
どうしようかと酒場の入口で様子を眺めているとラントと目が会った。
「お!帰ってきたか、ねーちゃんジョッキ二つ」
「お姉さん今の注文キャンセルで」
「はいよ」
キアラとの約束は守らなければならない。酒の注文は却下だ。
「まてまてまて」
「ラント、これから護衛の仕事だから、酔ってたら仕事にならないよ」
「ん?ああ、まあそうなんだけど」
ラントが訳が分からないといいたげな顔でこちらをみている、酔ってたら仕事にならないのだが分かっているのだろうか。
「それに禁酒令出されているんでしょ、キアラからお酒を飲むようなら止めるように言われているよ」
「まじかよ」
「いくよラント、剣持って」
お酒を飲もうとするラントを無視して会計に向かう。こういうのは許可を取る前に行動した方がいい。
「ちょっとまてまてまて、俺の胃は酒を飲む準備が出来ているんだ、一口、一口でいいから!」
「すいません会計お願いします、今までの付けも払います」
「はいよ、金貨20枚ね、今日の分の飲み食いはサービスするよ」
「ありがとうございます」
別の店員がラントが座っていた前の机を片付け始めた、それを呆然とラントは見送っていた。
*
ラントと共に夜が明けたスラムと街の境を進む。
この辺りは一応街という認識で治安もそれなりにいい。
だがスラムの人間も出入りをしているので街の人間は好んでこの辺りにはこない。
しばらく歩き続け昨夜に訪ねた病院の前に辿り着く。
「ここか?」
「夜は営業していたんだけど今は閉まっているね」
「夜間営業所か、ここには来た事無いが俺も何度か世話になったな」
入口は閉まっていたので建物の裏口に回る、取っ手に付いていたノッカーを叩くと幼い少女が出てきた。
「はいどなたです……か」
子供は仮面を付けた僕の事をみて怖がっているようだ。
「昨夜にここに来たものです、見てもらいたい病気の人がおりまして、護衛を用意したので往診をお願いしたいのです」
「えっと」
僕とラントを交互にみて困った顔をしている。
「どうしたアルテ」
中で会話を聞いていたのだろうか、夜に会った医者が顔をだした。
「お前は昨夜の」
「昨夜振りです、護衛を用意したので往診をお願いできませんか」
「神斬剣の者です、この度の護衛を承りましたラントと申します、宜しくお願いします」
最後のセリフはラントが言った、敬語を使うと別人のように凛々しくなる。
医者は僕らの事をしばらくみていたがやがて観念したように口を開いた。
「そっちの剣士は剣武祭で見たことがある、まさか本当に連れてくるとは思わなかった」
医者はため息をついたがやがて覚悟を決めたのかこちらを向いた。
「分かった準備をする、患者の容態を教えてくれ」
「熱があります、意識は無く呼吸は荒いです」
「性別、年齢は?」
「女性で僕より背は小さいのでかなり若いと思います」
「子供か、他になにか症状はあるか」
「顔に白い斑点が浮いています」
「なに?」
白い斑点の話を出した瞬間急に医者の態度が変わった。
「お父さん」
娘だったのか、先ほど僕達の対応をした子供が医者の服の裾を掴んでいる。
医者は屈みこみ娘と視線を合わせてから頭を撫でる。
「大丈夫だ、お父さん出掛けてくるから戸締まりをしっかりして寝ているんだ、お母さんの事頼んだぞ」
「うん」
娘は家の奥に入っていった、医者は神妙な面持ちでこちらをみる。
「患者はみる、だが俺が思っている症状だとすると医者に出来ることはないかもしれないぞ」




