25 大事なのは性別
「くそ!どうなっている!」
クロ達は教会からナーデンの屋敷に戻ってきていた。
エドモンドから『聖人のロザリオ』を最探索を命じられたナーデンは、情報を整理するため一度屋敷に戻ってきていた。
「予想できるか!収納されていたロザリオが偽物だなんて!」
「ナーデン様、どうか落ち着かれてください」
「分かっている!独り言だ!叫んで心を落ち着かせようとしているんだ!」
タナートが窘めているが落ち着く気配はない。
「ナーデン様、『リードの針時計』はどうなっておられますか」
「針は何も示していない」
願望の解決手段を指し示す『リードの針時計』は沈黙していた。
「クロ、いるか」
「いるよ」
ナーデンがクロがいる方向とは反対側を向いて声を掛けてきた。
予想していた場所とは別の場所から声が聞こえたせいだろうか、少し驚いていた。
「なにかロザリオに関わる情報を持っていないか、リードの針時計がこうなってしまった以上正直行き詰っている」
「僕が見たのは蛙の中にロザリオを収納する所だけだよ」
「そうか、これで打つ手が無くなった」
ナーデンは溜息を吐き、机に突っ伏した。
「クロ、タナート。申し訳ないがしばらく一人にしてくれないか。考え事をしたい」
「分かりました、行きましょうクロ君」
タナートは心配そうにしていたがナーデンに言われた通り部屋から出て行くことに決めたようだ。
クロもタナートと共に部屋から出る。
いや出る振りをした。
クロは部屋から出ていなかった。
なんとなくこのままお開きになる雰囲気を感じ取った。
このままだとまずいと思ったのだ。
自身の仮面の事ををこのまま放置されるのが一番困る。
約束を反故にされないだろうとは思っている。
だがナーデンと出会ってからそれほど経っていない、信頼関係は思っているほどない。
安心が欲しかった、故に何か弱みでも握っておこうと思っていた。いざとなったらそれで交渉すればいいと。
ナーデンは机に突っ伏していたが深い溜息の後、着ていた服に手を掛けた。
(なんだ?着替えるのか?)
(男の着替えなんてみたくないぞ)
仕方が無いので部屋の窓から外を眺める。
いい天気だ、それに比べてクロの心は淀んでいた。
(早く仮面を取り戻したい)
しばらく外を眺めていたがナーデンはまだゴソゴソしている。
(しかし着替えるの遅いな)
そう思いナーデンの方を見てみる。まだ着替えている途中だった。
普段の騎士服を着ている時は痩せて見えたが、こうしてみると上半身に結構肉が付いている。
胸に大きな膨らみが二つある。服を着ていたときは分からなかった。
(ん?)
(胸の膨らみ?)
(あれ?)
(いや落ち着こう、そもそも僕はなんでナーデンを男だと思っていたんだ?)
(そうだズボンだ。教会騎士の女性はスカートを履く、ズボンを履くのは男性だけだ。)
(そしてナーデンはズボンを履いていた、それで僕は男だと思い込んでいたんだ。)
そうなるとなぜナーデンは教会騎士の男しか履かない筈のズボンを履いていたのかという事になる。
(女だとばれたくなかったのかな?)
スラムで女性が歩くのは危険だから男装をしていたという線はある。
(取りあえず僕がここにいるとバレるのは不味い、幸いナーデンは僕の存在に気がついていない。
このまま息を殺していれば大丈夫だ。音を立てなければいい)
だがそう思えば思うほど音は出てしまうものなのだ。
ちょっと緊張しすぎて足がもつれてしまった。
体制を崩した拍子に戸棚に手を掛けてしまう。
普通なら触れないであろう壷に手を掛けてしまった。
ガチャンッ
(大丈夫だ、落としていない、揺らしただけだ。)
(だから割れてはいない。いや大丈夫じゃない)
ナーデンを見ると驚いたような顔をしてこちらを見ている。
「……クロか?」
「あ、はい、そうです」
「お前、何時からそこにいた」
ナーデンは既に着替え終わっていた。
(おーけーおーけー、落ち着こう)
(僕は一瞬だけしか見ていない。正直記憶もおぼろげだ。だから質問には正直に答えよう)
「さっき会話した後からずっとだよ」
辺りに沈黙が訪れる。大丈夫だ一瞬しか見ていない。そう叫びたかったが声が出ない。
「クロ、私は重要なことをお前に聞いていなかった、それは性別だ。君の姿は見えない、声の感じからして男だと思うが万が一という事がある」
ナーデンは机の後ろの棚から手のひらサイズの天秤を取り出した。
「君は男の子かな?それとも女の子かな?」




