21 見られた仮面
昨夜の内にいつもの寝床に戻った。
ナーデンは屋敷に留まるようにいってきたが正体がばれるのを危惧して断る事にした。
翌日スラムの入口に馬車をつけるのでそこから合流し、そのまま一緒に教会まで行く予定になっていた。。
当日、出口に向かう前に今所持している貴重品の確認をする事にした。
階段下に隠した金貨はまだある、ゴミ捨て場で拾った指輪も変わらずにそこにある。
確認の為取り出した指輪に触れる、魔石に触れるとそれは鈍い光を放った。
この指輪にはどのような効果があるのかは分からない、もしかしたらナーデンに聞けば分かるかもしれない、だが確認するとしても後だろう、ロザリオに関わるゴタゴタが終わってから聞けばいい、そうクロは判断した。
貴重品を全て階段下の隅に隠しなおす。
(まずは目の前の問題を解決しよう)
約束の時間はもうすぐだった、夜が明ける前の暗い時間。
浮く仮面を他人に見られないようにする為のナーデンの配慮だったのだろう。
だが朝早すぎて起きるのがつらい時間だった。その為早足で歩いてギリギリ間に合うくらいの時間になってしまった。
そう、クロは急いでいたのだ。
だから気がつかなかった。
クロが寝床を出た後、入れ違うように一人の人物が廃墟に入っていった事を。
*
なるべく人通りの少ない道を選んでいた。
まだ日は昇っていないが浮く仮面を見られて騒ぎになると困る。
誰かに見られないよう慎重にかつ大胆に進む。
「うわぁ!」
誰かに見られてしまったようだ。
その人物はこちらを見て震えている、フードを深く被っていて顔は良く見えない。
(あれ?このフード、ナーデンに捕まってた泥棒じゃないか)
「か、仮面が、浮いて」
このまま去っても良かったのだが、黙って去るのも何か違う気がしたので語りかける事にした。
「少年、盗みは良くない。悪いことをすれば大なり小なり必ず報いを受ける。これからは清く正しく、人のために生きるのだ」
クロは少年といったが良く見ると少女だったかもしれない。
ただ間違いを訂正してもどうにもならない気がしたのでそのまま通すことにした。
「え?え?」
泥棒は何が起こったのか分からず混乱している。
誤魔化すために語りかけたのでこれでいい。
クロはそのまま泥棒を置いてその場を去った。
*
スラムの出口に辿り着くと既に馬車が横付けされていた。
「お待ちしていました仮面殿」
隻腕の従者タナートがこちらに気がつき声を掛けてくる。
ナーデンも僕に気がついて近づいてきた。
「仮面殿、ここに来る途中トラブルに巻き込まれたりはしなかったか?」
「大丈夫だ、人に見られて悲鳴を上げられたがうまく乗り切った」
ナーデンの顔が引きつっている、だがクロだって喋る仮面の振りはもう嫌だった。まともな対応を期待されても困る。
(察してくれ)
用意された馬車に乗る。
それなりの広さがあったが念のため隅のほうに座ろうとした。もちろん正体がばれない為だ。
そう思ったがナーデンが先に乗り込み奥の方に陣取っている。
(うーん、体が触れたらばれるだろうし少し離れて座ろうかな)
タナートが馬を引いている、御者をやるようだった。
馬車に乗り込み数刻、特にやる事も無いので暇になってしまった。
馬車の奥に居るナーデンに話しかけようともしたが、馬車の隅でうずくまっていて顔も険しい、とても話しかけられる雰囲気ではなかった。
(ええ?なんでピリピリしてるの?)
