30 いたれりつくせり
「クロ君お久しぶりです、こちらへどうぞ」
「久しぶりキアラ」
キアラは床に正座している、目の前に座布団が置いてあったのでそこに座ることにした。
「最後に会った時は妙な別れ方になってしまいましたが、その後お変わりありませんか?」
そういえば黒角族と戦ってそれっきりだった。
「大丈夫だよ、キアラは怪我の具合はどう?」
「この通り元通りです、魔道具の力は凄いですね。剣武祭には間に合いそうです」
「剣武祭?」
「剣の腕を競う大会です、実際に剣を交えて戦う訳ではなく、何かを斬ったりして優勝を目指します。競技のような物です」
競技か、楽しそうだな、一度見てみたい。
「キアラはその剣武祭で優勝できそう?」
「当然です、前回の優勝者は私ですし、今回も優勝させて頂きます」
いつも落ち着いた喋りをするキアラがこの時だけは熱の籠った返事をした。
やはり剣に関わる事が好きなようだ。
「キアラ、改めてお願いがあるんだけど」
「お金の話ですよね、なぜ兄の使いをクロ君が?」
「スラムに医者を呼びたいんだけど護衛がいるんだ、ラントにお願いしようとしたんだけど、お店のツケが払えなくて身動き出来なくなっているみたいで」
「時間があれば私が護衛として付いていくのですが、先ほど言ったようにもうすぐ剣武祭があります、私は行けそうにありません」
「無理を言っているのはこっちだし、ありがとうキアラ」
剣武祭か、僕には良く分からないがキアラにとって大事なことなのだろう、さすがにそれを邪魔する訳にはいかない
「クロ君、必要な金貨は何枚ほどですか?」
「ラントは20枚って言ってた」
「念の為5枚ほど追加で渡しておきます」
キアラが懐から金貨を何枚も取り出す、その金貨を紐袋にいれて僕に差し出してきた。
「兄上はもうお酒を飲んでいましたか?」
「まだだったと思うけど」
「あの人には父上から禁酒令を出されています、飲ませないで下さい」
「分かった、飲みそうだったら止めとく」
「お願いします」
そういえば噂の父親には会えなかった、ラントの使いとして来てる以上会わない方がいいのだろうが気になる。
「兄上の剣の腕は確かです。飲んでいなければそこらの腕自慢くらいには負けません、信頼して護衛を任せられます」
「うん、剣の腕は信頼しているよ」
それ以外はあまり信頼できないけど。
「最後にクロ君、これを差し上げます」
そういってキアラが差し出してきたのは短い刀身のナイフだった。
「これは?」
「それは『深淵狼の短剣』といいます、柄をひねった状態で切りつけると硬いものでも簡単に切り裂けるという魔道具です、護身用にお持ちください」
「いいの?これって高い物じゃない?」
「構いません、その短剣でできる事は我々には普通の剣で再現できます、なので無用の長物です」
「ありがとう、ありがたく頂いていくよ」
キアラから短剣を受け取り、僕は神斬剣の道場を後にする事にした。
何から何まで世話になってしまった。今度改めてお礼を言おう。




