23 魔道具 『遡及の帽子』
クロはナーデンの前で正座をしていた、見えてはいないだろうがそうしなければいけない気がしたのだ。
「喋る仮面の振りをしていたと」
「その通りでございます」
タナートは倒れている襲撃者の様子を見ている、こちらが気になるのかチラチラと何度か視線を送ってきていた。
「だが納得いった、低い位置に浮いている仮面、子供のような声、そしてたまにある足跡、姿の見えない人間だったのだな」
襲撃者を調べ終わったのかタナートがこちらに走ってくる。その手には蜘蛛型の魔道具が握られていた。
「ナーデン様、『蜘蛛の格子』で捕らえた襲撃者ですが息絶えています、おそらく最後に駆け寄った者が殺したのかと、その駆け寄った者も自決しております」
「そうか、死体の処理をしなければならないな、衛兵を呼んでくれ」
タナートは直ぐに走り出し街の方へ走って言った。あちらには衛兵の詰所があったはずだ。
この場にはクロとナーデンだけが残された。
「ナーデン取引をしよう」
「取引?」
「仮面を取り返してくれ、あれは僕にとって大切な物なんだ」
「仮面か、新しく別のを用意すればいいという訳ではないんだな」
「ああ、あの仮面じゃなきゃダメなんだ」
(大切な友人から貰った、本当に大事なものなんだ)
「仮面を取り戻してくれるのなら、ロザリオの捜査にも積極的に協力する、頼む」
「勿論仮面を取り返すのに全力を尽くそう、元々巻き込んだのはこちらだからな」
「これから襲撃者の身元を洗う、その後に襲撃を指示した者を探し出し問い詰める。時間がかかるがそれでいいか?」
「うん、それでいい」
それしか探す当てが無い、だからそうするしかない。
「分かった、エクレム家の名において無事仮面を取り戻す事を誓おう、全力で探す事を約束する」
「お願い」
約束、そう聞いて昔大事な友達と約束をしたことを思い出した。
仮面をくれたのもその子だ。
その約束をクロはいまだに果たせていない。
(でもいつかは……)
「クロ、君は一応人間なのだろう?名前はあるのか?」
「他の人からはクロって呼ばれているよ」
「ではクロ、これから教会で『遡及の帽子』を使用する、予め送った申請書には仮面に使用すると記載した。なので引き続き喋る仮面の振りをしてくれ」
そうして今後の予定をナーデンと確認する。
喋る仮面の振りをするため、新たに別の仮面を購入することに決めた。
ナーデンは近所の雑貨屋で豊穣の神をモチーフにした仮面を購入し、それを渡してきた。
*
教会の敷地は一面に石畳が引かれていた。
夜になれば辺りを照らすであろう光の魔道具が街灯として大量に設置されている。
教会は小高い丘の上に建っているので辿り着くには長い階段を登っていかなければならない。
この階段は巡礼の道としても使われ、ワザと利用しにくい場所に建てられているようだった。
気の遠くなるような長い階段を登っていくとようやく教会の入口に辿り着く。
入口に衛兵のような人物が立ってはいるが、道行く人々を見送るだけで特に対応をしたりはしていなかった。
「こちらだ、付いてきてくれ」
そう発するナーデンの後を付いていく。
ナーデンの手には豊穣を司る神の仮面がある、浮く仮面を人前に出すの控えたようだ。
ある部屋の前までいくと仮面を手渡された。渡された仮面を身につけ喋る仮面の振りをする。
案内されたのは四方を大理石で囲まれた窓の無い部屋だった。
入った部屋の中には一人、高位の神官服を纏った若い男がいた。
「待っていましたよナーデン、本当に仮面が浮いていますね、少し驚いていますよ」
「エドモンド殿、この度は『遡及の帽子』の使用許可を出して頂きありがとうございます」
「それは当然です、ナーデンにロザリオの回収を命じたのは私なのですから」
エドモンドと呼ばれた男は持っていた杖を壁に掛け、机の上にあった帽子を手に取りこちらに歩いてきた。
「仮面殿、あなたがロザリオが魔道具に入れられるところを見たというのは本当ですか」
エドモンドという男は仮面に臆することなく話しかけてくる。
「うむ、教会の要請にしたがってここまで来た、ロザリオの捜査に協力しよう」
「本当に喋るのですね、豊穣の神の仮面ですか、もしや豊穣神様の使徒なのですか?」
「我はただの仮面だ、それ以上でも以下でもない」
(なんだ豊穣神の使徒って)
「そうなのですか、豊穣神の使徒でしたら色々お話を伺いたかったのですが」
「エドモンド殿、そろそろよろしいでしょうか」
「ああすまないねナーデン、『遡及の帽子』だったね」
そういってエドモンドは持っていた帽子を手渡した。
「仮面殿、いまから『遡及の帽子』を使います。これを被ったら例の事件を思い浮かべてください。被ると当時の出来事が鮮明に思い出せるはずです」
「分かった、試してみよう」
「後ろの部分は私が手で押さえます」
そう言ってナーデンが帽子を仮面ごと被せてくる。
仮面だけだと帽子に埋もれる、その為の対処だ。
「仮面殿、当事の事を思い出してくれ」
そう言われて事件の事を思い出そうとする。
(確か男が持っていた蛙を落としたんだよな、その後確か)
当時の事を思い出そうとするといままで靄の様に掛かっていた記憶が鮮明に思い出せた
(そうだ、この後男は中のロザリオを確認する為に蛙の背中についていた番号を入力していた。
確か番号は―――)
ナーデンに思い出した番号を伝える。
「ロザリオは別の部屋に保管してある、いまから取り出してみよう」




