20 もう喋る仮面の振りは疲れたああああ
スラムを抜けると住宅街がある、そこからさらに北東に向かうと富裕層や中流貴族が住む高級住宅街に辿り着く。
その中の一軒、門には高い金属製の柵が設置されており、周りは白い綺麗な石で囲まれた屋敷があった。
守衛などはいないようだが庭には使用人らしき人物が複数おり、庭の手入れをしている。
クロはナーデンとタナートの少し後ろを付いて屋敷の前まで来ていた。
仮面はナーデンが手に抱えている。
ここに来る途中、通行人が驚くからと浮いたり喋ったりするのは控えるように言われていた。
(しかし僕はなぜ喋る仮面の振りなどしてしまったのだろうか?先ほどの自分に言い聞かせてやりたい、もっと冷静になれと)
「仮面殿、中へどうぞ」
仮面が浮いているようにみせる為、ナーデンの手に触れないようゆっくりと仮面を取り、顔に装着した。
「ああ、失礼する」
庭で手入れをしていた使用人達が宙に浮く仮面を見て驚いていたが、なぜか皆すぐに納得したような顔をして仕事に戻っていった。
(なんだ?あんまり驚いていないぞ?)
喋る上に宙に浮く仮面など見たら騒ぎになると思うのだが。
屋敷の中に入るとそこかしこに美術品が置いてあった。
どれも装飾が凝っている、いったいいくらするのだろうか。
美術品を観察しているとほぼ全ての美術品に魔石のような物が付いている事に気がついた。
もしかして全て魔道具なのかもしれない。
魔道具はダンジョンと呼ばれる古代の建築物から出土する。
ダンジョンの浅い部分からは日常的に使われる魔道具が出てくる事が多い。
それに対し強力な力を持つ魔道具はダンジョンの深層部分から出てくる。
ダンジョンは古代人の住居であり防犯装置だ。
魔道具を盗もうとする外敵への攻撃は容赦が無い。
ダンジョンに潜りそのまま帰らぬ人になった者は何人もいる。
もちろん命がけで入手した魔道具は価値ある効果を持つものが多い、値段だってそれなりにはなるだろう。
そんな魔道具が先ほどから大量に展示されている、うっかり壊してしまわないよう気をつけなければならない。
しばらく歩くと石造りの灰色の扉が見えてきた。
ここに来るまでの扉は全て木を使用し、細かい模様が刻まれた扉だったのだが、この扉だけ無骨な灰色の扉だった。
「仮面殿、この部屋は部屋自体が魔道具なのです。名を『守護兵の箱庭』といいます。扉を閉めれば何をどうやっても外に音は漏れません。」
部屋の中に入ると無機質な灰色の壁が目に付いた。中央には机と椅子が置いてある。
書類仕事をしていたのだろうか、机の上には筆と数枚の紙が乱雑に置かれていた。
タナートが椅子を引こうとしていたが動きを止めた。
仮面相手に椅子を引くのはおかしいと思ったのだろうか。どうしていいか分からないようであたふたしている。
二人は座るのが失礼だと思ったのか立ったまま仮面を付けた僕と向き合った。
「仮面殿、まずは我が家までお越し頂きありがとうございます」
「前置きはいい、我に聞きたいことがあるのだろう?」
「はい、実は先ほど申したとおり、我々はある事件の捜査をしているのです。その事件というのは教会が所持する魔道具『聖人のロザリオ』の盗難です」
「その『聖人のロザリオ』を我に探して欲しいという事か?」
(どうでもいいけどこの喋り方疲れるな)
「いえ『聖人のロザリオ』自体は既に取り戻しております。しかしロザリオはとある危険な魔道具と共に戻ってきました、その魔道具の名前は『収納する爆弾蛙』、決まった手順で中身を取り出さないと中身諸共爆発するという魔道具なのです」
「取り出す手順は盗んだ男が知っているはずでした、ですが男は事件の後亡くなっています、この世に正式な手順で中身を取り出せる者はいなくなってしまいました」
ならば『聖人のロザリオ』を取り出すのは不可能なのではないだろうか。
(しかし蛙か、最近何処かで見た気がする)
「そこで使用したのがこの魔道具です」
そう言うとナーデンは懐中時計を取り出した。
「これは『リードの針時計』。持ち主の心を読み、最善を指し示す魔道具です。この魔道具が指し示す先を辿って言った結果、あなたに辿り着きました」
ナーデンが喋り終わるとタナートが間髪いれず言葉を続ける。
「仮面殿、何か事件について知っている事があれば教えていただきたい」
二人は真剣な顔でこちらを見ている。
そんな事を言われてもな、特に思い当たる節が無い。
「どんな些細なことでも構いません、何か知っている事はありませんか?」
(ロザリオに蛙か)
(蛙?)
蛙といわれて思い出す、先日、勝手に部屋に忍び込んで蛙の置物を置いていった者がいた。
窃盗ではなく物を置いていくという訳の分からない行動をしていたので覚えていた。
あの蛙は爆弾だったのだろうか。
不審には思ったが忙しくて放置していた。
「そういえば我の住居に勝手に侵入し、蛙の置物を置いていった者がいたな。後日また訪れて何か作業をしていた事は覚えている」
「それは本当ですか!?」
ナーデンが身を乗り出してくる、期待させてしまって申し訳ないのだが手順などは覚えていない。
「だがどのような手順だったかは覚えていない、至近距離から作業の様子は見ていたがな」
「それならば教会が所持する魔道具に『遡及の帽子』というものがあります。古い記憶や薄い記憶を呼び起こす事ができる魔道具で、それを使えば当事の事を思い出せるはずです」
「ナーデン様、いきなり使用申請をしても許可は下りないでしょう。一筆書いた方がよろしいかと」
そう言われてナーデンは机の引き出しから紙を取り出すと何か書き始めた。
部屋の中は筆を走らせる音だけが響いている。
(記憶を呼び起こす魔道具か、なんだか怖いな)
「ナーデン様、一つ気になる事があるのですがよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「あの魔道具は人間に使うものですが、仮面殿にも使えるのですか?」
ナーデンは何も答えず、辺りに沈黙が訪れた。