先ほどから自分が履いているズボンをしきりに気にしている。
ズボンの裾を引っ張ったりしながら顔を歪めている。
サイズでも合わなかったのだろうか。
ならばとタナートに話しかける。
「タナート、君はこの仕事長いのか?」
「私ですか?そうですね、この家に仕えて20年ほどになります」
「そんなに長く続けているのか、護衛に御者、大変なのに良く続くな」
言ってから気がついたが雇い主の前でする話ではなかった。
だがナーデンは相変わらず自分のズボンの裾をいじっている。
話を聞いていないと判断してそのまま会話を続ける。
「働き甲斐があるのもそうですし、それに妻も子供もいますから、私が稼いで家にお金をいれないと」
まさかの所帯持ちだった事に驚きを隠しきれない。
タナートの顔はお世辞にも整っているとはいえない。
頭皮も心なしか後退しているような気がする。
(このおっさん出来る)
「タナートは父親なのか」
「今年で12になる息子と10になる娘がいます、息子の方は最近反抗期で、あまり話せていないんですよ」
「その年頃の男子は皆そうだ、怒らず毎日話しかければいい、そのうちまた話してくれるだろう」
「ですよねぇ、分かってはいるんですが実際親の立場になると難しくて」
(なぜ僕は太ったおっさんと家庭の話などしているのだろう)
ナーデンを見ると相変わらずこちらに無関心だ、しきりに自分のズボンを摘んでいる。
(サイズが合わないなら履き替えたらどうだ)
「下の娘は無視はしないのですが、なぜか自分の洗濯と私の洗濯を別々にするんですよ。カゴに一緒にいれるのも駄目って怒り出すんです、でも反抗期が終われば元通りですよね」
「それはちょっと厳しいな」
「き……厳しいとは?」
「反抗期が終わる頃には嫁に行ってて別々に暮らしていそうだ」
「うちの娘は嫁にいかせるつもりはないですよ!」
(親って大変だな)
そんな会話を続けながら馬車に揺られていると大きな通りに差し掛かる。
この道をしばらく進むと教会に着く。
教会に着いたら『遡及の帽子』を使って記憶を呼び起こす手はずになっていた。
(なんだか緊張してきたな)
近くには整備された公園がある、そこにはお手洗いらしき小さな建物も見えた。
「タナート殿、一度止めてもらってもいいだろうか」
「いいですがどうかされましたか?」
タナートが馬を操り馬車を止める。
「少し気になる事が合ってな、直ぐに終わる、ここで待っていてくれ」
「そう言うことでしたら待ちますが……」
「仮面殿、なにかあるのでしたら私も付いていきますが」
ナーデンが心配になったのか声を掛けてきた。
「いや、たいした事ではない、直に終わる、もしかしたら気のせいかも知れんのでな」
そういって馬車から降りる。
(この尿意は気のせいではない)
*
用を済ませ馬車に戻ろうとするともうすぐ日が昇る時間になっていた。
あたりはとても静かだった。
スラム周りでは夜明け付近では鳥の鳴声がうるさいのだがこのあたりは本当に静かだ。
もうすぐ夜明け前なのに道行く人が少ない。
いや、人がいない。
こんな事があるのだろうか、高級住宅街ではこれが普通なのだろうか?
不審に重いながらも馬車に近づく。
「戻ったぞ」
そう言って馬車に戻ろうとしたが何かにぶつかった。
ぶつかった衝撃で付けていた仮面が取れる。
こんな見通しのいい場所で何かにぶつかるとは思えなかった。
手を前に出してみる、すると一瞬だけ薄い何かが見えた。これは透明な壁?
透明な壁の向こうでタナートが困惑の表情を見せた。
「こ、これは!?ナーデン様!」
「なんだ、何があった!?」
馬車の中からナーデンが慌てて出てくる。
タナートはしきりに透明な壁を観察していた。
壁に気を取られすぎたのだろう、建物の影から飛んでくる細い何かに気がつかなかった
「タナート!躱せ!」
ナーデンが叫ぶ。
投げられた細い何かを交わそうとしたが交わしきれず、足に刺さってしまったようだ。
それを皮切りに建物の影から複数の人影が出てきた。
全員がフードを深く被り顔は見えない。
各々が手に何かしらの凶器を所持している。




