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26 招かざる来客

 ナーデン・エクレムは数分前に勢い良く開いた自室のドアを見つめていた。


 「逃げたな」


 透明人間、まさかそんな生き物がいるとは思わなかった。


 最初からそんな生物がいると分かっていれば、もっと違う動き方もあったかもしれない。


 しかし逃げられてしまったか、クロには色々話しておきたい事があった。

 透明な人間、そんな人間がいたらぜひ部下に欲しい。

 姿が見えない、それだけで色々な仕事を任せられそうだ。

 諜報に暗殺はお手の物だろう。後者はやらせるつもりは無いが有用な人材である事は間違いない。


 だがもし部下に迎えるとしても、仮面を見つけてからだな。

 さすがに約束を守らなければ信頼関係は築けないだろう。勧誘はその後だ。


 『リードの針時計』を見つめる。

 針はピクリとも動いていなかった。むしろ萎れていると言っていい。

 『聖人のロザリオ』は見つからなかった。

 針が間違って透明人間を指し示したのだろうか、もしくは私が解釈を間違えたか。


 どちらも違う気がした。現在針は何も指していない。『リードの針時計』が何も指し示さない場合は二通りある。


 一つは解決手段がこの世から潰えた事、こちらだったら私にはもうどうにも出来ない。

 もう一つは何もしなくとも物事が解決する事、時計の持ち主が動かなくても自然に物事が解決する場合、この針は何も指し示さない。


 前者だったら解決は不可能だ、だが私は後者だと思っている。

 そうでなければあの透明人間を指し示したりはしないだろう。あいつが何が事件の鍵を握っているのだ。いや、もしかしたらこれから事件に関わってくるのかもしれない。


 そして針が何も指し示さない以上、私に出来る事は何も無いのだろう。

 『聖人のロザリオ』に関して自分が出来る事は無くなったのだ。



 時計を見つめる、両親から譲られたこの時計、困ったときにはこの時計に頼れと言われ続けてきた。

 だが両親の死の間際、放った言葉は時計に頼りすぎるなという言葉だった。

 時計は無意識下の願望をも汲み取る、それが一時の気の迷いだったとしてもだ。


 私の心は今どうなっている?

 あの透明人間を部下として欲しい、本当にそう思っているか?

 本当にそう思っているのなら、あいつの仮面の位置を教えてくれ。


 そう思いながら『リードの針時計』を起動する。


 針は教会の方向を指し示していた。






     *





 教会の大司教、エドモンド・ラティモアは無事に戻ってきた『聖人のロザリオ』を握り締めていた。

 そう、これは偽物なんかじゃない、本物だという事を自分は知っていた。

 『聖人のロザリオ』は体の欠損などを瞬時に治せるという規格外の魔道具だ。

 しかし教会の一部のものしか知らない秘密がある、この魔道具は血統魔道具なのだ。


 血統魔道具はその血に連なる者しか発動できない魔道具である、このロザリオは我がラティモア家の者しか使用できない。

 だが教会はロザリオにより権力がラティモア家に集中する事を嫌った。その為ロザリオが血統魔道具だという事を秘匿している。


 エドモンドの父親はロザリオを発動する事ができた。

 誰にでも愛され、どんな人間ともすぐに仲良くなれる父は憧れであり誇りだった。

 だが父は生前、ロザリオを私に使わせてくれる事は無かった。父の死後、私はロザリオを引き継いだが魔道具を発動する事はできなかった。


 母は父親の死後直ぐに再婚した。子供の頃は意味が理解できなかったが、成長するにつれその意味を理解すると母親への憎しみが募るだけだった。


 「父上、私は貴方の子供では無かったのですか?」


 声に出しても、その問いに答えてくれるものは誰も居なかった。


 ふと視線を横にやると一つの仮面が目に入る。

 雇った暗殺者達が回収してきた仮面、おそらくフェイクだったのだろう、あれを盗んできても意味が無かった。

 血のつながりが無い事を隠すため、ロザリオを盗ませたのだが結局ロザリオは戻ってきた、ナーデンは優秀すぎる。


 それにしても気持ち悪い仮面だ、下手に捨てたりすると呪われそうだ。

 仮面を眺める、すると仮面と視線が合ったような気がした。

 仮面に責められている気がした、エドモンドは居心地が悪くなりその部屋から去ることにした。




     *





 (すっかり遅くなってしまった)


 屋敷から逃げ出したクロはスラムの寝床に戻ろうとしていた。その手には豊穣の神の仮面がある。

 スラムの中でもこの周辺は人がほとんどいない、辺りは一面真っ暗で人の気配は無く、辺りは静寂に包まれている。

 だからだろうか、自分の寝床から人の息遣いが聞こえてくる事に気が付いた。


 (誰かいるのか?)


 泥棒だろうか、それにしては呼吸音以外物音がしない、その上聞こえてくる呼吸は荒かった。

 中にいるのは一人だけのようだ、そして寝ている、物取りならば逃げようかと思っていたがしっかりと確認したほうが良さそうだ。

 天幕を開ける、そこにいたのは、腕に何かを抱え横になっている少女だった。



 その少女の顔には白い斑点が浮いていた。

二章完結です!ここまで読んでいただき有難うございました。

次の投稿から三章になります。少し時間が空くかもしれませんが必ず投稿しますのでお待ちいただけると嬉しいです!

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